第35話:アルトは、《嵐壁》を繰り出した。
お久しぶりです。また予約投稿です。
旅行から帰ってきてダラダラと書いていたら11月になってました。死にたい。
――アルト視点――
『《風龍焔》ッ!!』
『《土龍焔》ッ!!』
緑色の頭、ウィンの口から緑色の炎が。茶色の頭、グランからは茶色の炎がそれぞれ繰り出される。
やっぱ、ダントの聖龍が吐く《聖龍焔》並に速い……けど、避けられないほどじゃない。
それぞれ、右に避け、左に避け、しゃがんで避け……空へと舞い上がったりして(勿論俺なのだが……)。焔は、地面に着くと膨大な土煙を発した。
さて、今度は此方の攻撃だ。
「《突け、巨人の拳》」……1番前に出たラウス。走りこみ、右拳を突き出す。不可視の巨人の拳が、龍へと迫り来る。
「《聖刃》!!」……そう叫び、土煙の向こうにいる龍に一撃を与えようと聖剣エクスカリバーを振り下ろすダント。
剣そのものは届かない。だが、白銀に輝く弧が、拳と共に襲い掛かる。
その2つの攻撃。まともに喰らえば、腹に大きな凹みが出来るばかりか、上と下で2分割されるだろう。
しかし、先ほどの5つの攻撃を全てかわした双頭龍の素早さは、半端な物では無いようで。
それから数秒後、突如、猛烈な風がこちら側へと吹き込んできた。土煙の中で風に当たり、思わず咳き込む俺。
だが、土煙は晴れた。今度は俺が……あれ?
「い、居ねぇぞっ!?」俺の近くにいたエイナ。周りを見渡すも、そこにいたはずの龍の姿は無い。
俺も探すのだが、やはり無い。……しっかしなぁ……こういうときには大概……。
「上だっ!」 俺が思うが速いか、リスニルが叫ぶ。あ、やっぱりか。
しかし、そう叫んだ時にはもう遅かったようで。
『喰らいな人間共ォ!! 《華風槍》ッ!』
どこの言葉か、そんな詠唱と共にウィンの口から発射されたのは、一本の長槍。緑色だ。
……ッ! 《龍焔》とは桁違いに速いッ!
だが、その槍が俺達の内誰か1人を貫くことは無く。俺達の中心へと、ズドォン!と突き刺さった。
何だ? いきなり狙いもしない槍を撃ってきて……中心に?
「槍から離れろッ!」俺が叫ぶ。いきなりの出来事で強化は施していないが、それでも後ろへと跳んだ。
「《華開け》ッ!」それと同時にウィンが叫ぶ。
そして、その槍が炸裂した。
ドパアアァン!と豪快な音を伴って。ウィンの声は、どうやら炸裂を起動させるための詠唱だったらしい。
槍は四方八方へとその破片……鎌鼬を飛び散らせる。俺が離れろといったのは、これを予測した為だ。
……何故予測できたか? いやいや、こういうのなんか分かるんだよな、そういう爆散系使うときの戦法みたいなのが。
離れてもなお、鎌鼬は俺達を襲う。《聖域》はドーム状にしか展開できないから、此処は一人一人で防御するしかない。
しかし、時間的な余裕が有った。
俺は反射神経と身体能力を強化、次々に飛来する鎌鼬を最小限の動きで避けていく。右、下、左下、右下、……。
下3連コンボ……なんで下ばかりなんだ……?
「……ッ!」
その答えはすぐに明かされる。俺の隣に居た黒髪少女……ソフィの動きが急激に鈍り、ついには膝を落としてしまう。
ソフィの脹脛からは、赤い液体がドクドクと流れ出ていた。
『ヒャハハハッ! 狙い通りだぁッ!!』
……なるほど、下を重点的に攻めて動きを鈍らせようってか。さすが賢獣、いい頭してる。
それだけじゃない、攻撃に当たった奴を回復する奴も無防備……格好の的。
その2人を守ろうとし、守備する奴が現れれば、後は無双できる……さすがに深読みしすぎか?
即座にソフィに駆け寄る。見ると、結構な量だ。
「大丈夫か?」俺が問う。……いや、大丈夫そうだけど失血多量で死んじゃうと元も子もないからね。
「……痛いです……」辛そうな声でソフィが答える。意識ははっきりしてるが……ふむ。回復魔法の出番だな。
「《福音》」と、詠唱しながら右手をソフィの傷ついた左足に当てる。みるみるうちに俺の手には、白い光が集まってくる……。
これが、聖属性上級回復魔法、《福音》。最上級の回復魔法もあるにはあるが……ちょっと理由があって使えない。
しかし、それでもさすが聖属性といわざるを得ない回復力である。これで消毒・洗浄・治癒をやってくれるんだから、魔法万々歳。
さて……後20秒ぐらいかな。完全に治るまで。最上級のほうだったら、10秒ほどで治ってたんだけどなー……。
『隙ありだァッ!! 《風槍》ッ!!!』
……やっぱり。ウィンは俺に向かい、緑色の長槍を発射してきた。他のメンバーで、俺の防御に回れる奴は……いないか。
だから、普通なら俺は串刺し。俺の前に居るソフィにも、当たってしまうかもしれない。
だが。
俺は普通でないことは、皆良く知っているはずだ。例えば、俺が魔法を同時に2つ以上使えることとかは。
ガキィン!! 金属音がして、俺に向かって一直線に進んでいた槍は木っ端微塵に砕け散った。
その前には、半透明で、薄緑に色づいた四角形の巨大な壁。形は絶えず変わっているが、四角形の形を何とか保っているかのように思える。
ま、これが普通なんだけど。
『な……?』うぃん は、あせ゛んとしているようだ! 槍を吐いたまま固まっている緑頭の龍。
「回復完了……《嵐壁》って奴だ。無詠唱って、見たことあるか?」
ソフィの傷口が完全に塞がったのを確認し、龍へと向き直った俺。そのまま問いかけた。
『……確かにあの少年、先ほども《氷波》を何の前触れも無く出しよったな』
『グッ……グッ!!! クソが……ッ!! 俺の《風槍》は、あんなチンケな壁で破られるほどヤワじゃねぇはずだぞ……』
これでもかというほど猛烈に悔しがっているウィンに、追い討ちというほどでも無いが言う俺。
「あの槍、小さな鎌鼬を風で凝縮して、詠唱で拡散させるんだろ? だったら、その凝縮させてる風を解いちまえば良い。
だから、正確には「破った」じゃなくて「解いた」。俺の《嵐壁》は、常に風が下方向を向くように設定したから、周りには飛ばなかった。
……それだけの話だけど、何か質問あるか?」
スーパー解説タイムを終えた俺。……なんだろうこの爽快感。
「……普通、風属性の魔法も、その上級の嵐の魔法でも、風の方向は弄れないと思うんですけど……」
反応したのはソフィだった。目の前に居るってのに、小さく手を上げちゃってる。
「ま、其処は俺だからな。理不尽だと言われようがリムジンだと言われようが、出来るもんはできるんだよ」
理不尽とリムジンって似てね? そんなことを思いながら言ったのだが、ソフィは「リムジンって何?」って分かりやすく顔に浮かべてる。
そして再び向き直ると、其処には「怒」って漢字1文字が額に浮かんでそうなウィンさんがいまして。
『グランよぉぉぉ……アレの準備しろ。「アレ」のォォォ……』
『……よほど殺したいようじゃの……人間共よ。今の内に逃げねば、死ぬぞ』
もう怒りすぎて狂人の様になってるウィン。最初からそれっぽいけども。
そして、不承不承といった感じで俺達に忠告するグラン。
「は、何をいtt「何を言うか、龍。死ぬのは貴様のほうだ。覚悟しろよ」
……グレイトフルなタイミングで俺のセリフを遮ってくれたダント君。帰り覚えてろよ?
『ならば仕方ない。……死ね』
ゾクッと。寒気が走った。見れば、首を下げて何かを溜めているかのような二つの首。
「チャンスだ、この隙にッ!」……寒気を感じ取ったのか知らないが、リスニルは飛び出し、空中に浮く龍へと《波立つ大地》を繰り出した。
「よっしゃ! 俺も行くぜっ!!」とリスニル、同時に飛び出したエイナ。またもや《伸長》で伸ばした剣を振り、龍を狙う。
『ギャッハッハッッ!! 甘いぜ人間共ォッ!!』
脳に直接伝わるようなウィンの声。……《念話》か。
それがどのような意味なのかは、それが聞こえてから直ぐ分かった。
ガァンッ!ギィン! 土色の衝撃波がその龍へと到達する前に消滅し、馬鹿長い刃はやはり到達する前に、その速度のまま弾かれた。
リスニルはともかく、エイナは直接そのダメージを食らう。後ろへと吹っ飛び、倒れる。
……何の属性も加えない、無属性の「波」……。《衝撃波》か。
エイナが吹っ飛ばされた方向に偶然居たラウスがエイナを助け上げるのを見届け、そう考察する。
《衝撃波》はチャージ中の自身を守る為に自動で展開され、それで攻撃を相殺すると。そんな感じか。
無属性は何の属性も加えず、属性による有利不利がない代わり、魔力そのものを打ち出すために威力は高い。
そんな無属性魔法を使えるのは極少数の人間とこういう賢獣ぐらい。……因みにだが、あのメテリアでも無属性魔法は使えないらしいぞ。
スーパー解説タイム2終了、と共に。向こうの溜めは終わったようだ。構える。
『《終わりを告げる風の刃》ッ!!!』 ウィンが叫ぶ。
『《続きを打ち消す土の塊》ッ!!!』 グランが叫ぶ。
『『《始まりの砂刃嵐》ッッ!!』』
2つの首が同時詠唱をした直後。
ゴォッッ!! という音と共に、このローカルド大平原一帯が、砂嵐に襲われた。
VS双頭龍戦、次回決着です。多分。