海自潜水艦(会話形式)2
「無音潜行開始」
艦内の不必要な電源や動力、送風装置が一斉に停止された
暖流の中を潜行中の艦内は徐々に蒸し暑くなってきた
冷たく冷え切っていた魚雷室の対潜魚雷に水滴がつき始め、それがぽたぽたと床に落ち始めた
80メートル以上の全長をもつこの巨大な船であっても、60名プラス10名の乗員から発せられる体熱と相まって次第に耐え難いほどの蒸し風呂とかしてきた
「水上艦のやつらはいいよな、晴れ上がった日には甲板上で胸いっぱいに潮風をすこめるんだから」
「そうそう、それに寄航先では結構丘で楽しめたりするからな、お目当ての女がみんないるらしいぜ」
「潜水艦乗りは船乗りというより炭坑夫みたいなもんだ。めったにおてんとう様なんかおがめねーし、しかも死ぬときは溺死というより窒息死だしな」
「おれそろそろワッチの時間だから、食堂でその前に飯食ってくらぁ」
「航海長、48時間後に出航する。急いで準備を進めてくれ」
「しかし艦長、今日は三つ星重工の重役の家族の見学者が多数予定されておりますが・・・」
「中止だ、魚雷搭載、燃料搭載を急げ、それと可能な限り徹底した整備作業をやっておけ。長期航海になるかもしれん。補給艦なしでだ」
「当直だけでなく、幹部はすぐに帰艦し各課の作業を指揮しろ」
「艦長、ひとつ質問してよろしいですか」
「なんだ」
「訓練魚雷は何本搭載すればよろしいですか」
「すべて実装魚雷」
「すでに搭載されている訓練魚雷はすべて1000ポンド弾頭の有線誘導魚雷に換装しろ」
「少し沈み気味だな。ディーゼル航走でかなり燃料を消費したな」
「この2時間で消費したディーゼル油の量は」
「5キロリットルです」
「潜舵手、指令深度の維持は」
「かろうじてプラスマイナス30センチです。しかしこれ以上重量が増すか速力を落とすときびしいです」
「燃料タンクの海水流入分で約4トンほど重量が増えています」
「油圧手、トリムを再調整しろ」
「了解」
「前部トリムタンクブロー」
「ネガティブタンクブロー」
「艦長、ブロー音を探知されるかもしれません」
「やむを得ん、これ以上速力をあげることもできん。この機会に満水の汚水タンクも排水しておけ」