第32話:アルトは、1日目を歩きに費やした。
今回は、喧嘩して寝るだけです。
正直、1日目終了したですので、あまり読む必要は無いかなーと……。
だったらなぜ書いた、俺。
――Side アルト――
―――ホワイト何とかという名前も覚えられない噛ませ犬をボッコボコにした、その数時間後。
既に辺りは暗く、近くにある森からは、「ガー! ガー!」と名前も知らない鳥の魔獣が五月蝿く鳴いている。
今俺達が歩いているのは、数時間前と変わらない普通の道。 当然、舗装はされていない。
「……疲れた……」
俺の隣に居るエイナが、そう言う。 ……その割には、足はまだ大丈夫そうだけども。
俺達は、リスニルとダント、ソフィとラウス、そして俺とエイナという2×3の列で歩いている。
まぁ、同じクラスが2人ずつ居るんだからそうなってもおかしくないけど。 おかしいとも思って無いし。
そして1番前を歩くリスニルが、持ってきた懐中電灯(魔法版)を点け、ただただ歩いているという状況だ。
正直、つまらない。 元の世界みたく旅先でも遊べる娯楽がある訳でも無いし、そして歩きなのだ。
疲れの方は別に良い。 俺は【クリエイター】で体力回復できるし、「軽く」だが皆にも掛けることは出来る。
どちらかというと、体にクルのは「長々と歩き続けて、娯楽もなしにあるのは強い龍」という、精神的な問題だ。 これ、結構辛いよ。
……話を戻そうか。
エイナが言った一言は、Bクラスの2人はおろかAクラスの2人にまで届いたようで。
「後もう少しだ。 XCMで私に勝ったのだからその精神を持ち続けろ」 ……そういったリスニルの励ましと。
「……チ、少しの我慢も出来ないのか? この大剣女は。 全く……」 そう此方にまで聞こえるわざとらしいダントの呟きは、同時に聞こえた。
……エイナ、その内の一方を的確に耳で捉えたようだ。
「んだとこの負けず嫌いがッ! アルトに負けた分際で調子付いた口聞くんじゃねぇッ!」
「なッ!? 本気を出せばアイツなど一発で粉砕できるッ! 貴様こそ、舐めた口を聞くなッ!」
「言ったな? 今からやっても良いんだぜ?」
ダントは此方を向き、歩行そっちのけでエイナと本格的口喧嘩を始めてしまった。 俺を使うな、エイナよ。
……まぁ……、五月蝿い。 その一言に尽きる。
とりあえず、エイナには軽く脳天チョップしておいた。
ダントの口喧嘩に夢中になっていた所為か、思わぬところからの攻撃に思わず顔を顰め、すぐさま此方を睨むエイナ。
「アルトッ! お前が馬鹿にされてるんだぞ? それでも良いのかよ?」
「……今のは確実に負けず嫌いが悪いから、帰り道に3回ぐらい殴るさ。 それよりエイナはすぐ反応するな。
……またご指摘が来るだろうが」
「ご指摘って何だよ……」 割とメタなことを口走った俺を、そんなことを言いながら見るエイナ。
エイナはやっぱり男勝りな俺っ娘でした。 1年程前のあの時のエイナに戻ることは、少なくとも数年間は無いな。
「それと負けず嫌い。 すぐ嫌味を言うお前は、さっき言った様に帰り道で3回ほど普通に殴る。 覚えとけ」
「……ググッ……」 そう唸っていたダントだったが、リスニルに慰められたのか、機嫌が戻ったようだ。
……グズる子供かお前は。
……さて、其処から10分ほど歩いただろうか。 道の先には、正面に深い森、その森を迂回するように左右に分かれた二股の道があった。
そして、その分かれ道の中央には、ポツンと1枚、看板が。
その看板に近寄り、何が書いてあるか確認する俺達。 リスニルが魔法懐中電灯を看板に当てると……。
[←2km先、ローカルド大平原]
お、やっと平原が見えてきた。 ……でも暗いな。 懐中電灯が無けりゃほとんど見えない。
……懐中電灯持ってドラゴンと戦う? 雰囲気的にも無理でしょ。
「……仕方ない、あの森の中で野宿するか」
リスニルが言う。 まぁ、仕方ないな。 他の4人も、賛成のようだ。
――――
木々の間隔は狭く、野宿できそうな場所はあまり無い。 しばらく歩いていると、焚き木+6人でギリギリ大丈夫そうな場所を発見。
……焚き木が必要ないって言った奴、火は昔から人類に安心を与えてくれるってばっちゃに教わらなかったか?
……教わってない。 さいですか。
「……さて、明日は双頭龍の討伐を行う。 その前に、今夜は此処を守る「番」を代わる代わる行うぞ。
2人1組で、ある程度番をした後、眠っているどちらかのペア2人を起こし、その後眠る。 これを繰り返す」
……俺が【クリエイター】で適当に集めた細い木々に魔法で火をつけ、焚き木にする。 そして、その周りに6人が座る。
各々持ってきた物を食いながら、リスニルの話を聞いている。
あー、時計が無いから「ある程度」なんだな。 ……何回も起こされる可能性があるな。 ……ん?
「それじゃ、おやすみ。 3時間後にBクラスの2人を起こすからな。
その3時間後に、2人はGクラスの2人を起してくれ。 良いな?」
「はい、分かりました……」
「了解した……」
「おやすみー」
「……あー、眠っ」
上から、リスニル、ソフィ、ラウス、エイナ、俺。
俺が妙案を思いついてから数十分後。 人間、暗いとすぐに眠気が来る物で。
適当な木に引っ掛けた「時計」を見ながらリスニルが言い、それに反応して4人が返事。 ……俺だけ返事じゃないな。
……ん、時計? あぁ、俺が【クリエイター】で持ってきたんだよ。 こういう時に便利だな。
只今が9時……早く着いちまったんだな……だから、3時間×3で9時間。 最後に回ってくる俺達は、午前3時から6時までか。
もうその時には朝だから、皆を起こすことになるな。
―――はぁ、やっと平原まで来る事が出来た。 まぁ、まだ2km手前だけど。 後は双頭龍を倒して、翼を剥ぎ取れば依頼完了だな。
……ふむ。 ソイツの強さは分からないけども、龍だから強いんだろうな。
問題はどれだけ力をセーブするか、か。 皆に迷惑を掛けず、尚且つ着実にダメージを与える加減。
……明日は格闘封印して、魔法で戦うかな。 いやでも、それじゃ中級魔法位しか使えないかも――――。
そんなことを考えていたら、段々と眠気が強くなってきた。 いや、何となく眠気が強くなってくるのって分かるんだよね。
そして、俺はそれに逆らわず、意識を闇に沈めた。 眠っておかなきゃいけないからな。 徹夜は辛いし。
―――――と。 そんな感じで依頼1日目は終了した。
2日目は、いよいよ龍と対決。 ……いやぁ、強かったよ。 言っておくけど。