1/15
■1.プロローグ:塔の魔術師
***
とても強い魔術師がいました。
彼は荒野にぽつんと建つ塔に住んでいたので、塔の魔術師と呼ばれていました。
塔の魔術師は好き勝手に暴れたので、人々から恐れられていました。
西に村があれば焼き滅ぼし、東に山があれば崩壊させ、同業者である魔術師に出会えば容赦なく殺し、やりたい放題でした。
ある日、国中の魔術師たちが結託して、塔の魔術師を塔に閉じ込めることに成功しました。
塔には「決して外に出られない」魔術が掛けられました。
それはとても強力な魔術で、さすがの塔の魔術師にも解除できませんでした。
人々は安心しました。
誰かが間違って入ってしまわないよう、塔には「誰も入れない」魔術も掛けられました。ですが、そんなものはなくとも、恐ろしい魔術師が閉じ込められた荒野の塔に近づく者は、誰もいませんでした。
塔の魔術師は、その途方もない魔力ゆえに途方もなく長い寿命が尽きる日を、ただ待つことになりました。
高い高いこの塔に、ただ一人で。
***