第34話:アルトは、双頭龍と戦い始めた。
お久しぶりです。沖縄は楽しい所だね、全く。
――Side アルト――
ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
―――双頭龍の緑の頭、ウィンの咆哮。一瞬の後、ウィンの大きく開けられた口から何かが高速で飛び出してくる。
それは、先ほどウルフィーネ達を貫き、切り裂き、一網打尽にしたあの薄緑の三日月だった。なるほど、ウィンの技なのか。
ウィンはそれを、駆け出した俺達の足元へと撃ち込んだ。先ほどの光景からすると……ヤバくね?
「……! よ、避けろッ皆!」
言われなくてもそうしてわぁッ! と突っ込みたくなるリスニルの叫び。
俺のツッコミ通り、その三日月が着弾する前に俺達は横へ後ろへ、さらには空へと飛び、三日月との距離を取る。
そして、三日月が地面に到達するや否や、それは小さく大量の三日月となって、放射状に高速で俺達に迫ってきた。龍の方向には飛んでいかなかったが。
横や後ろへと退いた俺以外の5人は、それぞれ三日月に対処しているようで。
エイナやリスニル、ダントは剣。肉をスッパリ切り裂くあの三日月でも、さすがに鋼鉄は斬れない様だ。
一人当たり20個ほど迫る三日月を対処しきれているのは、やはりXCMの準優勝クラスと優勝クラスだな。
さて、それじゃあXCMに出ていなかったBクラスの2人はというと……。
「……」
ラウスは、無言で腕を振る。それだけで、ラウスに迫る10個ほどの三日月が何かに弾かれたかの様に進路を変え、四散した。
今度は、違う方向からの10個程度。やはり速いのだが、その方向にラウスが腕を振るとやはり弾かれる。音はしない。
昨日俺が盗賊戦で予測したように、ラウスは【見えない大きな手】を自由に振るい、防御しているようだ。
硬さもそれなりにあるようだし、あの分なら大丈夫そうだな。
……さて、と。ソフィは?
「《晶壁》ッ!」
あ、いたいた。後ろに飛んで、三日月から距離を取っていたようだ。
ソフィはそう叫び、腕を突き出して手を交差させた。瞬間、ソフィの目の前の地面が、ドドドッ!と平たい板のように盛り上がる。
三日月は速度があり、かなりギリギリだったのだが……何とかソフィの前面を覆うことには成功したようだ。
でも、相手は肉をスパッと切り裂く三日月。そこらへんの土を集めただけじゃ、ちょっと心配なんだが……。
そう思っていた俺。だがしかし、それは杞憂に終わる。
三日月は、意外にもキィンッ!と金属音と共に弾かれる。土だと思っていたのだが、違ったのか?
すると、その三日月が当たった場所から、土がボロボロと崩れだした。現れたのは――――太陽の光を受けてキラキラと光る、半透明の板。
……あれは、水晶? ということは、地中から水晶の成分を集めて、顕現させたのか?……【チカラ】だろうけど……うーむ。
疑問は尽きねど、今聞くのは野暮だ。龍を倒してからにしよう。
そして、1人空へと跳んだ俺はというと……。
「せいっ! そいやっ!」
お祭りかよ、と自分に突っ込みたくなる声で三日月を吹っ飛ばしていた。蹴りで。拳で。
何で切られないの? と突っ込む人はもういるのかいないのか分からない。言わずもがな、【クリエイター】で強化している。
そうだな、「ちょうど鋼鉄レベルの硬さ」と、「あの高速に対応できるくらいの身体能力」。そして、「飛行」の3つ。
おかげで、羽も無いのに空を飛行し、高速で迫ってくる三日月を蹴りや拳で叩き落せる人間になった俺。
……なんだろうか、最早人間じゃないよな。
そんな気落ちした俺を置き去りにして、戦闘は進む。あ、俺はちゃんと地面に降りたぜ?
三日月を回避した俺達は、一斉に龍へと迫る。だが、茶色の頭、グランがそれを許すはずは無く。
『《続きを貫く投槍》ッ!』
人語でそう言って、グラン側の前足を上げ、一気に地面を踏み抜いた。
ドンッ!と少し揺れる大地。だが、それほどでもない。そう言わんばかりに切りかかろうとする3人、そのほか3人。
だが、やはり龍は龍だった。
俺達とグランのちょうど中間辺り……距離にすると5mほどか?……の大地の一部が、円形に光り始めた。良く見ると、直径20cm程の魔法陣のようだ。
数秒後……その発光した場所から、ズンッ!と形容すべき音と共に何かが地面から突き出てくるのを俺達は見た。
それは土色で、三角錐の形をした物。多分、大地の土が形を変えて地面に突き出したのだろう。言うなれば、土の槍か。
だが、突き出たのも1秒ほど。それは、空中へと恐るべき速さで発射される。空気を切り裂いたその槍、視認出来ないほど高く上がったようだ。
……当たったら、もし足裏に当たったとしても脳天まで裂かれそうな……。
今ので完全に足が止まった俺達。しかし、グランは其処で攻撃を止めるつもりは無かったようで。
先ほどと同じ魔法陣が、あたり一面に――それこそ俺達の足元にも数個、発生したのだ。魔法陣同士の間は10数cm。
当たり前だが、龍の辺りには魔法陣が展開されていないが……それはともかく。
皆の顔に、驚愕の色が浮かぶ。勿論俺も例外ではなく。
あぁ、コイツ、本気で俺達を潰しに来てるなと俺が身を持って実感したのと、土の槍が突き出し始めるのはほぼ同時だった。
そして。
「《聖域》ッ!!」と、本日何度か目の魔法名を俺が叫ぶのも同時だった。
決して、慌てて同じ物を出しちゃったわけではない。絶対にだ。
―――《聖域》は、聖属性で、いや、現存する魔法の中でも最強の1つとされる防御魔法。
元々は《焔膜》や《氷膜》など、「膜」系という防御魔法を「聖」で再現した物であり。
「膜」系の魔法が体にピッタリ張り付くものであるのに対し、《聖域》は淡く白に発光するドームという形を取っている。
一見地面からの攻撃には効果が無さそうだが――――実は地面にも《聖域》は掛かっており。地面なので淡い白が見にくいだけなのだ。
故に。
ガァンッッ!!!と、本当に土が当たったのかという鈍い金属音に良く似た音が響き、足元の槍は発射されること無く、そのままの形を取り続けた。
俺達を包んだ淡い白に発光するドームはその形を崩す事無く。
大気圏へと到達するんじゃないかと思うほど豪速で空へと飛び立っていった他の槍たちを一瞬見て、そして。
『な、なんじゃとっ!?』
『……グランッ! 来るぜっ!!』
ウィンとグランが困惑するのを聞きながら、俺が「解除」と願ったのと同時に俺達は龍の元へと駆ける。
凸凹になった地面に注意しながら、時折細かく跳びながら魔法や剣の射程範囲まで入り込み。
「たあぁぁぁぁぁっ!!」 ダントは、いつの間に召喚したのか聖剣を振りかぶり。
「《晶槍》っ!!」 ソフィは、先ほどと同じ系統だろう詠唱をし、途端何も無い空中からグランの物と同程度の水晶の槍が3つほど出現し。
「おらああぁぁぁぁぁっ!!」 と、エイナは無意識に《伸長》で刀身を長くした剣を振りかぶって。
「《波立つ大地》ッ!」 『クラッカー』を下に構え、地面を削り取ると共に振り上げるリスニルがいて。
「《潰せ、巨人の手》」 とラウスが漸く詠唱(?)すると共に右腕を高く上げて、そして振り下ろし。
「まだだぜ、双頭龍!!」 そう言って右腕を突き出し、無詠唱で《氷波》っていう魔法をぶっ放し。
白銀に輝く聖剣が。
キラキラと光る半透明の槍が。
刀身が馬鹿みたいに長い鋼の剣が。
土色の衝撃波が。
無色透明、誰にも見えない巨大な手が。
そして、一直線に延びた、太い水色の線が。
「お前らの自慢技見せつけられただけで、終わってたまるかぁぁぁっ!」
何ともおかしな叫び声と共に、一斉に叩き込まれた。
なんか、「完」って終わりについてもおかしくないよね。
でも、龍との戦いはまだまだ続きますよっ!!