第13話:アルトは、王国騎士団と戦うことになった。
いや、別に反乱起こした訳じゃないですよww
――Side アルト――
「…まー、今までは時間割を決めるなんてなかったもんな」
「おかげで朝飯抜きだよ、全く…」
机に突っ伏す俺。
エイナが、俺の先ほどの慌てっぷりを思い出し、そう言った。
今は、始業の1分前。
…昨日、時間割を決めずにそのまま寝てしまった俺は、朝から大慌てとなった。
まだどれがどの教材か知っているなら問題は無いだろう。 だが、貰って間もないそれをどれがどれか判別する技術は、俺にはない。
そのせいで、俺は朝飯を食いぞびれた。 …俺がちょっと長く寝てしまったと言うのも問題なんだが。
…この世界には目覚まし時計がない。 …普通の時計に機能でもつけようか。
「おーっす、皆おはよう。 今日も頑張るぞー」
ガラガラと、今日は普通に扉を開け、ジェイ先生は入ってきた。 なんだ、普通に入れたのか。
「…皆ー? 今、「なんだ、普通に入れたのか」とか思わなかったかー?」
!?
「まー、どうでもいいけどなー。 よし、1時間目始めるぞー」
皆がそう思っていたらしい。 当たり前か、昨日あんな入り方をしてきたんだもんな。
さて、1時間目は……「実技」? 実技って、あの?
「よーし、実技だなー。 実技場に向かうぞー」
実技。 え、初っ端から何すんだ?
エイナに聞いても、「俺も分からん」と。 まぁそうか。 …なんか、嫌な予感がするな。
実技場。 日本の学校の体育館4つほどがすっぽり入るくらいの、簡単に言えば馬鹿でかい体育館。
この「実技」の授業のほかに、武道場の予備としても機能しているそうだ。
床や壁は日本の体育館とほぼ同じ。 ただ、よくあるバスケットボールとかのラインが無い位だ。
俺たちは実技場の真ん中に集められる。
「1時間目は実技だー。 実技って言うのはー、簡単に言うと戦闘訓練のことだなー」
…やっぱり、悪い予感が的中した。 1時間目から、しかも今日は朝飯抜きの俺にとっちゃ、これより辛い物はないな…。
この実技場が馬鹿でかいわけは、40人に1人ずつ相手がつき、それぞれ同時に訓練を行うからだという。
「せんせー。 このブレザーのままそういうことをするんですかー?」
男子の1人が、そんな声をあげる。 あ、そういえば。 大丈夫なのか?
「あぁ、大丈夫だぞー。 皆が着ているブレザーはなー、防水、防汚、対傷、復元の魔術が掛かっているからなー、汚れなんか、振ったら落ちるしー」
「あと、今日やるのは魔法抜きの格闘訓練だー。 そこんところは気にしなくていいぞー」
ジェイ先生が冷静にそう答える。 なるほど、これもハイテクなんだな。 汚れが振ったら落ちるとか、元の世界より強力だし。 …ん? いやいや、そういう問題か?
女子のスカート? …知らんよ、そんなもん。 中に短パンでも穿いてるんじゃないか?
「…え、えと…女子もやるんですか?」
若干恥ずかしそうに手を上げて尋ねるのは、1-Gの1番、《獄焔》の二つ名を持つ銀髪少女、ミリア・メテリアだ。 いまだに、その二つ名の意味が分からないが。
「おー、勿論だ。 …あー、メテリアがそんな質問をするのも当然かー。 安心しろー? ちゃんと相手も女性だから」
「安心できるか!」 …突っ込むのは俺の隣にいたエイナ。 …いや、その性格からして大丈夫だろ、お前は。
しかし、女性と言ってもめっちゃ強い奴もいるわけで。 それは15歳相手にやらせるとかやっぱり鬼だな。 エクシル魔法学園。
と、そんなことを思っていると実技場の金属製の扉がゆっくりと開き、ぞろぞろと、場内に入ってきた。
「おー、丁度来たみたいだなー。 みんなの相手をしてもらうのはー、ガフリア王国騎士団の兵士さんだー」
「失礼の無いようにしろよー。 …それじゃ、お願いしますねー」
入ってきたのは、20代から30代くらいの男女、40人ほどいる。 ちょっと痩せている人から、ムッキムキの人までいる。
1人に1人ずつ相手がつく、って言ってたから、男女比は1:1か。 あ、言い忘れてたが1-Gの男女比も1:1だ。
「おーっし! 今日お前らの相手をさせてもらう王国騎士団第7歩兵部隊だ。 俺は歩兵長のラウング。 よろしくな!」
「今日は格闘訓練だ。 魔法は一切なし。 【チカラ】の使用も不可だ! 条件はこちらも同じだから、全力でぶつかって来い!」
…暑い。
兵士長のラウングと名乗ったのは、先ほどの、筋肉ムキムキの男だ。 身長は190cmくらいだろうか。
黄色に白の線が入ったピチピチのTシャツと黒いパンツをはいている。
口調がやたら暑苦しい。 …この人とは戦闘したくないな。 主に雰囲気的な意味で。
兵士達はみな私服のようだ(これも大丈夫か?)が、肩や胸に王国騎士団の紋章の刺繍が入ったワッペンが付けられている。
アレが騎士団員を表すマークって訳だ。
戦闘訓練が騎士団とか…。 何この鬼軍曹的授業。 俺らを殺す気か?
「さて、今から訓練を始めるが・・・、 その相手はくじ引きで決めさせてもらう!」
そういうと、何処からか籤が入っているのであろう箱が2つ。 男子用と女子用か。
籤は兵士達が引き、其処に書かれた生徒が訓練相手となる。
とりあえず、あのラウングとか言うおっさんとは一緒にやりたくねぇな。 ま、20分の1だ。 当たるわけが…。
「じゃ俺から引かせてもらうぞ! ……アルト=シューバ! 俺が訓練相手だ! 出てこい!」
…フラグ回収…。 いや、もう当たるだろうなーって予想してたけどな? 本当に当たるとは思いもよらなかったわけよ。
だからそういうことはフラグにするなと何回言えb「早く出てこい!」 …はいはい。 行けばいいんだろ、行けば…。
…というわけで、フラグ通りにラウング歩兵長と訓練することになった俺。
皆はそれぞれ離れて、元の世界で言う、組み手? を行うらしい。
「よーし、それじゃあ時間は今から10分間だぞー。 兵士さんたちには手加減してもらうからなー」
「倒せるように、努力「は」しろよー」
…それ、明らかに「確実に倒されるだろうけど頑張れ」って言ってるような物ですよね、ジェイ先生。
いや、当たり前か。 歩兵といっても騎士団だし。 15歳に倒されるようじゃ、面目立たないもんな。
「それじゃあ始めるぞー。 よーい、スタートー」
先生がホイッスルを鳴らし、それと同時にラウングはこちらへと走る。
「ははは! お前のようなヒョロい奴が、俺を倒せるのか!? 行くぞ!」
…え、何も指導とかなしなの? ちょっと、ガチで戦闘じゃねぇか…。
…ってか、別にヒョロくは無いと自負している。 むしろそっちが筋肉の塊なだけじゃ…。
…うおっ!
俺が考え事をしている最中にもかかわらず、突っ込んでくるラウング。 こういうときには止まるのが礼儀じゃないのか?
ラウングは右腕を引き、走りこんでのパンチを繰り出した。 …速いっ! 後ろにステップして、避ける。
…これで本気じゃないのかy―――
―――……あれ、最初は速く見えたけど…、其処まで速くない?
「ハハハ! どうした!? ビビッて避けてるだけじゃ話にならんぞ! このチキンが!」
…ちょ、良いのかよ、そんなこと言って。 主に指導方針的な意味でさ。
…チキン? …ちょっとむかついたな。
そう考えている間にも、ラウングはさらに間合いを詰め、また同じ右腕でのパンチ。 …攻撃方法それだけじゃねぇよな? もしかして。
しかし、俺からすると隙が多いような…手加減だからか? いや、でも倒されて元々だから、行ってみようか。
俺は、体を沈めて相手のパンチをかわすと、鳩尾に照準をセットし、右腕の肘を突き出す。 そして、衝突のタイミングにあわせ、一気に突いた。 肘打ちだ。
ラウングは、待ってましたとばかりにそれを
「ゴッ!?」 …あれ?
ラウングは、肘打ちのをモロに喰らい、場所がちょうど鳩尾だったことも合わさったのか奇声と同時に膝をついてしまった。
…あれ? こんな弱いはずないよな。 …あぁ、元気出すためにあえて受けたのか。 騎士道精神(?)に感謝だな。
「やるじゃねぇかアルト=シューバ…。 だが、このぐらいで俺を倒せたと思うなよ!」
結構苦しそうだな、おっさん。 どうしたんだ? 調子悪いのか?
…そう思っているうちにも、ラウングは立ち上がり、後ろに離れていた俺に向かって突進。 そのまま跳躍、右足を突き出した。
…飛び蹴りだ。 …隙多い技を良く使うよな。 しかし当たったら大惨事。 右にステップして避ける。
着地したラウングは、そんな俺に向かって旋回し、ラリアットを繰り出した。
「…うおっ!?」 …思わず声が出る。 咄嗟にしゃがんで避けた。
「ハハハ! 隙ありだーっ!」 と、ラウングはそんな俺に向かってもう一方の腕、右腕でのアッパー気味のパンチが。
…やっぱ遅いような…。 右に最小限動き、ラウングのパンチを避けると、俺は左の拳を握り締める。
「…ぅうおらァ!」
…しゃがんだ体勢から、半ばラウングに突進するように立ち上がり、左ストレート。
「ごあっ!?」
あれれっ? …ラウングは、またもそれを鳩尾に喰らい、今度は後ろに倒れこんだ。
左だし、流石に吹っ飛ばなかったか。とか思っていると、 …ん? おっさんが起きてこない。
「おーい、歩兵長?」
…え、まさか、気絶したとか、ないよな?
……………え……、え? えぇぇぇ?
見ると、全員が俺とおっさんを見ていた。 そりゃ、15歳相手に歩兵長がやられちゃ驚くだろうけど…
…え?
――――その後、ラウング歩兵長は10分後に目を覚ました。
――――「アレは…ちょっと油断してただけだ!」と言っていたが、その真偽は不明である。
多くのご指導ご指摘ありがとうございます!
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