第27話:アルトは、今後の計画を決めようとした。
さて、今日から新編、「チートな俺は、ネームレス」開始です!
お待たせしました。 今日は短いですが、どうぞ読んでいって下さい!
――Side アルト――
―――俺達GクラスがXCM優勝を果たした、その3ヵ月後。 日本の暦で言うと、7月下旬。 そして、季節は――――
「(……あ……あぢぃ……)」
夏である。 何故、こういう所だけは日本に似るのだろうか……俺は、夏の暑さが大嫌いだったのだ。
もうムシムシとか言うレベルを超えた熱気の中で、俺は心の中で呟いた。
此処エクシリアの夏は厳しく、普通でも30度以上、酷い時には40度以上になると言う……俺にとってこっちの方が魔王のような気がしてきた。
……あぁ、ソツタは涼しかったんだ。 あの頃が懐かしい。
入学当時は、A~Gクラスの待遇の違いが机の違いだけかと思っていたが、なるほど。
Aクラス含め、上位クラスには、魔術で室外の空気を冷風、温風に変えて室内に送る……「魔術式温冷変換送風機」が設置されている。
Gクラスには勿論無く。 …手で扇ぐしかないのだ。
……え、【クリエイター】で対策すればいいじゃないか。 って?
実は、それが無理なんだよね。 ……今の状況が原因で。
……キーンコーンカーンコーン……
「はーい、用紙を前に回してー。 名前はちゃんと書いてあるなー?」
お馴染みの学校のチャイムが鳴り響き、前に立って手で顔を仰ぐジェイ先生は、かったるそうにそう言った。
同じようにぐったりする俺含むGクラスの面々は次々にテスト用紙を前に回し、仕事を終えるとまた同じように脱力する。
……今は期末考査中。 そう、所謂定期テスト。 此処は教育機関であるから、当たり前のようにテストはある。
そして、教室内では問題を解くこと以外何も出来ないように……つまり、【チカラ】や魔法魔術を使えないように、それを無効化する結界が教室棟全体に張られているのだ。
だから、氷属性魔法を使ったり、【暑さにものすごい強い体】を作り出すことが出来ないのだ。 熱気が直撃。
何かで氷作って持ち込めばいいんじゃないかって? はは、出来たら苦労しないさ。
【チカラ】や氷属性魔法で作る氷は、水で出来てるんじゃなくて魔力で作られた氷だ。 持ち込もうとした瞬間、魔力の粒になって消え去るな、多分。
【チカラ】は分かる。 特に俺みたいな感じのヤツ用だろうな。 それは分かるが、何も魔法まで無効化すること無いじゃねぇか……。
「きりーつ、れい、ちゃくせー……」
こんな時でも真面目な男子生徒の号令。 ソイツが「き」を言う前に、大半の生徒は教室外へと駆け出し、外を目指す。
結界が掛けられているのは教室棟の中だけなので、外に出ちまえば魔法使い放題だ。 ……男子生徒の多くは、窓から外に飛び出す。 1階でよかった。
俺も当然その中の1人であり、出た瞬間に【クリエイター】発動。 全身の汗を飛ばし、暑さに強い体にした。 あースッキリ。
……あ、窓から飛び出す女子が一人いた。 ……エイナだ。
「あちぃー! アルト、なんか出してくれー!!」
ちょ、出て早々それかよ……。 まぁ、エイナは氷属性魔法が扱えないそうだから、仕方ねぇか。
俺は【クリエイター】でエイナの周りに冷気を纏わせた。 ……ここ数日、何時もこれだ。 どうせ便利屋だよ、俺は。
「ふぃー、サンキュー、アルト。 早く飯喰いに行こうぜ! テスト終了記念だ!」
今日で、4日間のテストは終了。 全日昼食前に終わるので、飯を食って寮へと帰る生活も今日で終了だ。
そんなわけで、エイナが言うようにテスト終了記念にと、食堂に向かった俺。
―――そこで、俺の夏の生活が決定する事となった。
――――
何時ものように食堂へと向かい、何時ものように日替わり定食Aセットを選ぶ俺。
日替わり定食Aセットとは。 学園の食堂で1番早く出て来て、しかも1番美味しい定食のことである。
今日はチーキンの塩焼きと葉物のサラダ、コンソメ(っぽい)スープに、(俺がおばちゃんに教えた)パスタである。 おばちゃんと仲良しでよかった。
エイナも同じものを選んだようで、適当に席を取って座り、食べ始めた。 ……うん、美味い。
「……そういえば、アルトは夏休みどうすんだ?」
「……あー、もう夏休みか。 考えてねぇな」
エイナの突然の問いかけに一瞬驚くも、そう答える。 ……夏休み、かぁ。 何年ぶりだ?
―――エクシル魔法学園にも、夏休みはある。 やっぱ、暑いからね。 因みに、夏休みが始まるまで後2日。
学園生徒が夏休みにやることベスト3は、補習、課題、そして夏休みの敵である課題を押え、ナンバー1は――――
「やっぱさ、ギルドに入って狩猟でもしたいよなぁ……」 と、エイナの声。 ナンバー1はテンプレ、ギルド登録である。
15歳になると、エクシリア内のギルドに登録、依頼を受けることが出来るようになる。
尤も、夏休みまでは暇が無いので、夏休みに入ってからギルドに登録し、依頼を受けるのだ。 勿論、報酬も貰える。
「でもよ、ギルダーになったとしても俺らGクラスだぞ? どうせDランクからのスタートだぜ?」
そう俺が言うと、エイナは「……そうだよなぁ……」と首を傾げる。
―――ギルドにおいて登録者は「ギルダー」と呼ばれ、自分に合ったランクでクエストを受けることになる。
ランクはS,A,B,C,Dの5段階。 Sが最高ランク。 Dは最低ランクだ。 ランクは1ヵ月ごとに更新され、一月で成功した依頼の数とタイムでランクが上下する。
そして、通常は登録時でランク決めのクエストを受け、そのタイムでランクを決めるのだが……。
俺達学園生徒の場合、今のクラスでランクが決まる。 そして、Gクラスのスタートランクは、勿論Dランク。 最低位だ。
Aクラスの連中はAランクからスタートできるらしい。 羨ましいな。
クエストの難易度は、当たり前のようだがSに行くほど高くなり、Dランクは「何とかの採集」とか、「「超」弱い魔獣の狩猟」とか。 要するに、手ごたえが無い。
……つまり、1ヵ月ほどの夏休みでDランクから2ランク以上上に行くのは不可能であり、XCMで見せたようにDランクでは収まりきらないであろう強さのエイナは、それを不満に思っているようなのだ。
ギルダーたちがチームを組んで専用依頼を受ける「ギルダーズ」という制度もある。 勿論、チームにもランクが存在する。
だが、チーム1人1人のランクでチームランクが決まるため、Gクラスにしかチームが組めるほどの友人が居ない俺達は、頭を抱えるしかなかったのだ。
「ま、休み毎にでもまた行けば良いじゃねぇか。 今はDランクだけど、冬休みにはCランク、春休みにはBランクってさ」
「だけどよぉ……やっぱり」 エイナは呟く。 あ、もう食い終わったぞ?
どうせやること無いし、俺もギルダーになってみるかー……ランク関係無しに、楽しめりゃ良いや。
―――そう思っていた矢先だった。
俺とエイナは向かい合って座っているのだが、エイナが先に彼女に気付く。
「あっ、お前……!!」
エイナがそう言う。 確かに何か影が落ちているので、振り返ってみると。
「―――少し、君達と話がしたい。 良いか?」
XCMから少し伸ばしたのか腰まであるストレートの銀髪。 キリリとした瞳が印象的な、俺より背が高い女子。
XCMの時と同じで、無表情・冷静な口調の彼女は、XCM決勝でエイナと激戦を演じた大剣使い。
―――Aクラス、ウェスレイ・リスニルがそこにいたのだ。
俺とエイナは、XCMであったきり。 俺に至っては其処で話す機会も無かったので、「会った」というか「見た」というほうが正しいのかもしれないが。
「……なんだよ」 ……エイナが言う。 別に敵対意識とかを持っているわけでは無さそうだが、ついつい少し強い口調になるようだった。
俺は特に言うことも無く、エイナをなだめる事もせず、リスニルの次の言葉を待った。
そして、次にリスニルが発したのは、エイナにとっては歓喜の言葉。 俺にとっては―――――――
「それでは簡潔に言おう。 夏季休暇中にギルド登録するのなら、是非とも私が作るチームに入り、一緒に依頼を受けてくれないか?」
―――夏の生活を決定付ける、言葉だった。 ……これ、喜んで良いのか?
さっそくリスニルを出してみました。
自分、やっぱ剣使いが好きなのかな……などと思う今日この頃です。