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僕を裏切った幼馴染とゲス顧問、二人まとめて地獄に堕とします  作者: ledled


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第三話 審判のゴングは、匿名メールと共に

季節は冬へと移り変わり、僕の心はシベリアの永久凍土のように凍てついていた。『復讐.log』と名付けられたフォルダは、もはや僕のPCの容量を圧迫するほどに膨れ上がっていた。伊集院と朱音の密会を記録したGPSログと音声データは数十回分に及び、ラブホテルに出入りする鮮明な動画、車内での卑猥な会話、そして伊集院が他の女性や過去の教え子とも関係を持っていたことを示唆するデジタル証拠の数々。復讐のための弾薬は、十分すぎるほどに揃った。


問題は、いつ、どのタイミングで引き金を引くかだ。僕は、伊集院征四郎という男が人生の絶頂を味わう、その瞬間に全てを叩き落とすと決めていた。最高の栄光から、最底辺の地獄へ。その落差が大きければ大きいほど、僕の復讐はより甘美なものになる。


そのXデーは、意外なほど早く訪れた。伊集院が指導した美術部の作品が、全国規模のコンクールで名誉ある賞を受賞したのだ。そして、その功績を称え、全校集会で彼が特別表彰されることが決まった。全校生徒と教職員の前で、スポットライトを浴びる日。これ以上の舞台はない。審判のゴングを鳴らすには、完璧すぎるタイミングだった。


全校集会の二日前、深夜。僕の部屋の明かりだけが、静まり返った住宅街にぽつんと灯っていた。僕はPCに向かい、最後の準備に取り掛かっていた。


最初のターゲットは、伊集院の妻、美咲みさきだ。事前にSNSや地域のコミュニティサイトから特定していた彼女の個人情報。その中から、セキュリティの甘いフリーメールのアドレスを選び出し、僕は匿名のメールを作成した。件名は、ただ一言、『ご主人の裏切りについて』。


本文には、パスワードで保護されたオンラインストレージのURLだけを貼り付けた。そして、パスワードは二人の間にいる小学生の娘の名前に設定した。母親ならば、このパスワードの意味を理解し、必ず開くだろうという確信があったからだ。


ストレージの中には、僕が収集した証拠の中から、伊集院と朱音の不貞行為に絞ったものを厳選してアップロードした。二人がラブホテルの駐車場で車から降りてくる動画。日付と時間がはっきりとわかるように編集してある。車内で交わされる「妻とは終わっている」という伊集院の嘘と、それを信じて甘える朱音の声を記録した音声データ。SNSでの親密なやり取りのスクリーンショット。家庭を破壊し、夫への信頼を木っ端微塵にするには、十分すぎる弾薬だった。


メールの最後に、僕は冷徹な一文を書き添えた。


『慰謝料請求の際にお役立てください。ご主人には近日中に、然るべき社会的制裁が下ります』


送信ボタンをクリックする。見えない矢が、夜の闇を切り裂いて飛んでいく。これで、伊集院が帰るべき場所は一つ、破壊された。


そして、運命の全校集会当日。冷たく澄んだ冬の空気が、体育館の窓ガラスを震わせていた。全校生徒が整列する中、僕は最後列の隅に立ち、静かにその時を待っていた。僕のすぐ近くには、朱音が友人たちと並んでいた。彼女は少し興奮した様子で、壇上を誇らしげに見つめている。その視線の先には、これから表彰される伊集院の姿があった。彼女にとって、それは憧れの人の晴れ舞台なのだろう。僕にとっては、断頭台に上る罪人の姿にしか見えなかったが。


やがて、校長の野太い声が体育館に響き渡った。


「――では、美術部顧問、伊集院征四郎先生。前へ」


割れんばかりの拍手が巻き起こる。伊集院は満面の笑みを浮かべ、少し芝居がかった足取りで壇上へと上がった。そして、校長から恭しく賞状を受け取る。その瞬間が、彼の人生の頂点だった。


その、まさに頂点の瞬間。


僕はポケットからスマホを取り出し、自作したプログラムを起動させた。それは、指定した時刻に、複数の宛先へ一斉にメールを送信するという単純なものだ。宛先リストには、この学校の全教職員、PTA役員、学区の教育委員会、そして僕がリストアップした付き合いのある複数の大手新聞社や週刊誌の記者たちのメールアドレスが入力されている。


送信ボタンを押す。審判のゴングは、鳴らされた。


件名:『県立〇〇高等学校・伊集院征四郎教諭による女子生徒への淫行及び複数の不正行為について』


メールには、彼の罪状を簡潔にまとめた文章と共に、パスワードなしでアクセスできるオンラインストレージのURLが添付されていた。その中身は、妻の美咲に送ったものよりも遥かに悪質で、詳細な証拠一式だった。


朱音との不貞行為の証拠はもちろんのこと、数年前に噂になった元教え子との関係を示唆するデータ。他の教員の悪口や、生徒の個人情報を軽々しく口にする様子の録音。美術部の部費を私的に流用していることを匂わせる記録。あらゆる角度から彼を社会的に抹殺するための、情報の絨毯爆撃だった。


メールが送信されてから、わずか数分後。壇上で賞状を掲げ、誇らしげにスピーチを始めようとした伊集院の背後で、異変が起きた。校長のスマホが、マナーモードの振動音をブブブ、とけたたましく鳴らし始めたのだ。それを皮切りに、体育館の前方に座る教員たちの間から、あちこちでスマホの着信音や振動音が響き渡る。何事かとざわめきが広がる中、教頭が血相を変えて自分のスマホ画面に見入り、次の瞬間、壇上へと駆け上がった。


「伊集院先生、こちらへ!」


教頭は、何が何だかわかっていない伊集院の腕を掴むと、ほとんど力ずくで壇上から引きずり下ろした。体育館は騒然とし、生徒たちは何が起きたのか理解できずに立ち尽くしている。僕はその光景を、冷え切った心でただ眺めていた。朱音が、不安そうな顔で僕の方を振り返る。僕は彼女に、心配するな、とでも言うように静かに微笑んでみせた。


「――本日の全校集会は、以上で終了します! 各クラス、速やかに教室へ戻ってください!」


教頭の張り上げた声で、集会は強制的に打ち切られた。


その日の午後のことは、もはや語るまでもない。学校には保護者からの問い合わせの電話が殺到し、サーバーはパンク状態に陥った。校門の前には、どこから情報を嗅ぎつけたのか、週刊誌の記者たちが張り付き、大騒ぎになった。インターネットの匿名掲示板やSNSでは、僕が投下した情報が瞬く間に拡散され、『伊集院征四郎』の名前は、日本中の誰もが知る「生徒に手を出すゲス教師」として、デジタルタトゥーとなって永遠に刻まれた。


伊集院は即日自宅待機を命じられ、数日後には教育委員会の調査を経て、懲戒免職という最も重い処分が下された。


そして、彼が全てを失って憔悴しきった顔で自宅のドアを開けた時、彼を待っていたのは妻子の優しい笑顔ではなかった。リビングのテーブルの上には、一枚の離婚届。そして、僕が送った全ての証拠をプリントアウトし、それを元に弁護士が作成した、彼の退職金やなけなしの財産全てを奪い去るほどの高額な慰謝料請求書が置かれていたという。


社会的地位、名誉、教師という職、築き上げてきた家庭、そして財産。


彼が持っていた全てのものが、僕が書いたたった数通のメールによって、わずか数時間のうちに木っ端微塵に砕け散った。


僕は自室の窓から、夕焼けに染まる隣の家を見つめていた。まだ、何も知らない朱音の部屋に、明かりが灯る。


さあ、主犯の処刑は終わった。


次は、共犯者である君の番だよ、朱音。君がこれから味わう絶望こそが、僕の復讐の完成なのだから。

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