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白銀のソロディウス  作者: みーこ


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14/31

14.道なき道を往く

 翌朝、依頼料から宿代やご飯代を抜いた分のお金を店主から受け取った私たちは、必要なものを揃えるために村中の商店を巡った。携帯食料、衣類、寝具、防具、小型ナイフ、薬、調理器具、それらを入れる鞄、等々。


「調理器具は必要なのか?」


 トゥタカルタさんが不思議そうに尋ねると、兄さんは短く「ああ」と答えた。


「へぇ。君は料理などしないと思っていたが、意外とするものなのだな」

「いや、俺は食材を切るだけで、料理するのはキーヴァ……あ」

〝あ〟


 私と兄さんが同時に声を上げた。そう。今までは兄さんが食べられそうな動物や魔物を捕まえ、それを捌き、捌いた肉を私が料理する……なんてこともしていたのだが。


「私も手伝うから、君も自分で料理してみるといい。ソフィー嬢も手伝ってくれるさ」

「……ああ、助かる」


 宿に戻って手分けして荷造りをしていると、そこへソフィーさんが訪れた。


「皆さんこんにちは。ご主人からここにいるとお聞きしたので、来ちゃいました。皆さん準備はお済みですか?」

「……いや、そういう君こそできているのか?」


 見るとソフィーさんは随分と身軽な格好をしていた。ゆったりとしたワンピース姿でローブを羽織り、小ぶりな鞄を斜めに掛けている。ちょっとそこまでお出掛け、といった風体だ。しかしその鞄には何やら魔法がかけられている。ただの小ぶりな鞄ではないようだ。


「ご心配なく、カルカルさん。ちゃんとこの鞄の中に、必要なものから必要でなさそうなものまで、あらゆるものが入っています。旅の準備はバッチリですよ。この村でお世話になった方々にもご挨拶はしてきました」


 にっこりとした笑顔をソフィーさんがトゥタカルタさんに向ける。どうもこの笑顔を向けられるとトゥタカルタさんは何も反論できなくなるのか、「わ、分かった……」と言って黙ってしまった。


(でも、ソフィーさんの笑顔ってちょっと圧が強いから、そうなるのも頷けるんだよね)


 何が起きてもずっと笑顔でいそうで、何となく怖い。

 それから少しして兄さんとトゥタカルタさんの荷造りも終わった。酒場に降りて皆で昼食を取り、店主やその場にいた村人達に別れを惜しまれつつ、新たな仲間を加えた私たちは村を後にした。


          ○


 うららかな日差しを浴びながら、私たちは名も無き道を歩き続けた。今までに何人もの人や馬車が通ったのであろう道の両脇には、木々が青々とした葉を茂らせ太陽の光を浴びている。旅の始まりには丁度いい日だ。

 人の通る道には魔物はあまり出てこない。かと言って特段人に出会うこともなく歩き続けていると、トゥタカルタさんが「飽きてきたな」と呟いて、別の道を歩こうと提案してきた。


〝別の道、と言っても、ここは一本道ですよ?〟


 私は当然のような疑問を述べた。するとトゥタカルタさんはもったいぶったような含み笑いをしてから答えた。


「私たちが探しているのは誰だ、キーヴァ。そう、村を焼き君の身体を奪った恐るべき敵と、魔物の生肉を食らうというソフィー嬢のご友人だ。普通に人里でのんべんだらりと過ごしているとは到底思えない!」

〝……確かに〟

「それもそうだな」

「ですねぇ」


 三者三様に同意の言葉を述べると、トゥタカルタさんはビシッと森の奥を指差した。


「そこで! 森の中に分け入り、魔物を倒しつつ探してみようというわけだ! どうだろうか、諸君」


 トゥタカルタさんが期待を込めた瞳を向けるので、私たちは若干戸惑いながら答えた。


「森の中なら食糧になりそうなものもあるだろうし、入ってもいいぜ」

「そうですね。私の友人も、人よりは魔物と戯れる方が好きですし、探すなら森の中の方がいいでしょう」

〝私も魔物と戦って魔法の使い方にもっと慣れていきたいですし、行きましょう、森の中に〟


 同意を得られたトゥタカルタさんは満足そうに頷いた。


「ではいざ行くぞ! 森の中へ!」


 元気いっぱいのトゥタカルタさんを先頭に、私たちは道なき道を進むのであった。

 逃げていく魔物は見逃し、攻撃してくるようであれば倒す。いちいち魔物に構っていては無駄に時間を取られてしまうので、そういう取り決めをして私たちは森の中を歩く。とは言え街道が近いからか襲いかかってくる魔物は少なく、戦闘の機会が訪れるのは十匹に一度程度だった。

 そのため、またしてもトゥタカルタさんが不満を漏らした。


「クソッ。森の中であれば多少は楽しめると思ったんだがな……」

「人里が近ぇんだから、そうそう強ぇ魔物なんて出ねぇだろ」


 しっしと小さな魔物を追い払いながら兄さんが言う。


「頻繁に強い魔物が出るようであれば、騎士団なり勇者なりが常駐しているはずですからねぇ。そうでないということは、強い魔物は出ないということです」


 あら綺麗な蝶々、とソフィーさんが目の前を通り過ぎる蝶を目で追う。


〝ざっと周囲を探知した感じだと、小型の魔物しかいません〟


 探知できる範囲内で一番強い魔力を放っているのは、隣にいるソフィーさんだった。もう少し奥へ行けば中型の魔物もいるが、強さはそれほどでもない。


「先程の私の盛り上がりは無駄だったとでも言うのか? 君たちは入る前からこうなることを予測していたとでも言うのか?」

「むしろ何でお前は森の中なら強い魔物がいるって勘違いしてんだよ。そういうのはもっと人が足を踏み込まないような場所にしかいねぇだろ。ここじゃ人里が近すぎる」

「チクショオオオオオオオオオオ!」


 叫び声に驚いた鳥達が一斉に何処かへと飛んでいった。


〝あのぅ、カルカルさん。そうやって文句を言っていても何も解決しませんよ。強い魔物に出会いたいなら、歩いて歩いて歩き続けて、もっと森の奥へと進まないと無理ですよ〟

「くそぅ。キーヴァの指摘がもっともすぎて何も言い返せない……しくしく……」

「泣いてる暇があんなら、さっさと先に進むぞ」

「そうですね。ここでごたごたしていては、それこそ時間の無駄です」

〝もう少し先に進めば中型の魔物が出現するようになりますから、まずはそれを目指して行きましょう!〟

「うう……君達のその優しいのか冷たいのか分からない態度が染みる……。何にかは分からないが染みる……」


 こうして私たちは奥へ、奥へと進んでいく。探さなくてはいけない人がいるのは分かっているが、そもそもその人たちがどこにいるのかも分からない。そのためあてどなく歩く他なかった。

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