第9話:アルトは、縋る思いで最後の掲示を見た。
――Side アルト――
「…おっし」
AM7:30。
一晩ぐっすりと寝て、今日はエクシル魔法学園の試験日だ。 徹夜よりぐっすり寝たほうがしっかり試験に臨めると、ナシズ爺からのアドバイスだ。
今日からは学園謹製の仮寮生活となるため、クローゼットにかけてあった服を取り、バッグに全ての荷物を入れ、部屋を後にする。
「…おはよう」
「…あ、おはようございます」
1階へと下ると、ジャックさんは既にカウンターに座っていた。…この人だけは、流石に敬語でしか喋れねぇな・・・。
朝食を頼むと、ジャックさんはその強面とガチムチな体を動かし、裏へと入っていった。
「Black Jack」…夕食は出さないが、朝食は出してくれる。 まるでホテルだなと思いながら、ジャックさんを待った。
「お待たせ。 Black Jack特製のウィッチサンドだ」
数分待って裏から出てきたジャックさん。 その手には、元の世界で言うサンドウィッチが皿に盛られていた。
…うん、美味そうだ。 美味そうなんだが…なぜ挟まれている具がハンバーガーのようにとてつもなく厚いんだ…?
…ウィッチサンド。
その昔、高名な魔女がハンバーグ(のような物)とトマト(っぽい野菜)、レタス(に似た葉物)を食パン(みたいな物)で挟んで食ったのが始まりらしい。
あぁ、だから「魔女サンド」なんだ。 つまりサンドウィッチとハンバーガーを合わせた物だと。 紛らわしいな。
「…美味しいですね」
「ハハ、だろ? 此処らへんじゃ1番だと自覚してるからな」
ジャックさんはウィッチサンドのことを褒められると笑うのだろうか。 今までいつも強面だったのに。
味のほうだがもちろん見た目通りに美味く、僅か数分で食べ終えてしまった。 ちゃんと噛まなくちゃな。
…さて、行くか。
「よし、頑張って来いよ」
「はい、行ってきます」
きちんと洗顔歯磨きをし、ジャックさんの声援兼挨拶を受けながら宿屋「Black Jack」を出たのはAM8:00だ。
表へ出ると、其処には試験を受けるのだろう、たくさんの少年少女たちと、その親だろう老若男女が集まってきていた。
試験には受験者だけ居れば良いのだが、やはり心配なのだろう、多くの受験者に親が着いてきているようだった。
(俺の爺さんと婆さんは、全く心配じゃなかったらしい)
まだ比較的空いている時間帯だったらしく、「Black Jack」が学園正門に近い事もあって、楽に門を潜り抜けることが出来た。
そういえば、まだ学園全体を見たことは無いな…そう思いながら、俺は敷地内へと、1歩足を踏み入れた――――
―――エクシル魔法学園の敷地は広大だ。 東京ドームが何個入るか分からない。
その中には一般の教室棟を始め、各種類に応じた道場(武術家も集まるのか…)や食堂、温・冷水プール、果てにはスタジアムまで―――
ありとあらゆる施設が有り、そのレベルの高さを窺い知ることが出来る。
制服はブレザーらしい。試験会場に行くまでの間、ありとあらゆるところでその紺色の制服を見た人物を見かけた。
私服なのは、俺達受験生だけだ。 …まぁ、紹介はこれぐらいにして、さっさと試験会場へと行こうか。
試験会場は一般の教室が立ち並ぶ一般教室棟。 A・B・Cと3棟あるが、全てを使って試験を行うらしい。 受験者数が多いためだ。
俺は受付でエルフの姉ちゃんに俺が受ける場所が記載された紙を受け取り、その場所へと向かう。
場所は、「3-E」。 どうやら3-EというHRのようだ。 案内板に従い、3-Eへと向かう。
この学園は合否判定と共にクラスが決まる。 点数によってG~Aクラスに分けられ、それは卒業までの間、維持される。
勿論、点数が良く上位クラスに入ることができたならば待遇もよく、下位クラスならば待遇は低い。
つまり、この入学試験で全て決まるわけだ。 この制度作った奴、とりあえず出て来い。
兎にも角にも、俺は指定された3-Eへと着き、黒板(?)に掲示された席へと着く。
そして、俺が爺婆特製の暗記本を読んでいる間にも次々と受験者は席に着き、思い思いの方法で最後の追い込みをしている様だった。
そして、AM9:00。 国語、数学、魔法学全ての試験用紙が配られると、魔術式遠隔声波発信器で張りのある女の声が告げた。
「それでは、試験始め!」
俺は、少し緊張しながらも、一枚目…国語の用紙を表向きにしたのだった―――――
―――
それから、1週間が経った。今日は、エクシル魔法学園、合格発表の日。…え、早い? 仕方ないじゃないか、本当にすることが無いんだから。
簡潔に言うと、試験は結構簡単だった。自分で言うのもなんだが、全教科90点以上は超えているだろうと思う。
お、これは上位クラス確定か? フラグ? またまた。
【チカラ】のレベル判定は、3教科が終わった後、最後に行われた。
なにやら、深く帽子を被って濃紺のローブを着た男が3-Eのドアを開け、バスケットボールほどの大きさの黒い球を持ってきた。
あれか? ガ●ツか? と思っていると、男はそれを教壇に置いた。間もなく、試験開始の宣言をした女の声がスピーカーから聞こえる。
「今入ってきた男たちが持つ黒い球は「判定球」だ。 それに10秒手を付け、【チカラ】のレベル判定をしてから仮寮の受付に行きなさい。 以上」
なるほど、これで【チカラ】のレベル判定をするわけか。 納得。 俺達は一列に並び、順番に判定球へと手を伸ばす。
判定球は、手を付けるとその黒がいろいろな変化をするらしい。
俺が見ていた限りでは、ある者は触った途端にその黒が透明に変化し、その透明の球の中で雲丹のような棘棘が浮いていた。
ある者は、黒が透明に変化すると、その黒は漆黒の火炎のように球の中で逆巻き始めた。
と、ついに俺の番が来た。 神妙な面持ちで、判定球に触る俺。…その黒が透明に変化し、どんな変化が起こったかというと…。 何も起こらなかった。
そう、何も起こらないのだ。 10秒経っても、同じ黒球のままで。
派手な変化を内心期待していた俺は、ちょっとがっかりしながら3-Eを後にしたのだった。
とまぁこんな感じだ。 そして仮の寮(結構快適。 こればかりはクラス関係なく同じ部屋だという)に登録し、今に至ると。
さて、そろそろかな…と思っていると、スピーカーからまた同じ女の声。
「諸君、おはよう。 午前9:00になった。 仮寮の入り口に合格者の掲示をしておく。」
「合格したものは、あわせて掲示されているクラスのHRへと向かいなさい。 以上」
やっと来た。 「行くか!」という自分を鼓舞させる声を出し、廊下を駆けていく同じ受験者達と共に俺は掲示へと向かった。
仮寮入り口、掲示近くへと来た俺は、張られている掲示に目を移す。
「エクシル魔法学園 合格者掲示」という大きな文字が一番上に書かれ、その横には「合格者数 280名」と書かれている。
G~Aの7クラスで280名なのだから、1クラス40名か。 大きな学校だ。
そして掲示の方法は、「順位 名前 得点」の順で掲載される。 得点も掲示されるとは中々鬼だな、この学園。
俺は、最高位クラスから俺の名前を探すことにした。
Aクラス
1 ダント・サスティーフ 540
・
・
・
40 エリカ=フレイユ 516
Aクラスには俺の名前は無かった。 まぁ仕方ないか。
しかし、日本人っぽい名前を見つけるのはなぜだろうか。エリカとか、サトシなんてのも有った。
―――その後も、次々と掲示を見て回る俺だったが、俺の名前と俺がエンカウントすることは無かった。
そして最後、最下位Gクラス。 俺は、縋る気持ちで掲示を見てみた。
Gクラス
241 ミリア・メテリア 400
・
・
・
280 アルト=シューバ 380
……
…最下位…だと…?
―――こうしてアルト=シューバは、ガフリア国立エクシル魔法学園に合格し、入学することとなった。
―――だが、入るクラスは最低の、Gクラスだった。
はい、Gクラスはここで出ました。 最下位クラスの最下位、アルト君。
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