―Side Story 1 エイナ=ユーグリッド編―
どうも、夜来です。
今回はサイドストーリー、エイナ編。
……エイナがアルトに会う少し前に遡って、エイナの視点でユーグリッド家の様子や、「あの時」、そしてそれからを書きたいと思います。
何か、適当になったなぁ……
――これは、アルト達がエクシル魔法学園に入る、1年前の話である――
「……ふぅ」
―――はぁ……秋って言っても、さすがに何冊も本を読み漁るのは疲れるなぁ……。
……うわ、もう4時間も読書してる。 読みすぎたかな。
4時間、かぁ……。 そろそろ、声がかかる頃だと思うけど。
「エイナー! ちょっと手伝ってくれー!」
「はーい!」
ほら、やっぱり。 意外と私、【人の心を読むチカラ】の持ち主かも。
私を呼んだのは、若い男の声。 ……私の父親だ。 持っていた本を本棚に戻して、その声の元へと向かう。
―――私、エイナ=ユーグリッドの父親……エイト=ユーグリッドは、王都エクシリアにある鍛冶屋兼武具屋の主だ。
それなりに繁盛していて、今日も結構鍛冶の依頼が入っていたり、剣や盾を買いに来るお客様は多い。 まぁ、人気という訳じゃないんだけど。
だから私や、私の母親……キイナ=ユーグリッドは鍛冶の仕事や、武具屋での支払いのほうを手伝ったりしている。
鍛冶の方の手伝いって言っても、熱して槌で叩いた鋼を水で冷やして純度の高い鋼にする……えーっと、水滅しっていう作業ぐらいだけど。
鍛冶屋のほうで私を待っていたのは、私と同じ金髪で、頭をバンダナで覆った若い男性。 ……言うまでもなく、私の父親だ。確か、35歳。
「それじゃ、何時もの頼む」
「うん、わかった」
鍛冶場は結構広く、父は火床に入れられた鋼を出して槌で叩いていた。 私の役目は、それを水に入れること。
これによって余分な物が鋼から剥がれ落ちて、良い鋼になる……らしいんだけど、あんまりわからない。
父が、叩き終わった鋼を置く。 私はそれを火ばさみで掴み、近くにある鉄で作った水槽に張られた水の中に入れる。
ジュッ……と音がして、鋼が急速に冷やされる。 再び火ばさみでそれを掴んで、近くにある台に置いた。 これは、後に父が再び火に入れ、剣を作って行くのだ。
この作業を10回ほど繰り返し、父から「もういいよ。 じゃ、次はカウンター行って」と声が掛かる。 鋼が結構重いので、この作業は疲れるのだ。
だから、何時も10回ほどで私の作業は終わり、次は武具屋の方。 今は母がカウンターで接客をしているだろう。
「分かった」と返事をして、今度は平民エリアの大通りに面する、武具屋のほうへ向かう。
……武具屋に入ると、カウンターでは予測通り母が接客をしていた。 ……今のお客さんは、剣を買っていったので剣士だろうか。
カウンターの近くに行き、母に話しかける。
「お母さん、私がやるよ」
「あ、エイナ。 もうこんな時間かー……、じゃあよろしくね」
母は長い金髪で、父と同じく頭にバンダナを巻いている。 父と同じ35歳で、街で歩いてると、良く綺麗といわれるそうだ。
「うん」と返事をすると、母は店の奥、鍛冶場の方へと消えた。 さっきも言ったけど、母も鍛冶の手伝いをするのだ。
「エイナちゃん、この剣結構良いね。 ……魔力を感じるけど、やっぱり高いかな?」
「えーっと……そうですね。 風の魔力を込めてあるので、小さい鎌鼬位なら放てます。 銀貨50枚ですね」
しばらく支払いに来るお客さんもいなくて、たっぷり1時間は経っただろうか。 声が掛かった。
父は、魔力を込めた剣……魔剣を作ることが出来る。 魔剣は込めた属性によって色々な付加効果があって、今の「風の魔剣」なら鎌鼬が放てるとか。
私に話しかけた茶髪の若い男性は、金額を聞くと、うーん……と考え込んで、言った。
「やっぱり高いなぁ……ま、今日は止めておくよ。 また来るね、エイナちゃん」
「はい、また来て下さいね」
そう言って、その男性はドアを開けて店を出て行った。 ……それと同時に、父が奥から出て来た。
「今日はもう閉めるよ。 もうキイナが晩御飯を作り終えてる頃だろうから、早く行くんだよ。 先に食べててもいいからね」
ふと店の外を見ると、もう真っ暗だ。 お店の中にお客さんもいなかった。 時間は早いなーと思いながら、鍛冶場の奥のテーブルへと向かった。
母はもう料理を作り終えたらしく、テーブルにはおいしそうな料理が並んでいた。
父はあぁ言っていたけど、私は3人で食べたい。 ……母も同じ気持ちのようで、10数分ほど待って、父が姿を現した。
「何だ、やっぱり待ってたか」と笑いながら席に着く父。 いつもこんな感じなのだけど。
「エイナ、お前も14歳だな。 ……学校はどこに行く?」
父が話しかける。 料理に伸ばしていた手を一旦止めた。
「うーん……私、やっぱり騎士学校に行きたいかなぁ……」
少々考えて、私はそう答える。 騎士学校とは、その名の通り騎士を養成する学校で、各国に1つはある。 卒業すれば、その国の騎士団に配属されるチャンスがある。
ガフリアにも騎士学校は勿論在り、エクシル魔法学校には及ばずともそこそこレベルが高い学校だ。 勿論、女性も入ることが出来る。
今の騎士団長は女性だって言うし、私でも騎士団には入れるかも……。
父は「なるほど……」といって考え、向かい側に座る私を見て微笑んだ。
「そうか。 それなら、たくさん勉強しなきゃな。 剣技は十分強いから大丈夫だけど、勉強はちょっと心配だからな」
「そうね、バシバシ教えていくから、覚悟しておきなさいよ」
フフと笑って、母も言う。 父は剣士であり、剣術を教えてくれたので、私はそこそこ剣を使えるほうだ。 今でも稽古を積んでもらってる。
騎士学校に入るには、やっぱり多く勉強しなきゃ。 私は1人、気合を入れるのだった。
……翌日、人生の大きい転換点が訪れることになるとは思わずに。
――――
その次の日。 昼下がりの3時ごろで店内には誰もいなかった。 そんな中で1人カウンターに座っていた私。
おやつを食べた後で、うつらうつらとしていたのだが、次の瞬間。
「キャアアアアアアァァァァァァァ!!」
そんな、女性の悲鳴が店の外から聞こえた。 一瞬で私の眠気は覚め、 反射的に店の外へ飛び出す。
周囲を見渡すと、東側に多くの人たちが。 そして、そんな人だかりが突然左右にパックリと割れる。 間からコチラへと駆けて来たのは、……バーディン!?
基本的に、王都には魔獣は入ってこない。 頑丈な外壁で囲まれているから。 だけど時々、空を飛ぶ魔獣たちがエクシリアに侵入してくる。
そういう時は、その魔獣たちを倒すなりして追い出さなくてはいけない。 店や家に損害が出る可能性があるからだ。
そして、エクシリアの住民には、そういった魔獣たちを倒す義務があるのだ。 倒すのは専らエクシリア内を巡回警備する騎士団の人だけど、今は近くにいないみたいだ。
私は、エクシリア内に侵入した魔獣を見るのは初めて。 ……だけど、コチラに駆けて来るのなら、倒さなきゃ!
直ぐに店に戻り、私が愛用する大剣を持ち出してまた表へ出ると、バーディン2体はもう近くにまで来ていた。 さすがバーディン、素早い。
そう思いながら、近くに来たバーディンに向かい、剣を斜めに振る。
「たあぁっ!」
だけど、素早いバーディンはそれを右にステップして避ける。 その後も次々に剣を振るが、跳んだりステップしたり……全て避けられてしまった。
まさに翻弄されてしまう。 剣術を教えてもらったとはいえ、バーディンの動きはあまりにも素早すぎて。
「くっ、このっ! たかがバーディンの癖にッ!」
思わず声を漏らしてしまう。 バーディンは、結構低級な魔獣だから、簡単に倒せると思っていたのだ。
……あたりに、さっきの位置から移動したのだろう人だかりが出来ているが、助けてくれる人は1人としていない。
まぁ、どうせおじさんおばさんや私と同じぐらいの子ばかりだろうし、期待はしていなかったけども。
「ザシュッ!」 ……次々に剣を振っていると、偶然だろうけども私の剣が1体のバーディンに当たった。 切り裂かれるバーディンの翼。
「やった!」……と思わず口に出してしまう。 それだからか私は油断し、背後に迫るもう1体のバーディンに気が付かなかった。
その時だった。 あの人がまさに風のようにやってきたのは……。
突如、背後から「グッ……!!」というバーディンの鳴き声が聞こえた。
後ろを見ると、私と同じぐらいの歳の男の子が、バーディンを「拳」で「吹っ飛ばしている」ところだった。 驚いて、思わず尻餅をついてしまった。
バーディンはパンチで飛ぶほど軽くない。 大柄な人がバーディンを持ち上げ、投げ飛ばしたところで2mほど飛ぶだけだろう。
それを、この少年は拳で5mほど吹っ飛ばしたのだ。
……カッコいい……。 そんな感情を持った。 鋼を打つ父ぐらいにしか、そんな感情は湧かなかったのに。
私が翼を斬ったバーディンは、吹っ飛ばされたバーディンに向かって鳴き声を上げ……何か意思疎通を取っているのだろう……すぐさま翼を広げ、飛び立った。
呆然としている場合ではない。 私は直ぐに立ち上がって、その少年に話しかけた。 お礼を言うために。
「あ、あのー…」
「…何?」
「あ、えっとぉ…助けてくれてありがとう…」
「あぁ、良いって良いって」
こういう時に、私のちょっと恥ずかしがり屋な性格が憎い。 上手く話せないのだ。
少年はやっぱり私と同じくらいの年齢みたいで。 敬語で話すべきか、話さないべきかわからなかった。
「あの、私エイナって言います。エイナ=ユーグリッド。…名前聞かせてもらっていいでs…良い?」
「ん、俺?…アルトって言うんだ、よろしく。 …あっ、…あーチクショウ! 4時過ぎてる! …じゃあなエイナ!」
「えっ、ちょっと…」
少年……アルト君と言うらしい……は、そう私に自己紹介。 そして、何か約束があったのか人の輪を抜けて走り去って行ってしまった。
……家の名も聞けなかった。 でも、探す術も無い。 ……それでも、あの少年に憧れた。
「……エクシルに行きたい? どうしたんだ、昨日までは騎士学校に行きたいって言ってたのに」
「ちょっと言い表せないけども……魔法学園に行きたいのッ! どうしてもッ!」
「そう言ってもなぁ……あそこはトップクラスだぞ? それでも行きたいのか?」
「しかも、魔法学に重きを置いてるから……それも追加されるし……」
「絶対に行きたいのッ!」
「…………うーん、……分かった。 その分、勉強は厳しくなるぞ? 良いな?」
「うんッ!」と元気良く返事した。 その日の夕食での会話。
いきなり路線変更した私に父は驚いているようだったが、最終的には良いと返事をしてくれた。 母は……ニコニコこちらを見てるだけだから、良いのかな。
なぜか、あの少年がエクシル魔法学園に行くと思った。 だから、私は行くと決めた。 たったそれだけの事。
騎士学校では魔法学に重きを置いていないから、魔法があまり得意ではない父は渋ったんだと思うけど……でも良いと言ってくれたのだ。 絶対に合格してみせる。
……あの少年を追いかけて。
――――
それから私は猛烈に勉強し、今までの数倍、剣術の稽古もした。 勿論魔法の練習もしたけど、やっぱり剣術が性に合ってるみたい。
その内に【触れた物を硬化させるチカラ】を手に入れ、髪の色も、あの少年に少しでも近づくように、赤く染めた。 ……尤も、赤金になったけども。
段々と、何かが変わっていくような感じがしてきて。 そして―――――――
――――そして「俺」は、1年前から、確実に変わった。 自分でも分かるほどに。
今、俺はエクシル魔法学園の合格者掲示の前にいる。 そう、今まさに、合格者の発表がされているのだ。
「……あ、あった! 279番!」
Gクラス、最低位のクラスだが、大陸内トップクラスの学園に入学が決定したのだ。 嬉しい……のだけど、俺の、下の名前。
「アルト=シューバ? ……アルト……?」
アルト。 その名前は、今でも心に深く刻まれていた。 自分を此処に導いた、その名前。
急いで1-Gのクラスへと入る。 瞬時に数えた結果、38人いた。だけど、40番の席は空いていた。
……その直後。
ガラッとドアが開き、こちらを見る目は、その少年を見る視線で若干怖がっているようで。
でも、その顔立ちや眼差しはまさしく、1年前の「あの時」と同じ。
そう、それは―――――――――
――――
――Side アルト――
「俺だったわけか」
「そういうことだよ。 最後のセリフ取るな馬鹿野郎」
エイナに頬をぶたれた俺。 地味に痛い、止めてくれ。
XCMが終わった後、昼休みでの1コマだ。 エイナの昔話が聞きたいと言うと、なぜか話してくれた。
こう言った俺も、何故そう言ったのか分からなかったが。 多分神様が言えと命令したんだろう。
……なぜか、メテリアやヨハン、アリスも聞いていたのだが。
「へぇー……すごいなー……」 メテリアは感心してその話を聞いていたようだ。
「奇跡的な再会だね。最下位だけに」 ……とりあえず寒いダジャレを言ったヨハンには頭に拳骨を落としておいた。 弄られキャラ確立だな。
「……(グッ!)」 ……分かったからアリスはマイブーム(?)のサムズアップを止めてくれ。
それにしても、そんなことがあったんだな。
……改めて思う、やっぱすげぇな、この世界。
鍛冶屋の所は、思いっきりウィキから引っ張って、できるだけ安全そうな工程を選びました。
という訳で適当なので、見逃してくださいお願いします。
そして、ヨハン君のダジャレは漢字変換で思いつきました。 寒ッ。
さて、明日は番外編です。
「アルトは、夢の中転生神に出会った。」あまり期待せずに、お楽しみに!




