22.声援
食事を終えた一同は各々の分の報酬を受け取り、ピルキー氏の屋敷を後にした。
「本当にお前たちだけで大丈夫なのかよ」
「は? 何でお前に心配されなきゃいけねぇんだ?」
再び地下道を通り、入ってきた扉を出た際にバッカスさんが心配そうに兄さんに聞いた。でも兄さんは余計なお世話だと言わんばかりに雑にあしらい、案の定バッカスさんがキレた。
「こっちが心配してやってんのにその態度は無ぇだろ! キーヴァちゃんの強さは俺だって知ってる。そのキーヴァちゃんの身体が誰かに乗っ取られたってんなら、そいつはよっぽど強ぇ奴なんだろ⁉ お前たち三人で立ち向かえるのかって聞いてんだよ!」
バッカスさんが勢いよく兄さんに掴みかかる。遠巻きにこちらを見る通行人たちの視線が痛い程だ。しかし兄さんは怯まなかった。
「俺だって自信は無ぇし、何でお前がキーヴァの強さを知ってるのかも知らねぇ。だが、これは……これだけは、他人に頼りたくねぇんだ。いや……巻き込ませたくねぇ」
「だから一緒に試験受けたから知ってるんだっつの! それに強ぇ奴の話はどこにいたって耳に入ってくんだよ。チッ。何が巻き込ませたくねぇだよ。俺はなぁ……お前のそういう所が昔っから大っ嫌いなんだよ!」
「……」
「……」
「……?」
(あ、どうしよう。兄さんの頭の中が疑問でいっぱいになってる気がする)
森で会った時も、バッカスさんは私たち兄妹のことを知っているような口振りだった。一緒に試験を受けたという発言を頼りに私は記憶を呼び起こしてみたが、あれは恐らく私にとって物凄く恥ずかしい思い出でいっぱいな、勇者証を受け取るための認定試験のこと。試験官の前で中型の魔物(ただし本物の魔物ではなく魔法で生み出された幻覚)を一匹倒すだけの簡単な試験だが、各試験者は一人だけ仲間を連れて来ていいことになっている。これは仲間との連携の仕方を見るためでもある。兄さんは当然私と共に試験を受けた。その時の試験会場にバッカスさんもいた……ような気がしないでもない。彼はその時に私たちのことを知ったのだろう。
でも兄さんは彼の存在に全く気づいていなかったと見える。私も言われてようやく思い出したのだから、無理もない話だ。
(あれ、覚えていないのって私のせいだったっけ……?)
しかし忘れられていた本人はそうはいかない。
「お前……まさか、本当に俺のこと覚えてねぇのか⁉ 俺はお前たちに追い付こうと努力してたってのに、お前は銅勇者のままだし!」
「おいバッカス、落ち着け。お前と彼の間に何があったのかは俺たちの方こそ全く知らないが、今はそんな話を蒸し返している場合ではないだろう。彼の手を離してやれ。何か言いたいことがあるなら、彼らが戻ってきてからでも遅くはないだろう」
興奮気味のバッカスさんの肩に、ウォーレンさんが優しく手を乗せる。するとバッカスさんも一人で無暗に熱くなりすぎていたことに気がついたのか、未だ悔しそうな顔を見せながらも一旦は落ち着きを見せた。
「すまねぇな。一人で興奮しちまって」
深い溜息をつき、言葉を続ける。
「お前がそんなに言うなら俺たちはここでお前たちを見送るさ。だがな、絶対生きて、キーヴァちゃんを連れて戻ってくるって約束しろ。そうしたらお前が俺を忘れていることもチャラにしてやるよ」
真剣な眼差しのバッカスさんに影響され、今度ばかりは兄さんも真面目に返した。
「ああ。必ずキーヴァを連れ戻す」
「……死ぬなよ」
最後にそれだけ言って、バッカスさんは背を向けて去っていった。
「すまんな、うちの馬鹿が迷惑をかけて。だが、あれでも君たちのことを心配しているんだ。悪く思わないでやってくれ。それじゃあ、頑張れよ。またどこかで会えるといいな」
「キーヴァちゃん、だっけ? 助けてあげたら、また家に遊びに来てね! キーヴァちゃんにも美味しいお料理食べてほしいし、お友達になりたいな~! だから、魔物なんかに倒されちゃ駄目だよ!」
「存在するかも分からない魔物の街を本当に見つけられるのか甚だ疑問だけれど、操られているという妹さんだけは必ず見つけ出してあげなさいよ。せいぜい頑張りなさい」
彼の仲間たちも兄さんたちに応援の言葉をかけてその背を追いかけてゆく。そんな彼らを見送りながら、トゥタカルタさんがしみじみと呟いた。
「懐かしの邂逅だったのかどうかよく分からんが、無愛想な君にも、君のことを心配してくれる友がいるのだな」
「は? あんな奴と友達になった覚えは無ぇぞ」
「向こうは君と同じ認識ではないだろうがな。さあ、我々も行くとしよう。いざ、ストフォーレへ!」
「はい!」
トゥタカルタさんの号令にソフィーさんが元気よく返事をし、私たちも魔物が住まうという謎の街、ストフォーレへと向かうこととなった。




