第12話:アルトは、唯一の知り合いの【チカラ】を知った。
――Side アルト――
―――ガイン学園長から衝撃の事実を叩きつけられ、学年トップのダント・サスティーフから勝手に宿敵な感じにされた俺。
寮登録をするため特別教室棟の階段を下りながら、俺は考える。
「…つまり、俺が何か望めばそれが叶うってことなのか?」
思わず口にしてしまうが、気にしない。 それほど、俺にとって驚いた事実だったのだ。 誰だってそうなるだろう。
「……」
ちょっと試してみよう。 金を入れる袋を開け、何も入っていない事を確認する。
そして、「金よ来い!」と願ってみた。 ……何も起こらない。 やっぱ何か制約g
途端、俺の袋には一瞬の内に金貨が半分ほど入っていた。 呆然とする。 夢かと思ったが、振るとちゃんと音がするし、しっかり触ることも出来る。
金貨は一枚で銀貨の200倍、日本円で100万相当の値打ちがある。 銀貨は一枚で5000円だからな。
この世界の硬貨は、全部で3種類。 銅貨が100円相当、銀貨が5000円相当、金貨が100万相当。 相当幅がある気がするが、気のせいだ。
そんな金貨が、目測30枚ほど。 総計、3000万…。
やはり、夢ではなかった。 しかし、大金を持って歩くのは幾らなんでもやばい。 学園でもやばいかもしれない。
俺が消えろと念じると、金貨は跡形も無く消えた。 やはり、本物だ。
俺は、内心ビクビクしながらエクシル学園寮へと向かうのだった――――
「はい、1-Gのアルト=シューバさんですね? 部屋番号は280番となります」
「あ、ありがとうございます」
「1-Gのアルトさんですね、制服はこちら、教材等はこちらとなります」
「はい、ありがとうございます」
寮の前へと来た俺は、これといった問題も無く、普通に寮登録を済ませ、制服と教材を貰うのだった。
眼前に広がるのは、これまた巨大な学園寮。 生徒は全員、寮に住まなければいけないらしい。 近くに住むやつは涙目かもな。
しかし、俺の順位と同じ280という番号は偶然だった。 本当は1番だったらしいのだが。 どうでも良いか。 寮は同じなのだから。
本当はAクラスだったらしい俺。 だが、Gクラスのほうが良かった感じもする。
唯一の知り合いであるエイナと出会えたし、今年のクラス対抗戦は番狂わせになるかも、とジェイ先生も言っていた。
なんか面白そうな奴らもちらほら居るし、明日にでも話しかけてみようかな。
寮の中に入ると、幅3mほどの広い廊下の両壁に扉が付いている。 廊下は結構長く続いており、100m以上はあるだろう。
1学年1階らしく、1年は1階だ。そして280番は廊下の一番奥。 くそ、やっぱり1番の方が良かったかも。
…ん? …あぁ……「脚力」!
…面倒臭くなった俺は、その場で【チカラ】を発動。 一瞬で奥へとたどり着き、扉の前に立つ。
そして、鍵を取り出す…のではなく、ただドアノブを握り、回すだけ。 それだけで、閉ざされて居たドアは開く。
貰ったパンフレットによれば、ドアノブには『認証』と『開錠』、『施錠』の魔術が掛かっており、触れるだけで本人を認識、鍵を開け閉めするらしい。
だからドアには鍵穴らしき物が無い。 因みに自分の情報は『判定球』で入手したらしい。 本当にハイテクだな、あれ。
「おぉ…」
部屋に入った俺は、まずは目を上下左右に動かし、 全体を見渡してみた。
前方は、ベッドや机、本棚…一見すると、ちょっと豪華になったビジネスホテルみたいな感じだ。
左を向くと、クローゼット。 やっぱり服を良く買うおしゃれな奴も居るんだよな。 俺はあんまり服は買わないだろうけど。
右にはキッチン。 そしてその奥に風呂&トイレだろうか。
…なるほど、アパートをちょっと豪華にした感じか。 ベッドもしっかりしてるし。
…突然だが、こういう時にはやる事があるんではないだろうか。
「おぉ、フカフカ!!」
勿論、ベットにダイビングである。 良いのを使っているっぽい。 さすがトップと呼ばれる学園だ。
何回もダイビングし―――なんか、ストレスが溜まっていたのだろうか―――漸く気が済んだところで――――
コンコン、ドアをノックする音が。 ベッドダイビングで気分が良くなっていた俺は、「はいはーい」とドアを開けようとし、
「………」
ドアを開けた先、目の前にあった、巨大な剣の切っ先に、思わず硬直してしまった。
「…おーい?」
10秒ほど経っただろうか、その声で、漸く硬直から脱した俺。 この声は、エイナ・・・?
…大剣がゆっくりと下がっていく。 その先に居たのは、紛れも無い、赤金色の髪を持った少女、エイナ・ユーグリッドだった。
「…いやーすまねぇすまねぇ。 ちょっと驚かそうとしただけだぜ。 許してくれよ」
「……あぁ、大丈夫」
此処は俺の自室。
明るい声でそう言ったエイナだったが、このときの俺は「大丈夫」と言いながらも顔がちっとも笑っていなかったらしい。
顔が青ざめたエイナ。 すぐさま別の方向へと軌道修正する。
「そういえば、学園長に呼ばれてたろ、何だったんだ?」
「…まぁいいや。 んー、とりあえず…俺の【チカラ】がチートで、トップに勝手に宿敵認定された」
簡潔すぎるにも程があるだろうというほどの分量で俺は話した。 当然、エイナは訳がわからず。
「…チートって何だ?」
…あ、其処からか。
その後、詳しく訳を話した。 俺のチカラが【創造主】だったということ。 『判定球』が原因で、俺はGクラスになったこと。
つまり、学年最高位のサスティーフは実は2位。 負けず嫌いのサスティーフはそれを認めず、俺を宿敵扱いしたこと。
ひとしきり話した後、エイナは俺の【チカラ】を見たいというので、先ほどの「何も入って無い袋に金貨出現」をやってみせた。
エイナはテレビのマジックショーで大げさに驚く客の如きオーバーリアクションをやってのけた。(くれとせがまれたが、断った。 それは、本当に必要な時な。と言って)
「…ところで、エイナの【チカラ】は?」
「あぁー…これだ」
エイナは立ち上がり、俺のベッドへと足を向ける。 そして、掛け布団にちょんと触れた。
「触ってみろ」 とエイナが言うので、俺も立ち上がり、エイナが触れた俺の布団にちょんと触ってみる。
…硬い? …なんだこれ、さっきまでフカフカだったのに滅茶苦茶硬いぞ?
「俺の【チカラ】はな、条件付だが【触れたものを硬化させるチカラ】。 《金剛剣士》って二つ名貰った理由は、これらしいぜ?」
自分の体も硬化できるそうで(むしろソッチがメインらしい)、分類としては「身体強化系」に属するらしい。その硬度は、鋼鉄を軽く超えるとか。
なるほど、ダイヤみたいに硬くさせるから金剛な訳だ。 納得納得……………ん?
「ちょっと待て、俺の布団はどうする?」
「…大丈夫だ、ちゃんと戻せる」
そう言って、エイナが触れるとフカフカに戻った布団。 …そういうのは、ちゃんと言ってからにしましょう。
…「じゃあなー」とエイナは向かい側の部屋(エイナは279番だからな)へと戻り、そういえば、1回しか会った事無いのにずいぶん普通に喋ることができたなぁと思う。
まぁクラスで、いや学年で唯一の知り合い(と言っても1回しか会った事無いが)だからか。 しかも、出会いがあれだからな…。
…ま、仲良くしよう。 仲良くしといて悪い事は無い!(一部例外を除く)
その後は、やはりエイナと共に夕食をとったり、行った食堂で、俺が料理好きだということを知った食堂のおばちゃんと仲良くなったり。
そのおばちゃんから幾つか料理のレシピを教えてもらったり。 今度作ってみようかなとか思ってみたり。
…あれ? 何か料理人小説へと変貌してないか? しかも、どこかから突き刺さる視線が痛いんだが。
冗談はともかく、寮でエイナと別れた俺は、部屋で風呂、洗顔、歯磨きの3段コンボ。 そしてベッドに横になり、あっという間に眠ってしまった。
―――こうして、波乱のエクシル魔法学園、1日目は終わった。
―――しかし、明日からはもっと多くの驚きがアルトを待ち構える。 無事に過ごしていけるのか?
…俺は、1つだけ忘れていたことがあった。
…時間割り決め忘れたのだ。 そのおかげで、明日は忙しく朝を迎えることになった。
感想ご指摘ありがとうございます。
国語的な知識がまるで無い自分ですので、とても役に立ちます。
この小説を書き終える頃には、ちょっとでも自信が付けばなと思っております。
感想やアドバイス、ドンドンお待ちしておりますよ!
そして、俺、唖然です。 今すぐ皆さんに土下座して感謝したい。
皆様の需要に偶然合ったというのが理由かは定かでは有りませんが、とりあえず、お読みしてくださる皆様に、最大級の感謝を。