第40話:アルトは、とんでもない物を目にした。
少し遅めのあけましておめでとうございます! そして遅くなってすみません!
お久し振りの夜来です!
さて、今回も読者様からネタをもらいました。
reinさん、勝手に使わせていただきます、ありがとうございます。
――Side アルト――
ダントに依頼の事を話してから数十分後。俺達は、寮の広間へと集まっていた。いろいろ雑誌とかソファとか置いてあって、憩いの場だな。
「俺達」というのは勿論「Nameless」のことで。俺、エイナ、ダント、リスニル、ソフィ、ラウス。6人全員集合完了っと。
テーブルを囲んで座る。円陣みたいだな。
「―――それでは、アルト=シューバが持ってきたこの依頼。どうするか決めたいと思う」
リスニルがそういうなり、ガタッと立ち上がって力説する者が1人。このチームに「力説」する奴なんか、普段は1人しか居ない。
「俺は賛成だぜっ!! 聞けば「大悪魔」の討伐らしいじゃねぇか! 名前だけで強そうな相手と戦えるなんて、剣士の血が騒ぐぜっ!!」
「……やけに元気だよな、エイナ」
「おいおいアルト、よく考えてもみろよ。だって「大悪魔」だぜ? 「『大』悪魔」!! 名前に『大』が付く奴は、大抵普通より大きかったり強かったりする奴だろうが!」
……いやさ、別に俺無気力って訳じゃないんだよな。だって依頼持って来たの俺だし。これでも結構ワクワクしてる。
普通じゃないのはエイナのほう。気合入りすぎだろ……。瞳にサラマンダー(火トカゲ。決して○ケモンでは無い)が乗り移ったかのように燃えてるな。
……まぁ、エイナの「『大』付けば強い」理論はあながち間違っちゃ居ないけどよ……それでもこの燃えようは半端無いな。血液煮えたぎってそうだ。
「……はぁ。依頼は先ほどエイナ=ユーグリッドが言った様に「大悪魔の討伐」だ。サタナー・エリア近辺、ヴァードの丘に出没したらしいソイツを狩ることが、今回の依頼らしい」
ガフリア国で1番サタナーエリアに近い――この場合の「近い」というのは地理的な話だけでなく、サタナーの魔獣が沢山出没すること――ヴァードの丘。人間は丘を避けて住んでいて、時たま丘を抜け出してくる魔獣たちがいるが比較的弱く、簡単に退治出来たらしい。
だが、今回の相手は格と言うか、レベルが違った。「魔人」である大悪魔は、『悪魔』という種族の中でも上位のレベルだ。下位互換である小悪魔や悪魔でも厄介だというのに、大悪魔となると全く歯が立たない。そこで、「Hero's Blood」に依頼したと。
大悪魔を倒し、ついでに丘に蔓延る雑魚魔獣を倒してくれたら追加で報酬が出るという。……ざっと、こんなもんだ。
「あのー……その大悪魔って言うのはどういう魔人なんですか?」
「……それは僕も知りたい」
おずおずと、ソフィが質問。それに続くようにラウスが言う。まぁ、そんな質問あっても不思議じゃないな。なんせ、大悪魔の容姿は一定じゃないんだから。
ある時は、身長3mを越す角の生えた動く人骨。ある時は、体長5mほどのネズミ。ある時は、身長2mほどの人狼だったりと。まぁ様々。
一説によると、『悪魔』という種族は「変化」を得意としており、1個体で変化しやすい、または力を出しやすい姿が違うのだとか。なるほど納得。
「今回の大悪魔は……大きな角の生えた骸骨らしい。大悪魔の姿としては、一般的なタイプだ」
リスニルの言葉からも分かるように、幾ら姿形が様々と言っても同じ姿になる奴は沢山居る。さっき言った骸骨がその典型的な例だな。
他にも、頭も良くて「魔王の参謀」とも揶揄されることが多々有るという。……種族自体を参謀と言うって、どんだけ頭良いんだ、大悪魔。
魔法を使うし、身体能力が良い。図体がでかい為、油断してやられる奴も居るらしい。……まぁ、要するに強いんだな。
「―――それでは、今回の依頼を受けるか受けまいか決めよう。受けたくない者はいるか?」
いきなり直球だな、リスニル。受けたくない奴って、イコールビビリだと思われそうなものだけども。……まぁでも、手を上げたりする奴はいなかった。よかった、ビビリは居ないようだ。安心安心。
「大悪魔なんて、滅多に会う可能性がないですからね! こういう機会に見ておきたいです!」
「……ソフィに同意。……倒せば、何か良い物が手に入るかもしれないし」
「……居ないようだな。それでは、この依頼を受けよう。今日は時間があるし、すぐに「Hero's Blood」に向かおうじゃないか」
「そうだな、他のギルダーに取られる可能性もある。急ごう」
ソフィ、ラウス、リスニル、ダントと続き、皆が腰を上げる。俺は依頼を持ってきた張本人だし、エイナは、最初からやる気満々だ。……間違えたな、「殺る気」だ。
……今思えば、「Nameless」はホントに肝っ玉座ってる奴しか居ないな。ソフィなんか見た目結構弱気そうなんだけど、双頭龍戦で果敢に攻撃してたし。この世界、人は見た目に寄らないなぁ。
……そうそう、依頼書のコピーを貰ったからといっても別にそのチームで保留にしたわけじゃない。他のチームに取られる可能性もあるんだよな。
じゃあ何故その場で依頼を受けてこなかったのかというと、まぁそりゃチームの同意を得られてなかったのと、1度受けた依頼は達成するかリタイアするかしないと終われないからの2つだ。リタイアすれば当然ペナルティで金が減ったり、まぁ色々あるからコピーを貰うまでにしたわけだ。
……お前なら金を増やせたり何でも出来るだろ? ……分かってないな、そこはお前……く、空気を読むんだよ。
――――
―――かくして「Hero's Blood」にやってきた俺達。俺はすぐさま右向け右、掲示板の方だな。さてさて、肝心な「大悪魔討伐」の依頼は……っと。
「お、残ってる。ラッキーラッキー」
幸い、その依頼は他のギルダーズチームに取られる事無く。「copy」の文字が入っていない「Wanted!!」の文字だけが上部に刻まれた紙が微かに揺れていた。
そして、糊か何かで止められていたその紙を手に取った俺。リスニルに紙を渡す。
「……あっ! 双頭龍殺しの皆さん! 今回も依頼ですか?」
受付に近づくと、受付嬢……今回は短い金髪の元気な少女(見た目)が気付いてそう俺達に声を掛ける。うん、まぁそうなんだけd……ん?
なんか、この人おかしい事言ってないか?
「――――――……? 済まない、私たちのチーム名は「Nameless」のはずだが?」
「知ってますよ! ですけども、学園生徒とはいえクエスト初挑戦で双頭龍に立ち向かって成功した例はないですから! 尊敬を込めて、です!」
「……な、なるほど」
…………なんだろう、この妙な感じ。恥ずかしいやらむず痒いやらでなんか不思議だ。ちょっと横を向いてみると、エイナ、ラウス、ソフィと、一様に複雑そうな顔をしていた。ダントは……おいおい、まんざらでも無いって感じだな、おい。リスニルだってちょっと戸惑ってるんだから、こういうときには嘘でもそういう顔をしろy……なんか論点がずれた。
「まぁ良い、とりあえず、この依頼を受けたいのだが」
「はい、……えーと、大悪魔の討伐依頼ですね! この依頼、とっても魅力的なのに誰も受けないので不思議に思ってたんですよ!」
リスニルが受付台に依頼書を出すと、金髪受付嬢は何故かとても納得したような顔をしてそれを受け取った。
それにしても、「誰も受けない」……か。まぁ確かに魅力的だけど。報酬が高めだし。Bランクにしては強そうな相手だから、誰も受けなかったのかな。
いや、それ以前に相手がサタナーの大悪魔って所に問題があるのかな。「魔王の参謀」の名前は伊達じゃないだろうし、負けてサタナーに引きずり込まれたら、何されるか分かったもんじゃないし。死ぬよりも酷い目にあうかも。怖い怖い。
「……それでは、ギルダーズカードを預からせていただきますね!」
リスニルがギルダーズカードを出した所で、俺はある感情に囚われた。
それは、15年前に俺がこの世界で目覚めた直後。あの時に感じた赤ん坊の泣き声と同じような感覚。それは――――――。
「……エイナ、ちょっとトイレ行って来るから」
「おう、行って来い行って来い」
トイレでした。そんな大層な物じゃないが人間の生理現象だから結構大事だよな。確かトイレ我慢し続けるとある時ぽっくり逝くとか聞いたことあるな(注:ありません)
そんな訳でエイナに声をかけ、掲示板の奥にある通路へと向かう。通路の側面にトイレはあり、通路の突き当たりは事務所らしきところらしい。
受付の奥にも扉があり、其処が事務所に繋がっているらしい。やっぱ受付嬢だけ働いてるわけじゃないのか。そりゃそうか。
まぁ、男のトイレシーンなんて完全にそっち方面だから割愛だけど。
――――
数分後、手洗いを済ませた俺はハンカチで手を拭きながら扉を開け、さっさと5人の元へ戻ろうとしていた。
しかし、トイレは現代に近い形なんだよな……不思議だ。神様的な何かが配慮してくれたといわざるを得ない。……まぁ、【クリエイター】で形変えりゃいい話なんだけど。
さて、俺が出て行こうとすると、ふと通路の右――奥に、人影が見えた。……あれは、前にリスニルの対応をした銀髪の受付嬢か?
受付嬢は通路の奥、突き当たりにある事務所への扉の前に立っていた。多分掲示板の辺りからは柱が邪魔して見えないが、此処からならギリギリ見える。
何やってんだろ……可愛い受付嬢だから、気になっちゃうのは男の性というもの。俺はこういうところだけはテンプレじゃないし。これはこれで良いけど。
……もしかして、知られちゃいけないスキャンダル的な何かか!? これは酷い、直ぐにカメラを……違うか。
数秒後、俺はトイレの前で立ち止まったことを心底後悔した。
「ふー……危なかったのぅ……もう少しで制限時間じゃった……」
いかにも老婆といった口調でそう言い放ったのは、紛れもない、先ほどの受付嬢だった。但し、姿はその限りでなく。
銀髪と服装はそのままで、曲がった腰としわの寄った優しそうな顔……服装の所為で時代錯誤と思われそうなお婆さんが、先ほど――2秒ほど前――まで受付嬢が立っていた場所に、入れ替わったかのように佇んでいたのだ。
つまり→受付嬢が立っている→受付嬢が一瞬ピカッと光る、俺は眩しくて思わず目を瞑る→目を開けると、其処には同じ髪の色、同じ服装をしたお婆さんが。
という事が行われたわけだ。つまり、つまり……
ガッ、とそんな音がした。俺は無意識のうちに、トイレのドアを開けてしまっていたようだ。通路に響く、大きな音。
それは当然通路の奥に居る老婆にも聞こえているわけで、俺には、老婆が此方に振り向く無音のはずの瞬間に、漫画のような「ギギギギ……」という錆びた金属のような音を聞いた。確かに聞いた。
老婆がこちらを見て、驚いたような惚けたような顔をして、一瞬の後に此方へと向かってきても俺は動けず。また一瞬の後に俺は首と肩を掴まれ、完全にホールドされた。
「――――――見たか?」
「はい」
「――――――誰にも言うなよ? 言えば……分かるな?」
「はい、……ちょっと1つ質問いいですか」
「なんじゃ?」
「貴女のお歳をお聞かせ願えますか」
「――――――――75歳です! それでは!」
ヤクザだ。完全にそっち方面の人だ。多分【威圧】……みたいなチカラ持ってる。絶対持ってる。
最後は間近であの銀髪少女の姿に戻り、いつも通りの可愛らしい笑顔で、胸を当てられながらとても少女とは思えないような数字を提示し、受付嬢は通路奥の扉を潜っていった。
俺は動けず、数秒……いや、数分経っただろうか。多分魂とかいろいろな物が抜け出たような顔で5人の元へと戻っていった。……トイレ後で本当に良かった。
――――
「どうしたよアルト。なんか色々抜け落ちてるぞ」
「あぁ……まぁ色々と。で、受付は終わったのか?」
「終わったぜ、明日の正午にやっぱり西門集合。ちゃんと準備を整えとけよってさ」
確かに、他のみんなはもう既に居ない。買い物とかの準備に取り掛かったんだろう。エイナは待っててくれたのか。優しいエイナだ。
俺が――――――もし俺が5歳の子供なら、直ぐにエイナに泣きついているな。
……なんか、ため息しか出ない。あんなもん見ちまったもんなぁ……こうなってくると、他の受付嬢全員があぁいうことになってるのか、とか思えてくる。
流石にそれは無いだろうが……多分あの人は、こうして老後を幸せに暮らしてるんだな。よし、もうこの話はヤメヤメ。
「オーケイ……エイナもちゃんと準備しとけよ」
「おぅ……本当に大丈夫かアルト、心配なんだが」
「あぁ、もうなんか様々な物を割り切った。大丈夫だ……夕食一緒に食おうぜ。じゃあな、また後で」
「お、おぅ……」
エイナの心遣いは非常に嬉しいが、俺も俺ですること有るし、尚且つ、早く此処から逃げ出したい……そんな訳で、今日は一旦帰ることにした俺。
代わりといってはなんだが、夕食を一緒にとる約束を取り付けて、俺は颯爽と「Hero's Blood」を後にした。ギルド内に残されたエイナは、なんだか困惑したように返事をして、明日に向けての買出しに向かったのだとか。夕食に関してはまんざらでもないような顔をしていたらしい。
……夕食の件は、ちょっと独りだとやってられない感じに支配されたので言ったっていうのが本音なんだ……すまん、エイナ。
《――――――へぇー、明日正午か!》
ロリババ……ゴホン。
それでは本年もよろしくお願いいたします。