第11話:アルトは、勝手に宿敵扱いになったようだった。
――Side アルト――
―――ジェイ先生から「その通告」を受けた10分後。
―――俺は、【学園長室】と刻印された金属のプレートが吊るされた重厚な造りの木の扉の前に立ち、何を言われるのかと内心ビクビクしていた。
「…ふー……よし」
Gクラスでの顔合わせが終わった直後、俺はとりあえず、学園長室の場所を探していた。
「……あー…案内板があればな…。 直ぐ分かるんだけども…」
と、そこでちょうど案内板が。 急いで駆け寄り、学園長室を探す。 ……お、有った。 どれどれ…「特別教室棟、5階」?
……確認してみよう。 今俺がいるのは一般教室棟の1階。 そして、学園長室は特別教室棟の5階。
…それぞれの距離は、およそ100m。
…え?
という訳で、急いで100m+αの距離を【チカラ】使用で走破した俺は、やっとその扉の前にたどり着いたのだった。―――
コンコン、意を決して、俺はその扉を軽く2回、ノックし、声を掛ける。
「1-Gのアルト=シューバです」
「入りなさい」
聞こえてきたのは、ナシズ爺よりも歳を召してそうで、ふんわりとした優しい男性の声。 いや、アレは40代位の声だったけど。
ドアノブを握り、グッと回してドアを開けた。
開けた先には、扉と同じく重厚で豪奢な部屋が広がっていた。
床には赤いカーペットが敷かれていて、両側の壁には何かの大会で優勝したのか、トロフィーが30個ほど並べられていた。
奥の窓近くには、剣と盾を交差させたような配置の、学園章が刺繍された校旗が立てかけられていた。
そして、1番早く目に付く、高そうな机と椅子。 学園長と書かれたプレートが置かれたそこには、声と同じく優しそうな表情の、白髪の老人が座っていた。
その手前、俺から見て左側に、「ヤツ」は立ち、首を回してこちらを見ていた。
長身痩躯だが、捲くった腕は明らかに筋肉がついていて。 俗に言う「細マッチョ」かとそう思う。
白と黄色を基調にした、まるで騎士のような姿をし、腰には細い剣が。 レイピアだった。
金髪で無表情な、だが口元に少し笑みを浮かべたヤツの表情は、今でも忘れない。 …アレは完全に、馬鹿にしたような顔だ。
「…さて、2人揃ったところだ。 話を始めようか」
ファルモート・ガインと名乗ったその老人…学園長は、そう言ってから話し始めた。
「まぁ…2人には話すことが違うからのぉ…まずはサスティーフ。 お前からじゃ」
「はい。 …して、なんでしょうか」
学園の長と、1年最高位が、話し始める。
「なに、毎年最高位の奴にはワシから1回話すことにしているんじゃよ。 …しかし、流石若くして《聖騎士》と呼ばれる男じゃのう」
「お前さんが此処に来ると分かった時から、上位に食い込んでくることは分かっておったよ。 とりあえず、おめでとう」
「はっ、ありがとうございます」
…どうやら、トップのサスティーフは《聖騎士》の二つ名を持ち、その能力も他の奴らより頭1つ抜けているという。
その名は王都では広く知られており、能力もさることながら、その美貌で多くの女性を虜にしているらしい。
なんだ、頭脳明晰、眉目秀麗、おまけに運動も出来る。 そしてリア充。 パーフェクト人間じゃねぇか…。
…で、最低位の俺が何でそんな人間と並んでるんだよ…。 落ち込む俺。
「…して、なぜ私がこのようなGクラスの、しかもワーストの奴と並んでいるのでしょうか」
こっちが知りたい。 後、その馬鹿を見るような目はやめてくれ。
「…さて、次はシューバ。 お前じゃよ。 …実を言うと、こちらがメインだったりするものでのぉ…」
…え? こちらがメインだと? …サスティーフも、無表情の中に驚いた感情が見え隠れしている。
「…それで、なんでしょうか」
俺がそう問うと、ガイン学園長は……なんと、頭を下げた。
「まずは謝らなければならん。 本当にすまなかった」…そういう学園長。 俺は、驚きのあまり声が出ない。
「…時にシューバ。 お前は、自分の能力を理解しているか?」…顔を上げた学園長は、続いて俺にそう尋ねた。
「…自分の中では、『爆発的に体の一部を強化できる【チカラ】』と捉えていますけども…何か?」
「ふむ、家庭の事情で、そんな風に捉えることも仕方ないじゃろう。 実はな、お前の【チカラ】はそんな小さいものではないぞ」
…え? 違うの? 聞けば、あの黒い球…「判定球」には、【チカラ】の種類を測定する機能も付いているらしい。
意外とハイテクだったんだな、あの球。
「…で、俺の【チカラ】はどんなものなんですか?」 俺がそう尋ねると、ガイン学園長は、口を開く。
「…あぁ、お前の【チカラ】は…『自分が望んだモノを創り出し、手に入れる【チカラ】』…通称『創造主』じゃ」
…読者の皆様にとってはもう予想済みだろうが、その当時俺といえば、硬直していた。 まさに「はっ?」って感じで。
そう、これこそが、俺の1番驚いた様子。 俺の思っていた【チカラ】が違って、しかもチート能力…?
…そう考えると、確かに…と思える部分がある。
ベアルを押し返したとき、俺は「怪力が欲しい」と願った。 バーディンを吹っ飛ばしたときは、「脚力が欲しい」と望んだ。
そういえば、夜店でホットドックもどきを買ったとき、明らかに1枚銅貨が足りなかったが「もう1枚銅貨があれば」と望んだら袋の底に1枚出現した。
先ほど「案内板があれば」と望んだ時、偶然にも近くに案内板があるように思ったが、あれももしかして。
「…ホントなんですか?」
「あぁ、本当じゃよ。 「判定球」に狂いはないわい」
マジかよ…そう単純にそう思っていると、サスティーフが突然喰らいついてきた。
「『クリエイター』・・・? 俺より強い【チカラ】だと…? …しかし学園長、それだけで合格してきたGクラスのワーストに、何があると言うんですか?」
…驚いた表情のサスティーフ。あぁ、コイツ負けず嫌いっぽいな。 あるある。
まぁ、言っている事は確かだろうな…そう思っていると、学園長は言い返すように返答する。
「何を言うておる、サスティーフ。 シューバはな、【チカラ】のレベルが『0』と測定されたというのに合格してきたんじゃぞ?」
「…なっ!?」
今度はサスティーフが驚いた。 ついでに俺も驚いている。 …つまり俺は、「国語」+「数学」+「魔法学×2」『だけ』で合格してきたのか?
「サスティーフ。 お前は確か、学力も【チカラ】のレベルもバランスよく、平均は90だったのう」
はい、とサスティーフは返す。しかし平均90とは…、並大抵の男じゃないな、コイツ。
「【創造主】は非常に強力な【チカラ】でのう…あまりに強力で、『判定球』が機能しなかったようじゃな。 よってレベルは0」
「それが無くとも380という点数を出したのなら、シューバの学力の平均は、95点じゃ」
「それだけではなく、シューバの「クリエイター」はレベル0と判断されたのじゃが、多分「クリエイター」のレベルは98くらいじゃのう」
「それを2倍して、シューバの点数にあわせると…」
「「576・・・」」
俺とサスティーフ、2人の声が合った。 簡単とは思ったが、そこまで高い点数とは…。 しかも、レベルが超高い【チカラ】だったなんて…。
「普通ならば、サスティーフの点数を軽々超えていたんじゃよ。 シューバは」
「だがのう…クラスはもう変える事は出来ぬ。 待遇もそのままじゃ。 …シューバは、それで良いかのう?」
あぁ、そういう話か。 だからガイン学園長は頭を下げてきたわけだ。 …ふむ。
「あぁ…俺は良いですよ。 Gクラスで知り合いも出来たので…」
そんな理由かと思うかもしれないだろうが、俺としては学友の存在ほど大切な物はないと確信している。 知り合いなら、尚更。
しかも、Gクラスは何か面白そうだし。 Gより良い物は無いんじゃないか・・・。 俺はそう思ったのだ。
「1-Gのジェイも言っておったが、今年のクラス対抗は面白いことになりそうじゃのう。 まぁ2人とも、仲良くするんじゃな」
「…冗談じゃ有りませんよ。 俺より強い奴なんて居ないです。 …クラス対抗で、潰して見せますよ」
そう、悔しそうにこちらを見ながら言うサスティーフ。「多分負けず嫌い」が「確実に負けず嫌い」へとシフトした。
「…Aクラスは強い奴ばかりですからね。 頑張りますよ」
俺はそういうだけ。 ガイン学園長は、笑いながら最後に言った。
「とはいえ、お前達が卒業するまで面白いことになりそうじゃな。 私の話はこれで終わりじゃ。 早う寮の登録と必要な物を貰いに行って来るんじゃな」
「…お前の名前覚えておくぞ。 とはいえ、ワーストと当たることなど無いだろうけどな…ハハハ。 それでは学園長。 失礼します」
うざったい笑みと共に名前を覚えられ、何か宿敵扱いされたような俺。 ん、これは死亡フラグか?
そう言って勢いよく扉を開け、歩き去るサスティーフ。 まぁ…アイツの名は「負けず嫌い」っていう渾名と一緒に覚えておくか。
「…えっと、それじゃ失礼します」
そう言って俺も扉を開け、一礼してから学園長室を後にした。
扉の先にはサスティーフが歩いていると思ったが、もう居なかった。 最後に見た後、走ったのだろうか。
まぁ、俺にはどうでもいいことだし。 歩いて帰ろう。
…そう思って、俺は歩き、寮の登録、必要な制服や教材などを貰って、登録された寮の部屋へと入った。
―――こうしてアルト=シューバは、自分の【チカラ】の全てを知った。
―――それは、これから始まる学園生活の、ほんの序章に過ぎなかった。
…まぁ、まだ1日目だしね。
ありがとうございますありがとうございますありがとうございます…
マジでビビッてます、マジで。
ありがとうございます、これからも読みやすい小説を目指して頑張るので、お願いします!