第21話:アルトは、XCMに出場した。 (5)
「Final」
「Class A vs Class G」
やっとたどり着いた…。
――Side ヨライ――
「さぁ!! いよいよXCMもクライマックス! 決勝戦です!」
トーの司会と共に、観客がワーッ!と盛り上がる。 時は、決勝進出を決めてから2時間後。
俗に言うお昼休みを挟んで、クラス対抗戦は一番の盛り上がりを見せる。
決勝に進出したのは、学年最高位のダント・サスティーフを筆頭に、それぞれ強力な4人を揃えた最強、Aクラス。
対するは、無敵とも言える能力を持ちながらGクラス入りを果たした《不幸な天才》、アルト=シューバをキャプテンに据え、他の4人もAクラスに劣らない力量を持つ最弱、Gクラス。
本当なら交わることの無い2クラスが、1人のイレギュラーを中心に、交わったのだった。
……くさい事言ってしまったが、後は彼に任せよう。
――――
―――Side アルト――
……いよいよだ。 いよいよ、Aクラスとの決勝が始まる。
しかし、当たるのは最高位の負けず嫌いだろう。
アイツが最後に出てくるように、俺は、皆の勝ちを唯祈るのみ。 運を天に任せるってやつか。
「それでは! Aクラスは1番手の選手を選んでください!」
このクラス対抗戦決勝には、1つルールがある。 其れは「上位クラスの順番決め」。
決勝に進出した2クラスのうち、上位のクラスのほうが先に選手を決めて、闘技場に行く。 下位クラスの方は、それを見て選手を決めるのだ。
これは所謂ハンデであり、今までの戦いを見て【チカラ】の概要を分かっている両クラスだから、こんなルールが設定されているのだ。
言い忘れていたが、両クラスの選手決めは決勝以外相手クラスに見えないようになっている。 どうなっているかは推して知るべし。
……説明している間に、Aクラスの選手決めが終わったようだ。 どうやらアイツは……準決勝に出て来た、黒髪だ。
あの黒髪、Bクラスキャプテンのエリヴァンの強力な魔法を指一本で消し去り、尚且つその指から黄色い球体を発射、エリヴァンを一発で沈めた。
……それなら……。
「……メテリアかな。 アイツに勝てるのは」
「わ、私?」
メテリアが、素っ頓狂な声を上げた。 うん、メテリア。
「そう。 たぶん、アイツに勝てるのはメテリアしか居ないな」
俺がちょっとオーバーに話すと、メテリアの意思も固まったようだった。
よっし、OKだ。
「じゃ、よろしく頼む。 ……勝って来いよ」
「……うん」
俺は最後に少し、メテリアに耳打ちした。 メテリアが軽く頷くと軽く背中を押して、メテリアは闘技場へと入っていった。
「……メテリアに何話したんだ?」 …とエイナが尋ねた。
其れに対し俺は、「ちょっとな」 …と言い、静かに見守ることにしたのだった。
――――
――Side ヨライ――
Aクラス1番手…テミニル・ラート対、Gクラス1番手…ミリア・メテリア。
「それでは、1番手……始めッ!」
トーは何時もより多く間を取り、そして開始の宣言をした。 ……最初に動いたのは、メテリア。
「《焔波》!!」
メテリアはそう言って片腕を突き出し、魔法陣を展開させる。 メテリアの【チカラ】、【魔術特化】によって強化された3つの魔法陣。
其処から、ボォッ!と3つ大きな炎が溢れだし、津波の様にラートを襲う。
其れに対しラートは、全く動かず。 いや、右腕だけを炎を津波に向け、言う。
「……さっきの、見てなかった?」
炎の津波に、人差し指でちょんと触れるだけ。 3つが同化していた《焔波》は、一瞬にして消えた。
メテリアは、「やっぱり……」とその現象を見て微かに歯軋り。 自分の得意魔法がかき消されるのだ、悔しさも半端ではない。
「っつ……良いね、でも俺には敵わない。 ……バーン」
ラートも一瞬辛そうな顔をするがそれはすぐに消え、右手で銃の形を作ると、弾丸を撃つように上げた。
其処からは、黄色い球体。 あのエリヴァン=シャルロッテを倒したそれがメテリアに襲い掛かる。
メテリアはというと、こちらも動かなかった。 そのままの姿勢で、堪えるように立つ。
そして、その球体がトンッとメテリアに当たった。 …瞬間。
「……ぐあぁっ!?」
メテリアが思わず呻く。 その球体に当たった瞬間、皮膚から燃えるような痛みが体の奥へと突き抜けたのだ。
《焔波》1つ分どころではない、フレアの上位魔法、《龍焔》に匹敵するその熱さ。
しかし、その痛みに関わらずメテリアは立っていた。 そして、あの助言に感謝していた。
(アルト君の、言ったとおりだ) …と。
メテリアは痛みに堪え、魔法陣を3つ展開させる。 中身は回復魔法ではなく、攻撃魔法だ。
「《雷波》!! 《焔波》!! 《葉刃》!!」
3連発。 左の魔法陣からはバチバチと小さく放電する雷が、中央からは先ほどの炎が、右からはいかにも鋭そうな大量の葉が、それぞれ溢れる。
メテリアが右手を振ると、それらはラートに向かって飛んで行き、途中炎が葉を「食い」、より強大な炎へと変化していた。
ラートはあることを思いながらもそれに人差し指を向け、一瞬にして消し去る。 指先に、ジンジンと痛みが。
しかし、ラートが顔を歪ませた時には、メテリアはもう次の魔法陣を展開していた。
「《天からの贈り物》っ!!」
メテリアが詠唱したのは1つの呪文。 だが、空からは3つ、別々の物がラートに向け降ってくる。
魔法で言う《雷波》、《水槍》、《氷岩》が、1つの呪文で。
これは、メテリアが考え出した3つの詠唱を1つに纏める詠唱方法。 メテリア曰く《三位一体》。
そして、それらは狂いも無くラートに襲い掛かる。 あの球体を発射できず、やむを得ず魔法の対策に回った。
「ぐぅ・・・!」と、ラートが呻く。 人差し指は、冷たさや痺れで若干震える。
そして、やっと球体を発射できると思った頃には、メテリアは右腕を既に構えていた。
(……開放する余裕が無い……ッ!?)
ラートがそう思った頃には、メテリアは詠唱を終わらせ、発射準備に入る。
「《焔波》!!」
思えばこれも《三位一体》なんだろうか。3つ同時に繰り出される炎はラートに向けて遡る。 またも、魔法の対処に指を回すしかないラート。
「ちくしょ……ガアァァァァァァァ!!!??」
巨大な炎に指を触れさせれば消える。 それは変わらないが、唯一変わったのはラートの反応だ。
先ほどの《焔波》3連発とはまったく違う、苦しい表情のラート。 そして、確信した顔のメテリア。
メテリアは右手を突き出し、唱える。 メテリアが覚えるもので、敵への到達が最速を誇るそれ。
普段は威力が小さすぎて使わないが、今この場では、それが役に立ったようだ。 唱える。
「《風針》っ!!」
風を纏った一本の針は、それこそ風の速度でラートへと飛んで行き、何時もの癖で人差し指を前に出してしまうラート。
何百回も、もしくは何千回も指先を前に出して魔法を吸収しているラートだからこその、ミスだった。
「しまっ…………」 …そうラートが思ったのと、針が指に触れるのはほぼ同時だった。
ラートの指先から体にかけて灼熱というか、電撃と言うか、氷冷というか。 なんともいえない感覚が遡る。
それは先ほどまで受けていたメテリアの魔法そのものであり、もちろんそれは、1つ1つが高い威力を持つものだった。
「がっ…………」 ・・・そんなうめき声に似た声がラートの口から出て、ひとりでにラートの体が後ろへ飛ぶ。
まともな着地ができず、仰向けに倒れるラート。 彼はもう意識を失っていた。
――――
――Side アルト――
「……決まったな」
それがそういうのが早いか、エイナは立ち上がって興奮したように叫ぶ。、観客席も大分ざわついているようだ。
「すげぇ! Aクラス相手に勝っちまったよミリアの野郎!」
「おいおい、落ち着けって・・・」 と俺は言うが、エイナは聞く耳を捨ててしまったようだ。
あーあ、こりゃメテリアが帰ってきて十数分はこのままだな。 まぁ、メテリアにはゆっくり休ませてやりたいんだが……
「ミリアァァァ!! すげぇじゃねぇか、勝っちまうなんてよ!」
言ったそばから。 帰ってきたメテリアに抱きつくエイナ。 今のメテリアの状態考えてみ……と言いそうになったが、まぁ、止まらないか。
メテリアは足取りがふらふらしているものの、まだ元気そうだった。
まぁ、《焔波》3発分一気に喰らって、そして魔力を大量消費だもんなぁ……そりゃ脚がふらつくよな。
「ア、アルト君……」 と、メテリアが話しかけてきた。 なんだ?
「あ、ありがとう。 アレのおかげで、勝てたから……」
あぁ、アレね。 エイナが「何だ?」と聞いてくるので、ちょうど良い機会だ、俺の作戦を教えることにした。
―――俺は、あのラートとか言うヤツが魔法を消しているのではなく、吸収していると見た。
何かラートとエリヴァンの戦いで、あの消える感じがどうしても指先に吸い込まれる感じに見えたからな。
それで、その吸収した魔力はどこへ行くのか。 多分、あの球体だろうな。
人間が魔力を許容値より多く得ると、その魔力に耐えられずに暴発する。 だから、人間は無意識に出る魔力と生み出す魔力をコントロールしている。…ってのは学園の授業で習った。
だからラートはあの球体に魔力を込めることで体内の魔力の量をコントロールし、ついでにそれを攻撃に利用していた。 撃った魔法と受けたダメージが同じだったのは、そのためだ。
俺はそのことから考えた。 それなら、ラートに球体を発射させる暇を失くし、魔法を次々に受けさせれば勝手に自滅するのではないかと。
最初にわざとメテリアに球体を受けさせたのは、ラートが受けた魔力をそれに転化させているというのを確認させるためだ。 ごめんな、メテリア。
そして、それで確認が取れたら後はメテリアの豊富な魔法で相手の暴発を待つだけ。 ここで【魔術特化】が役に立ったな。
3つ同時展開、マジックラグ(魔法陣展開から魔法が出るまでの時間のことだな)がほぼ0。 この作戦にピッタリだ。
そしてアイツは魔法を受け続け、最後でボン!だ。 アイツは今までに喰らった魔法の全ダメージを1回で受けて、気絶したわけだな―――
俺がメテリアに耳打ちしたのは「1回《焔波》で様子見して、黄色い球体を受けてくれ、それがフレアのダメージと同じなら、間髪入れずに魔法を叩き込め」
そして、「勿論これは俺が勝手に考えた作戦だから、無視して良い。 てか、ヤバイと思ったら無視してくれ」 と。
「ありがとう…アルト君が考えてくれなかったら、私、負けてたかも」
そこまで言われる覚えはないんだけどな……でも、素直に受け取っておこう。
「……質問」 ……アリスが手を上げた。 ……なんだろう。
「……それなら、格闘のヨハンを出したほうが、良かったんじゃないの……?」
……ふむ、確かに。 まだ選手決めの段階では魔法だけを吸い取るなんて分からなかったけど、ソッチのほうが良かったかもな。……でも。
「それは個人戦の話だと僕は思う。 ……なんせ、まだ4試合も残ってるわけだからね …そうだろう?」 ……ヨハンが言う。 俺の言いたかったことを……。
「……あぁ、個人的には、Aクラスのコイツには誰々っていう風に、出来るだけ有利になるような決め方をしてるからな」 ……俺は、それに続けて言った。
「理由が……あるなら……良いけど」 ん、アリスも分かってくれたようだ。
さて、ともかく1勝はした。 後2勝で、優勝だ。
――――1番手終了 勝者、Gクラス ミリア・メテリア。
――――Aクラス 0-1 Gクラス
ヨライ「何で送り出す時に嘘ついたん? 「メテリアしか勝てない」って」
アルト「嘘っていうか、勝てる確率が高かったのがメテリアだったからな」
ヨライ「じゃあそう言えば良かったじゃん」
アルト「ソッチの方が気分乗るかなーって」
ヨライ「……コイツ……まぁそれはともかく、感想・アドバイスお待ちしております!」