第20話:アルトは、XCMに出場した。 (4)
「Class E vs Class G」
修正しました。 物語に影響ありませんので、ご心配なく。
――Side アルト――
―――XCM準決勝、第2試合。 Eクラス対Gクラス。
第1試合では、AクラスがBクラスを3対0とストレートで下し、決勝進出を決めた。
その圧倒的な力に、他のメンバーが恐れ戦く中……俺はとても興奮していた。
早くあいつらと戦いたい……。 そのためには、Eクラスを下さなければ。
皆には、まだ戦う気は残っている。
団体戦ゆえ、俺1人がやる気になっていても皆に戦意がないならその戦いに勝ちは無いのだ。
「さて……1番手は……アリス。 行ってくれるか?」
ストレートの長い黒髪が目立つ少女、アリスは、若干俯きながらもコクンと頷いた。 よし、決定。
アリスは立ち上がり、皆に向かって一言。
「…………勝ってくるから……」
何時ものアリスの口調だ。 一見暗いような。だけど、その言葉に確かな意思が宿っているのは、誰の目にも明らかだ。
そしてアリスは、闘技場の中へと踏み込んだ。
「それでは始めましょう! 1番手……始めッ!」
ゴングが鳴り、アリスは何時ものように両腕を突き出し、両手を広げた。
「…………【発動】」
ボソッと言うと、アリスの近くから円状に、地面を押し退けて、ドバンッ!と大小様々な木や草が溢れ出し、其処に密林を作り始めた―――
――――
――Side ヨライ――
―――アリス・ローマイの【チカラ】は、【密林を作り、支配するチカラ】。 通称【密林地獄】
其れはまさに名の通り、アリスが【チカラ】を発動すると、まずアリスを中心にジャングルが出来上がる。
元の世界であったような、そしてこの世界にもあるだろうジャングルを超短時間で作り出すのだ。
「木には火を…《火球》!!」
アリスのジャングルは、闘技場を埋め尽くすには十分だった。 相手もそのジャングルの中に飲み込まれる。
その相手、杖を持った魔法使いだろう男子生徒が、杖を両手に持ち詠唱。 バスケットボールほどの大きさを持つ、煌々と燃える火の球が作り出される。
杖を前面に振ると、其れが手身近な巨木に向かって飛翔した。
……どうせ本人には当たらない。 この目障りなジャングルを燃やすことが先決だ―――その男子は、そう思ったらしい。
考えは正解だろう。 だが、アリスの能力は【「木」を「操る」】のでなく、【「密林」を「支配する」】事だ。
地面は土である。 その土が突然盛り上がり、巨大な壁を作り出した。 当然、火球は壁に阻まれ、消滅。
その後、同じく《雷矢》、土に効きそうな《水球》を連発するも、前者は土壁に、後者は動く蔦が寄り集まった壁にそれぞれ阻まれた。
男子が「くそっ!」と思わず口に出すと同時、何処からかアリスの声が聞こえる。 天から、地から、右から、左から…全方向から。
「……今度は…こっちから…」
男子生徒は声に警戒し、杖を構えた。 そしてその数秒後、男子の前から高速で、さながら槍の様に先端が鋭くなった蔦が3本、飛んできた。
「く……っ…」 男子生徒は中々身体能力が良い様で、体を捻り、ステップし、時には杖で蔦を叩き落したりもするが、段々とその動きは鈍くなる。
急激な運動に加え、時々体を掠る蔦の傷が、ドンドンと体力を削っているのだ。 血で、彼の制服は段々と赤く染まる。
「クソが……ッ! なめるなよ! 【大熊四重奏】!!」
ついに切れた男子生徒は自らの【チカラ】を発動する。 彼の【チカラ】は「召喚系」。
「グオオオォォォォォ!!!」と彼の周りに現れた4体の黒大熊が雄叫びを上げ、彼に襲い掛かろうとした蔦をその鋭利な爪で切り裂いた。
一方、アリスは腕に現れる切り裂かれるような痛みを堪えていた。 この【チカラ】は、操作している物と四肢とでダメージが共有されるのだ。
先ほどの蔦は油断した。 其れは切り裂かれて先端が千切れている。 つまり、その痛みがアリスの腕にのしかかっているということ。 これが、【密林地獄】のデメリットである。
だが、チームのためにも負けられない。 特に、赤茶の髪をした少年のためにも。
「行けっ!」 男子生徒がベアルたちにそう命令する。 ベアルたちは忠実に動き、目の前の蔦や木を切り裂きながら突進、アリスに迫る。
対してアリスは力を溜めている様で、ドンドンとベアルたちとの距離は縮まる。
そして最初のベアルが、アリスに半ば倒れこむようにその爪を振りかぶり―――――爪がアリスに到達する前に、『ベアルの腹を、何かが貫いた』。
腹をぶち抜かれたベアルは叫び声を上げることすら叶わず、光の粒子となって消えた。 その後ろには地面に突き刺さるこれまた巨大な「木の杭」が。
ベアル達のおかげで視界が開けている。 男子生徒はその光景を見て、思わず息を呑んだ。
その男子が、生き残るベアル達に命令を下すその前に、アリスの前方から現れる木の杭はアリスが腕を引き、再び突き出すたびに次々とベアルを打ち抜き、光の粒子へと変貌させていった。
そして。 最後の1体を消滅させたアリスは、男子生徒に照準を合わせた。 こればかりは、鋭い杭ではなく、破壊力の槌であるが。
「ぐっ……」 男子生徒は後退りすることも出来ず、その場で小さく震えながら立ち尽くす。
アリスは、容赦なく右腕を引き、そして突き出す。 槌は先ほどまでの杭と同じように飛び出した。
そして男子生徒は、先ほどのベアルを次々と打ち抜くアリスの獰猛な笑みを思い出し、其れに強烈な恐怖を抱きながら、意識を失った。
――――
――Side アルト――
「よし、まずは1勝だな」
エイナが言う。 アリスなら勝つだろうって感じてたが、やってくれた。
帰ってきたアリスに、労いの声を4人で掛けた。 其れに対してもアリスは俯き、無表情かと思って顔を覗き込むと、顔は少し笑っていたようだった。
「……次は……ヨハンか」
「うん、僕だ。 さてと……行って来るかな」
「……リーチ、かけてくるよ」
男ながら、かっこいいなと思った。 主には厨二的な意味で。 少しは本気で。
お坊ちゃま風のヨハンだが、実力は本物だ。 どうせ他人の試合中には何も出来ない。 黙って見守ることにした。
――――
ヨハンの二つ名は《爆速》。
その由来はヨハンの【チカラ】であり、1対1のこの大会では多大な効果を発揮する【チカラ】だ。
相手は、拳にガントレットをつけた女子。 どうやら拳で戦う格闘家のようだ。 アレに当たると、痛そうだが。
しかし、ヨハンは其れに掠ることすらもない。
「く、ちょこまか動きやがって!」 と、相手の女子は拳を振り回しながら叫ぶが、其れに応じるヨハンではない。
女子が叫ぶ間にもヨハンは、拳や足で少しずつ相手の体力を削って行くのだった―――
―――ヨハンの【チカラ】とは、簡単に言うと「瞬間移動」である。 細かく言うと、【脚力を超人レベルにまで上げるチカラ】。
その上げた脚力は、俺の【チカラ】で出来る脚力増加とほぼ同じぐらいだ。 いや、俺よりも上かもしれない。
俺の脚力はモザ戦で明らかだろう、アレより上の速度で人が迫るとなると……其れは相手から見ると、瞬間移動というより他ならないのだ。
「遅いよ、君…」
そうヨハンは言うが、その速さのために相手には途切れ途切れにしか届いていない。
今、ヨハンは相手の周りをぐるぐると回っており、相手の女子を十二分に混乱させていた。 アレは目が回るな。
そして、早すぎるヨハンの機動はあたかも分身しているかのように見えているようだった。
「ちくしょうっ!」
少々目を回しつつも、倒れないのは流石格闘家だ。 俺なら、【チカラ】を使わなければぶっ倒れそう。
女子は苦し紛れに、渾身の右ストレートを分身しているように見えるヨハンの1人に叩き込もうとした。 だが、其れは当たることはなく、虚空を殴るだけ。
分身は消え、彼女の後ろにヨハンが現れる。 其れに気づいた彼女は振り向きざまに裏拳を叩き込もうとするが、ヨハンの脚が先に、彼女に到達した。
女子でも容赦なく、腹につま先蹴りを打ち込んだヨハン。 振り向きざまということもあって彼女は後ろに吹っ飛び、あっけなく意識を飛ばしたようだった。
――――
「勝負ありだぁぁぁ!! ザリアント=ヨハンの蹴りがヒットー! これで2対0! Gクラス、決勝に王手を掛けましたぁぁぁぁ!!!」
トーの実況も、なんだか心地よく感じてきた。 …毒されてきたのかな。
「よくやったヨハン! 結構かっこ良かったぞ!」
エイナが、戻ってきたヨハンに話しかける。 そのヨハンはというと。
「「結構」はちょっと気に食わないけど……そ、そうだった?」
顔が赤いぞヨハン。 どうした? そりゃ運動後は顔赤くなるけどさ、其処まで赤くなるか?
「そりゃもう! 「結構」かっこ良かった! ……さて、次はアルト、お前だな!」
追い討ち掛けるなよエイナ。 「結構」は使ってやるなっての。
……ふぅ。 俺は、一度深呼吸して、決着を付けに行く。
「あぁ。 じゃ、行ってくるわ」
相手は、多分Eクラスキャプテン……幻覚使いのマリン・ブルーミア。
さて、「決め」に行きますかっ!
―――
――Side ヨライ――
マリン・ブルーミアの【チカラ】は【強力な幻覚を与える】……だけではない。
彼女の力は【幻覚・幻聴・幻痛を与えるチカラ】。 1回戦では、相手が単純すぎた故に後2つは使わなかったのだ。
今回は、Gクラスといえども油断できない相手。 ……だと思っていた。
だが相手の赤茶色の髪を持つ少年は、まんまと自分の策に嵌っているではないか。
…一応、「自分が相手の周りを相手が敵わない速度で跳び回る幻覚」と「それに付随する幻聴」は使った。
こう見えて、意外と調子に乗りやすいタイプのブルーミアは、策に嵌ったアルトを嘲笑うかのようにゆっくりと近づく。
ブルーミアの幻覚は、1回30秒で消えるというデメリットがあるが、それでもゆっくりと近づき。
ちょうど20秒で其処にたどり着いた。 さて、そろそろあの白髪を沈めた蹴りを放とうと言うときだ。
「悪いなッ!」
そんな声が「後ろ」から聞こえた。 アレは、あの少年の声ではなかったか。 思わず、後ろを見た……だけど、誰もいない。
なんだと思ってまた前を見る。 すると、幻覚と戦っていたはずのあの少年は、忽然と姿を消していた。
「ど、どこに・・・!」
消えた? そう発音する前に、彼女の首筋に一発、トンッと軽い衝撃が加えられた。
其れがアルトの手刀だと気付くのにはそうそう時間は掛からず、だが気付く前に、彼女の意識は闇へと落ちてしまっていた。
―――
――Side アルト――
よっし、気絶したな。
俺がブルーミアに手刀を入れ、ブルーミアが崩れ落ちると、トーが血管がはち切れるんじゃないかと思うような声で叫ぶ。
「一撃で沈めたぁぁぁぁ!! アルト=シューバ!! 幻覚使いのマリン・ブルーミアを打ち破っての勝利だぁぁぁ!!」
観客席が沸く。
あぁ、あそこで狂喜乱舞しているのはGクラスの皆かぁ……と思っていると、またトーは血管が以下略の声で叫んだ。
「これで3対0!!! なんとGクラスも、ストレートで決勝に進出だぁぁぁぁ!!!」
再び観客席が沸く。 そうか、もう進出決定だった。
俺はゆっくりと控え場所に戻り、4人と喜びを分かち合う。
「よくやったアルト! 決勝進出だ!」 ……と、エイナ。 「あぁ、ありがとう」と笑顔で返す。
「やっぱり敵わないね。 幻覚使いを破るなんて」 ……と、ヨハン。 「そりゃどうもだな」と、こちらも笑顔で。
「や、やったねアルト君!」 ……メテリア。 「あぁ……って痛い痛い。 振り回すなって……」 握力強すぎだろ……やめて、痛いから。 喜んでもらえるのは嬉しいけど。
「…………」 ……アリス。 何も喋ってないが、グッ!とサムズアップをしてきた。 俺はそれに、同じくサムズアップをトンッとくっ付けることで喜びを共有した。
「……やったな。 でも、まだ準決勝だぜ?」
そう、メインはここからだ。
学年最高位の負けず嫌いを始め、敵の動きを急激に遅くする青髪、大剣使いの白髪女子、魔法を吸収した黒髪。そして、もう1人。
まさに最強と言って良い5人だ。
だが、こちらもみすみすやられに行くつもりじゃない。
全力を出して倒す。 ただそれだけ。 この大会では、俺達はGクラスじゃない。
「よっしゃ! 全力出して倒すぞ!」
俺の右手が一番下、そしてエイナ、メテリア、ヨハン、アリスを順番に右手を乗せていく。
そして俺の掛け声と共に、「おぅ!」と右手を掲げた。
――――Gクラス、決勝進出。
――――決勝の相手は、最強Aクラス。
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