第38話:アルトは、龍を天に召した。
お久しぶりです。
考査やらで大変でした。大学生になるまで安定は無理か・・・。
いや大学生になっても無理か。自分の腕じゃ。
――Side アルト――
結局、リスニルの顔が赤かった謎とダントが妙に自信満々だった理由は分からなかった。
まぁ、分からなくても良いんだけどそういう性分だからなー……気になる。
「――――さて、この後は双頭龍の翼を刈り取り、骸を天に召させ、エクシリアに帰るとしよう。
……それでは、ダント様」
……おっと。今は話し合い――と言ってもただの確認作業なんだけど――の途中だった。
そう、依頼目標である双頭龍の翼は、まだ体と確り繋がっている。持ち帰るなら、切り落とさなければ。
そしてリーダーであるリスニルは、その切り落とし作業にダントを任命した……というわけだな。
「あぁ、それでは―――――行くぞ」
今俺達は、双頭龍の近く……もっと言うなら仁王立ちで息絶えている龍の左足付近にいる。
……《断罪の落下刃》でスパッと切断された2つの首は左脚と右脚の中間辺りに落ちている。体方向を向いているので顔は見えないが、グロいんだよな……血が出てるし。
でも、せっかく日陰があるんだから、活用しなきゃな。自然最高。
ダントは10数歩、双頭龍の後ろ、翼の付け根の付近まで歩き、詠唱を始めた。
「――――――《聖召喚》!! 《聖剣》ッ!!」
お、アレはクラス対抗戦で俺に使ってきたダントの【チカラ】だな。ダントの手に出現したのは、細やかな装飾が施された、白銀に美しく輝く一振りの剣。
「エクスカリバー」という名前のソレは、聖なる力が宿る「聖剣」。勇者エクシルが手にした一振りの普通の剣も、手に触れた瞬間聖剣へと変わったそうだ。
つまり、本来勇者が持つべきそれを、ダントは【チカラ】で再現しているわけ。《聖召喚》で召喚した物も、「聖」で再現された物なんだな。
ダントは、自分の身長より少し小さいくらいの比較的大振りな剣を真っ直ぐに構える。切っ先の真正面には、双頭龍の翼の付け根。
「――――――――――――――――――――――ハァッ!!」
えらく長い間を空け、精神統一でもしてたんだろうか、閉じていた目をカッ! と開くなり、聖剣を大上段に振り上げ、そのまま一気に振り下ろした。
スパン!! なんていう小気味よい音はしなかった。シィン! と「風が斬られる音」だけが聞こえ、その瞬間にはもうダントは振り下ろし終えていた。
少し間が空いて、翼が下にずれた。そのままズルズルとずれていき、最終的には、ドドォン! と小さく音を立てて、2枚の翼が地に落ちた。
此方から見える切り口は、肉を切ったとは到底思えない綺麗な断面。
…………いやぁ、エクスカリバーは包丁として使うべきだな。
冗談はさておいて。其処から少し時間が経ち、リスニルが持ってきていた袋に翼を入れてさぁ帰ろうという時に事件は起きた。
「……双頭龍の骸は?」
ラウスが、静かに問う。……そういえば忘れてた。
今も双頭龍の死体はオブジェのように立ったままで。動く気配はない。
ちょっと迷惑だな。
「―――――!! …………アルト=シューバ。あの骸を塵に返し、天へと召させて欲しいのだが、できるか?」
―――なんだよ、リスニルも忘れてたのかよ……なんて思っていたら、遺体処理係を俺に押し付けてきたリスニル。
まさか、心の声聞いたとか無いよな? 無いよね? 内心はらはらドキドキの俺。
「あーはいはい。どうせ俺は面倒事解決係ですよ。…………面倒だから、一気に浄化するけど」
「……できるのか?」
リスニルではなく、エイナが俺に問いかける。待て待て、お前がそれを言うのはおかしくねぇか?
今日まで俺の【チカラ】を何回見てきたんだ。とりあえず「出来るか」の以前に「やる」。
「普通に火の属性で燃やしても良いけど、後々臭くなるしなー……だから、今日は特別なのを使おうかなと」
「『特別なの』?」
変な物質でも撒き散らして綺麗なローカルド大平原(もう血で汚れてるが……)が汚くなったら大変だ。
そこで、「こういう時用」の魔法を使ってみることにする。元々人の火葬用だが、思いっきり出力を上げて龍を火葬だ。
「あぁ…………まぁこんな感じだ」
そう言って、右腕を引いた俺。正拳突きと同じような構えだな。だけど、違うのはこれから放つのが拳ではなく、魔法だということ。
エイナは「?」を顔に浮かべているが、百聞は一見に如かず。見たほうが速い。
「『汝、清骸を灼く白き焔也。御魂を天へ送り届け、その役を全うせよ』」
今日は気分的な問題で詠唱をしてみる。
詠唱の文面からも分かる通り、火葬は火葬なんだけど、傷をつけずに火葬する。「昇天魔法」。
そして、本来の魔法の名前は――――――――
「《浄火》ッ!」
引いた腕の掌に、白い粒子が集まってきたかと思うと、それは瞬く間に小さな炎の様な格好へと姿を変える。色は、普通では考えられない白色。
それを俺が、腕を正拳突きの要領で軽く前に……直線状に双頭龍が入るように突き出し、炎を飛ばした。
無論、絶命していてもう動くことが無い双頭龍にそれを避けられるはずはなく。
避けてもらっても困るけど。遺体限定の魔法だし。
そしてそれが龍に触れた瞬間―――――――――ゴオッ! とその白火が一瞬で龍の体全体を包み込んだ。
白い火達磨になった龍だが、それも数秒。突然、その身に纏った炎と共にパッと消えた。
ローカルド大平原には、塵1つ残らない。あるのは、龍の血と足跡……生きていた証だけ。
「遺体処理完了……おーい? 何ポカーンとしてんだよ?」
「……すげぇな、オイ」
「祖父の火葬をその魔法でしてもらったことが有るが……ここまで強大ではなかったぞ」
鏡を見なくても分かる、満足げな顔の俺。そして、振り返れば、唖然とした顔の「Nameless」メンバーが居た。ダント除く。
エイナ、リスニルがそれぞれ答える。……答えになって無いけど。
――――《浄火》は、死体を炎で火葬する魔法。火葬だから炎の属性魔法。
元の世界の火葬と違うのは、炎を白いことと、10秒足らずで完了するって所か。あと、塵1つ残さない。
この世界でもよく火葬は行われるらしく。「火葬屋」がこの魔法で骸を天へと召すらしい。それでも、さっきの龍の火葬みたいなでかい物は火葬できない。人間が限界なんだな。
俺は魔力を強化、一発で15人ほど火葬できるほどのそれを双頭龍に打ち込んだわけだ。
……そういえば、この世界では「同じ魔法でも魔力を込めれば威力が違う」ことなんて無いって、言ったっけ。
この世界の魔法は「その魔法を使える最低量の魔力」と、「その魔法の知識」が必要。最低量以上魔力を込めたって、上級魔法へと進化するわけじゃない。
そんなことするんだったら、さっさと上級魔法の知識でも頭に叩き込んどけ!! ということ。
例えば、小さな切り傷ぐらいなら治る《治癒》に多大な魔力を詰め込んだ所で、欠損が直ったりするわけじゃないって感じだな。
そういったこの世界の常識を軽々と取っ払う【クリエイター】の汎用さは半端じゃないな。改めて思うけど。
――――
双頭龍の翼を袋に詰め、いざエクシリアに向けて出発。
本当は、昨日野宿した場所でもう一泊する予定だったが、予想以上に早く討伐が終わった為、もう帰還することにしたのだ。
――――ところで、まだ明かしていなかった謎があるのに気付いたのは、ソフィとラウスの会話からだった。
なにやらごにょごにょ話しているので、何だ何だと寄っていき、「何話してるんだ?」と聞いた。
「……えーっと……私達が倒された、ナイフのことについて話してたんです」
「いきなり現れて僕たちを倒していったから、悔しくて……アレは何だった?」
最後のラウスの問いは、どうやら俺に向けて発せられた物のようだった。
まぁ、双頭龍のあの砂嵐に耐えたのが俺だったから、ラウスは俺に問うたようだ。
……そういえば、確かに不思議がっても不思議じゃないな。あのナイフ……まぁ実際にはナイフじゃないけど。
「なんて言うかな……アレは言うなれば「砂」かな。もっと言うと、滅茶苦茶固められた超硬度の砂の塊」
「砂の塊?」「……?」なんて、各々口に出さなくても(ソフィは出しちゃってるが)言いたい事は分かる。
其処で、俺はもっと分かりやすくして言ってみた。
「つまりだなー……グランが土を操って集め、それをウィンが風で乾燥、砂にして、砂嵐として大平原にばら撒いた……」
「……そして、同じくウィンがソフィ・マクエルに傷を負わせたあの《風槍》の要領で固め、それを大量に複製して発射したというわけか」
横からリスニルが割って入る。うん、正解とばかりに首を縦に振る俺。
「そういうこと。風だけだと小さな鎌鼬みたいになってダメージが効率的に入らないから、土……砂で質量を上げたんだろうな」
「……嵐の中に入れたことで、その砂のナイフたちは縦横無尽に飛び交い、私達を全方向から攻撃したわけだな」
次はダントが入ってきた。ハイ、不正解とばかりに右拳を握り締め、腕を引き、ダントの鳩尾に向かって渾身の力を使って拳を打ち放った。
後もう一発放てる正拳突き、3発目。
「オゴァ!?」
「それじゃ《聖域》を使ってたお前が倒れた理由が無いだろうがタコナス。……ウィンは、ナイフを形作る土を包む風「自体を」操って、俺達を攻撃していたんだ。それなら、もし相手が全方位防御してきてもそのドーム内に砂があれば突破できる」
「……ウグ……なるほど……それでは、私の《聖域》は最初から読まれていたわけだな」
「いや、正確には「お前の」じゃなくて「俺の」だろうな。《聖域》連発してたの俺だし」
「……つまり私は、貴様が勝手に連発した《聖域》の所為で勘違いされて倒された、ということか?」
「そういうことだな。ご愁傷様」
「1発殴らせろ、貴様」
「40倍にして返すがそれで良いなら」
結局ダントは殴ってこなかった。何だ、残念だ。41発殴れたというのに。
まぁ平和的解決は良いことだな。双頭龍も居なくなって、無事に翼も回収できたし。金ももらえるし。
ギルダー良いな。夏休み終わっても、冬休みとかにやれば結構な収入が見込めそうだ。良か良か。
―――そうして俺達は双頭龍を倒し、「双頭龍の翼」を手に入れることに成功した。
だが、このときは気付かなかった。俺達と龍の戦いを、密かに見ているものが居たことに。
ソイツは凶悪にして狡猾。悪知恵も働き、「魔王の参謀」と呼ばれるサタナー・エリアの住人。
―――――――――その名は――――――。
――――
――Side ヨライ――
「これは面白い……特に、あの赤茶髪の少年……。我が魔王の為にも、一刻も早く処さなければ」
―――「Nameless」メンバーが居た大平原、その近くの草むら。
其処に、「闇」が有った。大きさはバスケットボールぐらいの球体。しかし、色は双頭龍の血よりも黒い。
光など通さないその球体は文字通り「闇」だけで出来た物。その近くには、一回り小さな、しかし同じ「闇」で出来た球体があった。
「それでは、私が先ほど言った通りに頼みますよ。目的地はエクシリアにあるギルド、「Hero's Blood」ですからね」
流暢なヒュマン・エリアの言葉を話すのは、大きな「闇」の方だ。声は高く、女性的。
「了解です!」
そんな声に反応したのは、小さな「闇」の方だ。此方は大きな「闇」よりも少し低めな少年風の声質。
そして、その小さな「闇」がそういうと同時、その球体は上へと、グングン伸び始めた。
高さ160cmほどの楕円球になった所で、今度は細かく変化を始める。
ぐにゃぐにゃと所々が曲がり、捩れ、折れて……最終的に、その小さな「闇」は、エクシリアの一般的な服装をした、首まである黒髪の少年へと変貌していた。
首を回したり、腕をグルグルと回して感触を確かめると、大きな「闇」の方へ向き直る。
「どうでしょうか!」
「ふむ、よろしい。……あ、それと……これを持って行きなさい。お守りです」
今度は、大きな「闇」が変貌を始めた。球体右上部がグニグニと突き出され……その出っ張りは、やがて人間の腕となった。白く細い、女性的な腕。
そんな腕の先にある手が持っているのは、どうやら、ネックレスのようだった。
細いチェーンと、涙形の輝く宝石がついたネックレス。だがその全部、涙形の宝石は勿論チェーンに至るまで、限りなく黒かった。
「おぉ……あ、ありがとうございます! 綺麗ですね!」
黒髪少年と化した小さな「闇」は、そのネックレスを見て感嘆の息を漏らし、直ぐに大きな「闇」に向かい、ペコペコ頭を下げネックレスを手に取った。
それを首につけると、嬉しそうにはしゃぐ。
「ありがとうございます! それで入って参りますね! ハーセ様!」
「行って来なさい、ブレイタ。「全ては、我が魔王の為に」」
腕を引っ込めた大きな「闇」と、黒髪少年になった小さな「闇」の声が重なった。
その二つの声が、「ソレ」の始まりとなったのである。とある少年が「結末」へと向かう、「ソレ」へと。
伏線になって無い伏線貼りまくりました。
後半の「闇」の話は、この章の後半部分へと繋がっていきますよー!
さて、第2章後半行ってみましょう!