第22話:アルトは、XCMに出場した。 (6)
2日ぶりの夜来です。
今日は少々gdり気味。 日が空いたからね。(←言い訳)
――Side ヨライ――
―――XCM決勝戦。
1番手は、Aクラス:テミニル・ラート対Gクラス:ミリア・メテリア。
ラートの【魔法を吸収するチカラ】に対し、メテリアはその【チカラ】…【魔術特化】を駆使し、1勝をもぎ取った。
さて、次は2番手である。 先に選手を出すAクラス。 控え場所から出てきたのは……
2回戦で、Bクラスの男子生徒をフルボッコにして勝利した、青髪の男子だった。
―――
――Side アルト――
……む、アイツか。
「……あいつがなんか言った後に、あの茶髪の動きが遅くなったんだよな……」
エイナが言う。 ……とまぁ、つまりは相手の動きを遅くする【チカラ】なわけか。 《減速》の魔法はあそこまで遅くならないし。
あそこまで遅くするには、恐らく5~6回掛けなければいけないかな。 そもそも、あの青髪が魔法を掛けている様子は無かった。
……ヨh「それじゃ、僕が行くよ」
……
「……そうだな、ヨハンが1番適正だと俺も思う」
出鼻くじかれたが、まぁいいか。 自身に意思があるなら、尚更良いよな。
「それじゃ、行って来る」 とヨハンは言って、闘技場へと出て行った。
……少しだけフラグになれば良いと思う俺がいるが、そうも行かないのがこの世界なのは、今まででよく分かっている。
何より、Aクラスに勝ちたいのだ。 それは、譲れない。
―――
――Side ヨライ――
決勝2番手は、Aクラス:アグス=レイアン対、Gクラス:ザリアント=ヨハンの対決となった。
「2番手、始めッ!」…トーの声とともに、動いたのはヨハンだ。
…元々ヨハンは、速攻で相手を倒すスタイル。 【脚力を超人レベルにまで上げるチカラ】で、瞬間移動し、相手を蹴りで仕留めるのだ。
なので、今回も素早く相手を倒そうと思ったヨハンだった……のだが。
「グッ……そんなんでは倒せないよ~」
「……くそ、ふざけやがって……」
ヨハンの回し蹴りは、体を後ろにずらしたレイアンの腹に掠るのみで終わる。 一旦距離を取り、直ぐに攻撃に移るヨハン。
どうやら青髪は、避けることにも特化しているらしい。 当たるには当たっているが、その殆どがクリーンヒットには程遠く、ダメージも少しだ。
ヨハンがその卓越した脚力で瞬時に近づき、直蹴りを放つ。 威力は脚力と筋力に比例し、筋力を脚力でカバーしているにしてもクリーンヒットすれば数m吹っ飛ばせるレベルだ。
それに対しレイアンは、僅かに体を傾けたり、動かすことでクリーンヒットを悉くかわしている。
その華麗かつ正確な動き。 ヨハンは、次第に体力を削られていった。
その攻防が数分続き、ヨハンはまだまだ素早い動きが出来るようであるが、体力は確実に減っている。
レイアンは、時々バランスを崩したかの様に地面に手を付ける。 すぐに体を起こし、ヨハンの蹴りを避け続ける。
どちらも、他人の目から見れば疲れているのは明らかだ。
「くそっ……」
「そんなんで終わりなのか~? やっぱりGクラスだね♪」
ヨハンは一寸息をつき、それを茶化すかのようにレイアンが声を掛ける。 再び「クソっ……」と呟き、蹴りを再開させるヨハン。
右足で前蹴り、それから1秒も経たず、左足で上段の回し蹴り。 そして右足で下段の横蹴り。
そんな連続技にも、レイアンは冷静に対応していく。
前蹴りを右に体をずらして避け、避けた方向から来る左足は上半身を僅かに逸らし、掠りながらもスレスレで避ける。
ヨハンが「回し蹴りをしゃがんで避けるだろう」と思い放った下段横蹴りは、レイアンのアクロバティックなバク転でブレザーに掠り傷をつける程度に終わった。
焦り、イラつき、ヨハンをこの2つが苦しめる。
だが。
レイアンはバク転で距離を取った後、ガクッと膝を突いた。 観客席、Aクラスがひしめくエリアが、どよめく。
対し、Gクラスのエリアは一瞬ワッと沸いた。 直ぐに収まったのはまだ決着がついていないからなのだが、それはともかく。
歓喜したのはヨハンも同じである。 そう、相手は疲弊している。
その疲れた体を奮い立たせ、【チカラ】を発動。 ……未だ膝を突くレイアンに、近づくヨハン。
この時、ヨハンが相手の【チカラ】を冷静に分析していれば、まだチャンスはあったのかもしれない。
いや、疲れで思考が「相手を倒す」事しか考えることが出来なかったヨハンに、それは過酷だったのかもしれない。
そして、ヨハンがレイアンに止めの回し蹴りを放つ際、ヨハンは気がつかなかった。
レイアンが微かに笑っている事。 そして口元で呟いていたことに。
「お・馬・鹿・さ・ん♪」
レイアンの頭部まで後数cmというところだった。 いきなり、何かに押さえつけられるかのようにヨハンの蹴りの速度が遅くなる。
それを認識するのに、ヨハンは少しの時間を必要とした。
それをレイアンが見逃すはずも無い。 常人より遅いその脚。 避ける必要も無い。
いつの間にか立ち上がっていたレイアンは、その脚ではなくヨハンの腹部に向け前蹴りを放った。 拳でのストレートと同じ。 威力は、絶大。
蹴りが遅くなったという現象、そして蹴りの速度が加わって、避けることもできない。
いや、レイアンの【チカラ】上、直ぐに避けることなど、できるはずも無かった。
「ゴッ…………!!?」
ヨハンは元々、身軽なほうだ。 その体は、いとも容易く宙を2mほど舞い、倒れこむ。 距離を取ったレイアン。
何が起きたか、ヨハンはこのときに、その腹に来るズキズキとした痛みで認識した。
レイアンは演技をしたのだ。 こちらにおびき寄せるために。
「アッハッハ!! 見事に騙されてやんの~。 あー、おっかしぃ!」
ヨハンを指差し、笑う。 その姿は、まさに悪魔。 相手を嵌めることにも、レイアンは抜きん出ていた。
「……があぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、まだ余力はあったらしい。 ヨハンは立ち上がり、笑うレイアンを睨みつける。 「お?」といった感じのレイアン。
そんな声を発して飛び出すヨハン。 今度こそ、決めるつもりで飛び出した。
だが、レイアンは最後まで笑う。
ヨハンの動きは其処で遅くなる。 先程よりは早い。 だが、常人よりも遅いその動きに、レイアンは笑うことすらやめる。
「それじゃ、1から出直して来な~」
そんな気の抜けた声とともに、ヨハンの左から脚が迫る。 レイアンも決めに入ったらしく、狙いは頭部のようだ。
ガンッ、と脳を揺さぶられ、レイアンの【チカラ】である【超鈍化結界を張るチカラ】を破ることが出来ず、ヨハンの意識は刈り取られ、体が地に突いた。
……観客席のAクラスから、歓声が沸いた。
――――
――Side アルト――
……今更分かったところでどうしようもないか。 ……アイツの【チカラ】……。
「あ、あの膝を突いた時は流石に勝ったと思ったけど……演技だったなんて……」
メテリアが、意識を失い運ばれてきたヨハンを心配そうに見つめながら言う。
「あいつが張った結界に誘い込ませるためだったか……」
クソッ、早めに気付いてりゃ良かった。 ……思えばアイツは、2回戦でも度々地面に手を突いてた。
アレは避けに疲れていたわけじゃなく、結界を形作る点を置いていたのか。
点を結び、結界を作る。 ……多分、いやテンプレだが……置く点が多ければ多いほど、面積が狭ければ狭いほど結界の力は強くなるんだろうな。
ヨハンは多く蹴りを繰り出してたし、その分、置ける点の数も増えたんだろう。
「……まだ1敗だ。 ヨハンは頑張った。 次は俺達だぞ!」
そう、自らに言い聞かせるように、皆に話す。
俺とエイナ、そしてアリス。 必ず、勝たなければ。
――――2番手終了 勝者、Aクラス アグス=レイアン。
――――Aクラス 1-1 Gクラス
感想・アドバイスお待ちしております。
追記:一部修正しました。基本的に、「着いた」を「突いた」にしたのと、
ヨハンが蹴りで吹っ飛んだ距離を長くしたことですかね。