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ベトナム戦争と河川哨戒艇(地獄の黙示録 ふう)


 ヘリコプターのローターが静かに停止すると、ウィラード大尉は一歩一歩地面に足をおろした。まるで自分自身の魂を踏みつけるかのような重たい足取りで、彼は河川哨戒艇(PBR)に向かった。湿った空気が肌にまとわりつき、熱気が喉を干上がらせる。ヘリの轟音が消えると同時に、川の水面に広がる静寂が彼の耳を包み込んだ。


 船に乗り込むと、彼は一瞬だけ後ろを振り返った。何もかもが変わらないはずなのに、何かが決定的に変わってしまったと感じた。彼は、自分が果たして正当化される任務を遂行しているのか、それとも無意味な破壊行為に加担しているだけなのかを問いかけた。戦場で出会う人々や出来事は、すべて無意味な死と破壊に満ちていた。彼は、戦争の虚無感に飲み込まれ、自分が何のために戦っているのかを見失っていった。


 ボートのエンジンが轟音を上げ、迷える彼の魂を未知の世界へと連れて行った。エンジンの振動が体全体を震わせる中、頭の中で過去の記憶と現在の恐怖が入り混じった。

川を遡る旅は、外界の旅というより、内面的な旅であった。ボートが静かに水面を滑り、緑に覆われた川岸が次第に視界から消えていく中、彼は次第に深い森の闇に引き込まれていった。川の流れは時間の流れそのものであり、過去と未来を繋ぐ不気味な橋渡しのようだった。


 川の色が次第に青から赤に変わる様子は、文明と野蛮の境界線を象徴していた。青い川の穏やかな流れは、かつての平和な日々を思い出させたが、赤く染まる川は、彼の心の奥底に潜む野蛮な本能を引き出していくようだった。赤い川が血の色に見え、それは人間の暴力性や野蛮さを象徴しているようだった。



「戦場での狂気とは一体何なのだろう?」と、ウィラードは心の中で呟いた。彼が目にする光景は、まるで現実の世界ではないように感じられた。川の上には霧が立ち込め、視界が遮られるたびに彼の心はますます不安に駆られた。ヘリコプターの襲撃や、戦場での残酷な出来事が彼の脳裏に浮かび上がる。彼の心はその狂気に染まりつつあった。


ウィラードは、カーツ大佐の支配する世界が無秩序で原始的なものであることを理解した。カーツがいかにして文明の仮面を脱ぎ捨て、自己の狂気に忠実に行動するようになったのか。カーツの絶対的な権力は、カーツを腐敗させ、最終的には破滅へと導いた。それは、ウィラードにとって恐怖と同時に、一種の解放感でもあった。ウイラードは、自分自身がカーツと同じ道を辿る可能性に気づき恐怖した。



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