第44話:アルトは、『バグ』の存在を知った。
色々と疲れました。
――Side アルト――
「―――俺が、消滅する?」
「うん。―――この話するには、まず君に宿った力――パワーから説明しなきゃいけないんだ」
パワー……というと、【創造主】の事なんだろうか。急ぎたい気持ちもあるが、なんだかいつもバカやってるユースがいつに無く真剣な顔になってるという異常事態なので、とりあえずは話を聞くことにした。……でも、手短にしろよ、ユース。この話を聞いた後、ちゃんと皆を助けに起きなきゃいけないんだから。
「転生する生き物にはね、新しい能力値が分配されるんだ。大抵は平均的な能力値を分配するんだけど……ボクも"ほぼ"全能……全能って訳じゃないから、何億人かに1人、『バグ』が発生しちゃう」
「……それが、俺って訳か」
俺の問に、静かに頷く転生神のユース。生まれたときから「なんかおかしいな……」とは思っていたけど、そういうことか。俺の場合はなんだろうか、【チカラ】と【成長度】がバグっていたのかな。
「まぁそんな感じ。―――【チカラ】と【成長度】は異常すぎるぐらいに高くてさ、そのほか、【力】とか【素早さ】とかの基本的な能力も元から高かったんだ。君がお爺さんやお婆さんの体術とか魔法を早く覚えられたのは【成長度】が高かった所為だね」
【創造主】は、【チカラ】の値がぶっ飛ぶほど高かったからみたいだな。勿論、そのステータスが高ければ高いほどその世界で活躍できるだろう。現に、俺はエクシル魔法学園という狭い領域ではあるけれども、活躍はしている。―――で、それと俺が消滅する話には、何の関係があるんだ? 聞こうとしたが、俺の思考を読み取るユースにその必要は無かったらしい。
「ボクが言うのもなんだけどさ、シューバ君はお気に入りなんだ。人当たりもよくて高圧的な態度を取らないし、何より『バグ』の関係で能力値が高い。ボクが人間だったら、すぐさま求婚してるよ」
―――え? コイツ今、なんか重大なこと言わなかったか? いや言ってない。確かにユースはバカだが容姿は良すぎる位だし、多分元の世界だったら自分の方から一目惚れしてそうだけど俺の鼓膜はそんな事感じ取ってないからな!
「ごめんごめん――――――それでさ、君はボクのお気に入りな訳なんだけど、でも君は『バグ』だからさ。他の転生者に出来る事が、出来なくなっちゃうんだ。その最たる例が、『緊急再分配』って言うモノなんだよね」
「イーアールディー?」
さっきのは本気なのか冗談だったのか……まぁそんなことはどうでもいいか。と、ユースの口からなんだか聞きなれない言葉が出てきた。つまり、その『緊急再分配』ってのが俺の消滅と関わってるみたいだ。
「そう。『Emergency ReDistribution』、略して『E.R.D』ね。……コレは転生者が危険な目にあって死にそうになったときに、私が常日頃ストックしている『雫』を分け与えてその危険を乗り越えることを言うんだ。危ない目に遭って間一髪で助かったって話は、よく聞くでしょ?」
「まぁ。……その何人かはユースが転生させた転生者で、ユースが『雫』を分け与えてその危機を回避してる……そして、俺にはそれが出来ない。こんな感じか?」
大体、ユースの言うことが読めてきた。そして、その内危険な目に遭う俺は、『雫』を分け与えられないが為にそのまま成仏と。そういうことか。転生した身だけど、なんだか哀しいな。勝手に正解と決めつけてそんなことを思っていた俺だったが、ユースは先ず首を縦に振り、それから首を横に振った。どっちだよ。
「正解。……と言いたいとこなんだけど、君が危険な目に遭って死ぬかもしれない! ってのは早々無いでしょ? だから、ちょっと違うんだな。これが。―――――――――ボクが言う『雫』って言うのは、いわば『生命エネルギー』のこと。日を経るごとにそれは減っていって、コレが無くなると人は死んじゃう。事故とかでは、自分の生命エネルギーが一気に削られて大怪我して死んじゃったり、即死したりするんだ」
此処まではOK? と、ユースは俺に問う。まぁ、そのくらいの事はわかる。首を縦に振る俺。
「そこで私が『雫』を分け与えると、無くなるはずの『生命エネルギー』が充電されてその人はまだ生きることができるんだ。君が元居た、あんなに医療が発達した世界は多いわけじゃない。むしろ少ない方だから、このシステムで転生者は長生きが多いんだよね。……そこで、君の話に戻る」
なんだか話がものすごく飛翔してた気がするが、俺の話に戻ってくることができたということはそこまで飛び出してはなかったようだ。とりあえず、やっと俺の話に戻ってきたんだ。コレは大事だと思う。
「君は【創造主】のせいであまりその危険な目に遭わない分、ボクから『雫』を受け取れないばかりか、君は『生命エネルギー』だけじゃなく、『生命エネルギー』の上限自体を消費してしまうんだ。……分かる?」
上限を削る? つまり、……アレか。生命エネルギーを入れるカップがあって、普通ならその中にある水……生命エネルギーが零れるだけ。だけど俺の場合はそのカップの高さが削られていく。……いや、まぁ段々ほっそりした物になるのかもわからないけど、意味的には同じか。
「そういうこと。そしてその体力上限は3回で限りなく0になって、残ったエネルギーも十数分で無くなっちゃう。それで体力は0になり、君は消滅しちゃうって訳さ」
……。
……。
数秒考えた後、鉛やら何やら錘を数十個付けた様に重くなった口を、やっと開くことが出来た。
「――――――そうかい。
なら、後2回は無茶できるって訳だな、理解した」
つか、【創造主】で殆どカバーできるし。余程の事しない限り、俺は、まだ死なないわけだ。なんだ、それだけのことか。変な真理を開いてしまった俺を、ユースがポカーンと見つめる。まぁ、「後2回で死ぬ」を「後2回は無茶できる」に変換すれば、そりゃビックリものだろう。
けれどユースは、閉じた口から空気が漏れ出すのを皮切りに軽く笑い始めた。そんなにおかしかったか、俺。
「アハハハハ! シューバ君、やっぱり君はそういう考え方すると思ってたよ。……その通り、後2回は無茶できるんだ。……さて、そろそろ起きてもらいますか!」
「やっと来たか。ちゃっちゃと要点だけを話せば、もっと早く起きれたって言うのによ」
「君が話に熱中するからいけないんでしょ? ま、ちょうどいい感じだよ。ヒーローが登場するには、ピッタリのタイミングだ」
腕をグルグル回し何時もの感触なのを確認すると、ユースの顔は何時もの楽しげな笑顔に変わっていた。何時のまにかその横に有るブラウン管テレビの映像は砂嵐になっていたけど、俺が行くからには、もう大丈夫だと思うぜ、皆。
「本当はこの話するの、もっと後だと思ってたんだけどね……この世界の大悪魔って奴? 意外と発達しちゃったみたいでさー……」
困ったようにそう口を動かすユース。
……ん、なんだその「この世界は私が作りましたー」みたいな言い方。世界ってやっぱ、神様が創ってんのか?
「あ、ボクじゃなくて。この世界はボクの友人が作ったんだ。結構良い世界でしょ? だからさ、君もこの世界を目一杯楽しんでよ。君は死ぬには、まだ早いからさ。……ん、もう起きるっぽいよ。じゃ、またね、シューバ君」
「あぁ。……なるたけ、もうお前に会わないように努力する」
俺は「もうそういう目にあわないように努力する」と言ったのだけど、脳の皺が無いだろうと思わせるバカっぷりのユースは「お前にもう会いたくない」とそのままの意味で捉えてしまったらしく、半泣き、半怒りで俺を見送ってくれた。
と、それがその時の俺の『思想空間』……だったか? 最後の映像になり、俺の意識はまた闇へと堕ち……。
―――――― 一瞬後には、この世界が視界を埋め尽くしてくれていた。
しかし、テンプレな展開だ。だがそれが良い。なぜならテンプレというのは、確実に仲間が助かるからこそテンプレなのだから。
――――――やりますか。
――――
――Side エイナ――
もうダメだと諦めたくなったことなど、エクシル魔法学園に入るまでに何回も無かった気がする。
強いて言うとするならば、俺がアルトと始めて出会い、エクシル魔法学園に入ることを決めた、その後の日々とか。でも、それは諦めたくなっただけで、その先に明確な『死』があることなど、一度も無かったはずだ。
けど、今は違うのだ。自分たちがもう動けないと弱音を吐いても、俺の親父やお袋のように「少し休め」なんて言ってくれる筈も無い。弱音を吐けば、そこで人生終了。1度入れば絶対に抜け出せない『死の世界』へと、俺達は問答無用で連れ去られてしまうのだ。
「あらあら、まだ立ち上がるつもりですか? 諦めて、さっさと意識を手放せば楽なのに……」
「生憎、まだ両脚は動くんだ。俺達が動けなくなるまで邪魔させてもらうぜ。……アルトは、そう簡単にはやらねぇよ」
唐突だが、俺は今絶望的な状況だ。ダントとリスニルはかなりダメージを負い、立っているのが精一杯といった所。ラウスは……俺達の隙間を掻い潜ってぶっ飛んでくるハーセの魔法に何度か当たり、満身創痍といったところ。俺も、魔法や剣に数回当たった。
だが俺は、右腕が折れても左脚から血が流れ出ようと、倒れてそのまま死を待つようなことはしない。立ち上がることが出来れば立ち上がる。両脚がやられれば、立てなくても剣を振り上げる。《伸長》があるしな。皆も、自分の使命を遂行する意思はまだある。そのための力もまだ残っている。
……アルトは俺の、一番大切な友達だ。そんな奴を勝手に持っていかれちゃ困る。もがいて、足掻いて……それでダメだったら、あの世でアルトにすまないと言わなきゃな。
「《聖礫槍》ッ!!」
「《突き抜ける大地》ッ!!」
「《伸長》!! まだ終わってないんだぜぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
ダントは、先ほどの槍の雨を。リスニルはまだ見たことの無い魔法。だが、ハーセの足元に巨大な魔法陣が描かれている所を見ると、あの場所からデカい槍が……という感じなのか。そして俺は、その2人の魔法と同じタイミングで、刀身を長く、そして、横に振った。
上からは、一つ一つが殺人級の白く輝く槍の豪雨。下からは、山のように突き刺す大きな鋭い鉄の塊。そして横からは、先端の速度がバカみたいに早い、剣の薙ぎ。
3つの攻撃を目の当たりにして。そしてハーセが何をしたかというと。それは確実に俺達を絶望の底へと突き落とす行為だった。
「そうですか……。それでは、さっさとお眠りください。―――――――――《貫け、闇の陽光線》」
魔法が消失する剣でも、この3連撃ならば1つは届くだろうという―――――そんな目測も、今思えば甘い物だったのかもしれない。
ハーセは剣を持つ右腕を太陽にでも伸ばすかのように上げて……一気に振り下ろす。その途端に、ハーセの周りには黒いドームのような……アルトが双頭龍戦で使っていた《聖域》の黒い版のようなモノを形成し始めた。
1秒後、ハーセを潰そうと飛んでくる槍、突き上げる槍、薙がれる剣……その全てを、黒いドームは受けきった。半透明の為外から見えるハーセの顔は、微笑みのまま、全くと言って良いほど変化していなかった。
……コレでさえ、アイツには無力なのかよ……?
あの黒いドームが何を為すか、そんなことを気に出来なかった。3つの攻撃を受けきった所を見ると、冷静に考えればカウンターかそんな類だろうと思えたが、考えることさえ無理だった。攻撃が全く効いていないことで、俺の脳裏には『死ぬ』という明確な二文字が立っていたのだから。
……俺は、死ぬのか? 友達を守れずに死ぬのか? 未練を残して死ぬのか?
どんな言葉にも『死ぬ』という文字が付きまとった。あの大悪魔から放たれる何かによって、俺の意識は闇に飛ばされる。そんな想像が頭の中を駆け回って、どうも、頭がおかしくなりそうで。
……ドームが少し膨張したかと思うと。そのドームは一気に膨れ上がり、俺達を飲み込まんとした。アレに触れて死ぬか、飲み込まれて苦痛を当てられて死ぬのか。どっちにしろ『死ぬ』二つの想像を受けて、俺は目前に迫った半透明の黒を、ただただ見ているだけだった。
そして、もう少しで俺に届くといった時に、俺は情けなくも、1つお願いをしてしまった。
(……アルト、助けてくれよ……)
俺がバーディン相手に闘っていた最中、密かに「誰か、助けて」とお願いをしたときみたいに。情けないと思いながらも、人間というのはついついしてしまう物。あの時は、運よくアルトがバーディンを殴り倒してくれた。
2回目となったそのお願いは。
「――――――あのヤロー。ピッタリのタイミングって、そういうことかよ……。お前ら悪いな、遅くなっちまったぁぁぁ!!」
また、叶えられた。
俺の視界に、影が掛かった。その原因となった人影は少年の背をしていて、そして前に有る物を殴るような動作をした後、右腕を前に、俺の剣なんか比較にならない速度で、前に突き出した。
ガラスが割れるような音がして、その瞬間、アルトが殴った部分から黒いドームは一瞬で砕け散った。不覚にも、ちょっと綺麗だと思ってしまった。
アルトはゆっくりと体勢を直すと、俺の方へと向き直った。その顔は笑顔で、それを見ただけで俺は脱力し、地面へとへたり込んでしまった。あぁ……アルトにこんなの見られるとは、ちょっと恥ずかしいんだが。
「ちょっと話が弾んじゃってよー……ま、とりあえずもう大丈夫だから。って、言うかさ」
アルトは一旦話を区切ると、俺の頭をわしゃわしゃ撫でて、こう言った。
「俺のために、ありがとな。アイツは俺がぶっ飛ばす」
気付いたら、泣いていた。また恥ずかしい姿見られたなー……と、俺は先ほどのように動けないようになってしまったが、そこには先ほどと違って、大きい大きい安心感が有って。俺は、アルトが大悪魔を倒す瞬間を、見守ることにしたのだった。
遅くなっちゃいました。夜来です。
結構更新速度が落ちてますが、コレよりまた遅くなるかも……。
ゆっくり書いていくので、どうかご了承ください。




