第3話:アルトは、この世界での「普通」を目の当たりにした。
――Side アルト――
さて、俺もあれから3年経ち、13歳となった。
赤茶色の首まである髪はそのままに、やはり少し大人っぽくなった感じがする。自分なんだけれども。
「一般的に【チカラ】が開花する歳」…。 俺の【チカラ】の内容に、俺自身期待している。
俺は、未だナシズ爺とサナブ婆による格闘&魔法のレッスンを受け続けている。
…そう言っても、もう教えられることはほぼ教えたらしく、後は実践あるのみ、という感じだな。
「よーしアルト! 今日はジャンガーの、ミーモの森に行って、実践だよ!」
「気をつけて行ってらっしゃいねアルト! 心配ないとは思うけども!」
ミーモの森…このソツタ村から1番近いところに位置する、ジャンガー・エリアの森林地帯だ。
そこに住んでいるのは、鹿型魔獣のディアノ、猪型だが性格は温厚な魔獣、ボアーナ、その他たくさんの虫型魔獣が殆どだ。
稀に、凶暴な大型魔獣が出ることも有ると聞いたが…まぁ、稀だ。 心配は要らないだろう…そう思って爺さん婆さんは其処を選んだのだろうと思う。
両人曰く、「普通に教えたからだいじょぶ!」 だそうだが(両人は何故か、この後抱き合っていた)、 普通で大丈夫なのか? 俺は軽く心配する。
そしてフラグにしか聞こえないのは、俺だけか?
―――
ということで、やってきましたミーモの森。
ソツタに近いとは思えないぐらいの、深い森林が其処に広がっている。 所々、木々に遮られ陽光が当たらず、暗い場所もあるぐらいだ。
道らしき道も見当たらず、適当に進んでいる。
爺さんが俺に課した課題。 それは「ボアーナを5体狩ってくること」。
その証拠に、ボアーナの尻尾を刈って持ってくるように言われた。 因みにだが、それは珍味として人気らしい。 どうでも良いが。
「・・・お」
そうこうしていると、早速ボアーナ1体を発見。 どうやら、お食事中のようだ。 ちょうど良い。
ボアーナは、お食事に目がないらしいのだ。 そーっと後ろへと近寄り、その尻を…
「…オラァッ!」
「ブモォ!?」
蹴った。 思いっきり蹴ってやった。 それはもう清々しいくらい。
勿論驚いたのであろうそのボアーナは、クルッとこちらを向き、一瞬だけ俺の姿を確認した。 そう、蹴った奴の姿を。
…大切なお食事タイムを邪魔したクソ野郎の姿を。
ボアーナはお食事を邪魔されるとその温厚な性格は何処へやら、凶暴とは行かずも、好戦的な性格へと変貌する。
お食事中がちょうど良いといったのはその事もあって。 やっぱり、好戦的な相手と戦ったほうが実力付くと思うし。
そしてボアーナは、少しだけ前進、そしてこちらに振り返り。
「ブオオオオオォォォォ!!!」
まさに「爆走」。 「猪突猛進」。 そんな勢いで、こちらへ向かってきたのだった。 よし、行くか。
「…ウラァ!」
「ブオォ!」
やはりというか、ボアーナの攻撃、突進は直線的だ、直ぐに曲がれないっぽい。
俺は、遠慮なく爺さんに教わった格闘術と、婆さんに教わった魔法を使わせてもらうことにした。
ボアーナの突進を左側に少しだけステップすることで回避。 あ、ボアーナと目が合った。
俺は、俺の右側を通り過ぎようとするボアーナに攻撃を食らわせるべく、右足を軸に反時計に回転。
回転する勢いを利用して左足を思い切り振る。 元の世界で言う、後ろ回し蹴りだ。
…ボアーナの弱点は、その柔らかい腹だ。 思い切り振った左足の踵は、丁度その腹へと直撃。
直進していたボアーナはその攻撃に対処することが出来ず、そんな鳴き声を上げながら奥へと吹っ飛んだ。
俺はというと、残心を決めながらも結構驚いた。 だって、猪を吹っ飛ばしたんだぜ?
…爺さん。 この世界じゃ、蹴りで猪を吹っ飛ばせるぐらいが普通なのか?
そして、驚きつつもボアーナに止めを刺すためにボアーナが倒れ伏す場所まで走り、両手を体の前で合わせる。
ボアーナは、先ほどの攻撃が効いたのか全く起きる気配が無い、チャンス。
「…《電矢》!」
厨二かよ…。 そう思いつつも魔力が矢になるイメージと共に魔法の名を叫ぶ。 すると、俺の右横に電流を放つ黄色の矢が現れる。
「行けっ!」とばかりに右手をボアーナに向かって振ると、それは俺の思い通り、ボアーナに向かって飛んでいった。
婆さん曰く、「魔法は、魔力がどんな形で顕現するのかが大事なのよ♪」だそうだ。
つまり先ほどのように、頭の中で魔力が矢になるイメージをすれば、矢が飛んでいく魔法になるという、シンプルな理論。
かといって何でもかんでもイメージすれば良いわけでは勿論無く。 そこは、まぁ修行によるんだと。 詳しくはまぁ、別の機会に話そうか。
さて、飛んでいった電流の矢は、見事ボアーナの頭に直撃した。 「バン!」と音がし、その一瞬後にはボアーナの丸焼きが完成していた。
さすが電気。 しかし、電流で猪の丸焼きが完成するのが普通なのか、婆さん。 明らかに雷みたいな音がしたが。
さて、証拠として集めるよう言われたボアーナの尻尾は強引に引きちぎり、「後4体かー…」などと考えていると。
「…?」
それは、足音も無く接近してきた巨大な影。 いや、こちらがボアーナ狩りに夢中になって気づかなかっただけか。
黒い、ゴワゴワしていそうな体毛、3mは優に超すだろう体躯。 今にもギランと光り、狩られる者を見つめ殺そうかという、鋭い目。
「稀に、凶暴な大型魔獣が出ることも有ると聞いたが…」 と、フラグ回収。
「……ギャオオオオオオォォォ!!!」
俺が振り向き、ソイツの姿を確認した直後、ソイツは俺目掛け、突進して来た。
恐竜のような鳴き声と共に。
ソイツの名は、大熊型魔獣、ベアル。 性格は、いたって凶暴である。
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