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僕を裏切った幼馴染とゲス顧問、二人まとめて地獄に堕とします  作者: ledled


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第二話 冷たい誓いと、復讐のためのログファイル

絶望の夜が明けても、僕の世界は何も変わらないフリをしていた。朝日が差し込むリビングで、僕はいつも通り二人分の朝食を用意する。隣の家からやってきた朱音は、「おはよ、蓮」と眠そうな目をこすりながら、当たり前のように食卓の椅子に座った。


「おはよう、朱音。昨日は遅かったから眠いか?」


「んー、ちょっとだけ。でも蓮の作った朝ごはんだから、ちゃんと食べる」


そう言って僕に微笑む彼女の顔を、僕は穏やかな表情で見つめ返す。その仮面の下で、心の奥底では地獄の窯のように黒い感情が煮え滾っていることなど、朱音は知る由もない。昨夜、僕の胸を焼き尽くした憎悪の炎は、一夜明けて、より硬く、より冷たい復讐の誓いへと姿を変えていた。


感情的に彼女を問い詰めても意味がない。泣いて縋られて、一時的な優越感に浸ったところで、僕の気は済まない。あの二人――僕の純粋な愛情を踏みにじった日向朱音と、その心の隙につけ込んだゲス教師、伊集院征四郎――を、社会的に、そして精神的に、二度と立ち上がれないほど徹底的に叩き潰す。それだけが、僕の壊された心への唯一の償いだった。


「今日の放課後も、部活?」


トーストをかじりながら、何気ない口調で尋ねる。朱音は一瞬、視線を泳がせた後、こくりと頷いた。


「うん。コンクールが近いから、伊集院先生が特別に見てくれるって」


また嘘をついた。もう何度目になるのだろう。その嘘に気づかないフリをして、僕は「そうか、頑張れよ」とだけ返す。以前なら心から言えたその言葉は、今では復讐のためのカモフラージュでしかなかった。


学校でも、僕は完璧な「優しい彼氏」を演じ続けた。教室で友人たちと笑い合う朱音を遠くから見つめ、昼休みには一緒に弁当を食べる。彼女の些細な嘘や、僕から隠れてスマホを操作する仕草にも、あえて気づかないフリをした。そのすべてが僕の心をナイフで削るような痛みだったが、計画のためには必要なプロセスだった。警戒されてしまっては、元も子もない。


復讐計画の主たる標的は、伊集院征四郎に定めた。妻子がいながら教え子に手を出す外道。朱音も許せないが、彼女はまだ高校生だ。大人の立場と権力を利用して彼女を篭絡したあの男こそが、全ての元凶であり、優先して社会的生命を絶つべき存在だった。


その日の放課後、僕は朱音と別れると、真っ直ぐに家に帰らず図書室へと向かった。目的は勉強ではない。図書室の隅にあるPCを使い、僕は復讐の第一歩を踏み出した。


趣味のプログラミングで培った僕のITスキルは、同年代の高校生が持つレベルを遥かに超えている。学校の貧弱なセキュリティサーバーに侵入するのは、子供のパズルを解くより簡単だった。僕はまず、教職員の個人情報が保管されているデータベースにアクセスし、伊集院の情報を抜き出した。住所、家族構成、そして過去の職歴。それだけでは足りない。


次に、学校の非公式な裏掲示板や、卒業生たちが使うSNSのコミュニティを徹底的に洗い出した。匿名性の高いそれらの場所には、公にはならない噂や情報が眠っていることが多い。キーワード『伊集院』『美術部』で検索をかけると、案の定、おぞましい情報が次々とヒットした。


『伊集院ってまだいるんだ。あいつ、俺らの代でも女子生徒とヤバい噂あったよな』

『あったあった。結局、学校がもみ消したけど。あの時の子、卒業前に転校しちゃったし』

『あいつは常習犯。気に入った女子がいると、才能を褒めちぎって二人きりの指導に持ち込むのが手口』


やはり、今回が初めてではなかった。学校側が隠蔽してきた過去の汚物。ならば、今回は絶対に隠させない。言い逃れのできない、動かぬ証拠を掴んでやる。


計画の次の段階として、僕は数日後、朱音に一つのプレゼントを渡した。


「これ、よかったら使ってくれ」


僕が差し出したのは、小さなハートのモチーフがついた、上品なデザインのネックレスだった。


「え、いいの!? すごく可愛い! ありがとう、蓮!」


朱音は満面の笑みでそれを受け取り、すぐさま自分の首につけた。「蓮からのプレゼントだから、毎日つけるね!」とはしゃぐ彼女の姿は、何も知らない人間が見れば、ただ愛らしい恋人にしか見えないだろう。だが、そのハートのモチーフには、僕がネットで取り寄せた超小型のGPS発信機と、高性能な音声レコーダーが巧妙に仕込まれていた。


それは、僕自身の心をも深く抉る諸刃の剣だった。彼女の裏切りを、リアルタイムで追跡し、その声を聴き続けることになるのだから。だが、確実な証拠を手に入れるためには、この痛みは甘んじて受け入れなければならない。


その日から、僕の日常は地獄に変わった。自室のPCでGPSのログを追う。朱音が「部活に行く」と言った日、その軌跡は学校を出た後、伊集院の車のものと思われる軌跡と重なり、市内にあるラブホテル街の一角で決まって停止した。一時間、あるいは二時間。そこで動きを止めたGPSの光点が、僕の心を無慈悲に踏みにじっていく。


そして、夜。朱音が寝静まった後、僕はネックレスからマイクロSDカードを抜き取り、その日の音声データを確認する。ヘッドホンから流れてくるのは、僕の知らない朱音の声と、伊集院の甘ったるい声だった。


『レンくんには、部活が長引いてるって言ってあるから大丈夫だよ』

『はは、健気だな、彼は。まさか自分の彼女が、こうして顧問の先生とドライブしてるとは夢にも思わないだろうな』

『……もう、先生ったら。意地悪』

『レンくんみたいな真面目なだけの男じゃ、つまらないだろ? 子供の恋愛ごっこだ』

『……そんなこと……ない、けど……』


否定しきれない、媚びるような朱音の声。伊集院が僕を嘲笑う言葉。そして、それに同調するかのように漏れる彼女の笑い声。その一言一句が、熱した鉄の棒のように僕の鼓膜を焼き、脳に刻み込まれていく。吐き気と怒りで、何度もPCのモニターを殴りつけそうになるのを、奥歯を噛みしめて必死に堪えた。


冷静になれ、夜凪蓮。感情的になるな。これは復讐だ。目的を達成するためだけの、ただの作業だ。


僕は収集した全てのデータを、PC上に作成した一つのフォルダにまとめていった。フォルダ名は、『復讐.log』。GPSのログデータ、日付と場所を記録したテキストファイル、二人の卑猥な会話が記録された音声ファイル。言い逃れの余地をなくすため、証拠は多ければ多いほどいい。


さらに僕は、伊集院の自宅周辺のネットワークにまで手を伸ばした。セキュリティの甘い個人のWi-Fiや、近隣店舗の防犯カメラの映像データにアクセスし、彼の行動を監視する。深夜、家族が寝静まった後にこっそりと家を抜け出し、朱音とは別の女性と合流していると思しき映像も手に入れた。もはや、ゲスという言葉すら生ぬるい。彼は、救いようのない人間のクズだった。


全てのデータは、日付、時間、場所、会話の要約と共に、暗号化を施した上で『復讐.log』に meticulous(細心の注意を払って)に蓄積されていった。僕のPCのデスクトップには、いつも通りの学習用フォルダと並んで、この地獄への扉が静かに鎮座していた。


ある日の夕食。僕はいつものように朱音と食卓を囲んでいた。その日の「収穫」は、伊集院が朱音に「妻とはもう終わっている」「離婚するつもりだ」と嘘を吹き込んでいる音声データだった。目の前で、「今日の蓮のハンバーグ、最高傑作じゃない?」と無邪気に笑う朱音。その笑顔の裏側で、彼女がどんな嘘を信じ、どんな裏切りを重ねているのかを、僕だけが知っている。


「蓮、どうしたの? ぼーっとして」


僕の視線に気づいた朱音が、不思議そうに首を傾げる。


「ううん、何でもない。朱音が可愛いなって思ってただけ」


僕は完璧な笑顔を返す。嘘だ。僕が見ているのは、無邪気に笑う君の姿じゃない。君の背後で、君自身の嘘と裏切りによってゆっくりと形を成していく、巨大な墓標の影だよ。


君が僕との未来を壊したように、僕も君の未来を壊してあげる。君が僕を嘲笑ったように、僕も君の絶望を嘲笑ってやる。


その日が来るまで、僕は「優しい彼氏」の仮面を被り続けよう。君が築き上げた偽りの幸せが、音を立てて崩れ落ちるその瞬間を、特等席で見るために。復讐のログファイルは、着実に、そして静かに満たされていった。

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