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ベトナム戦争とボディーカウント(地獄の黙示録 ふう)


 キルゴア中佐は煙草を片手に、南ベトナムの村を見渡していた。彼の周りには、泥と血にまみれた死体が無造作に転がっている。村の住民たちは、焼け落ちた家々から逃げ惑い、必死に子供を抱きしめて走り去る。彼らの怯えた表情と泣き叫ぶ声が、キルゴアにはただの雑音にしか聞こえていなかった。


「よし、カードを配るぞ!」彼は部下に向かって声をかけた。その声は、まるで新しい遊びを提案するような軽快さに満ちていた。周囲には濃厚な焦げ臭い煙が漂い、焼けた木材と人体の異臭が鼻を刺す。だが、キルゴアはまるでその匂いを楽しんでいるかのように、深く吸い込んで満足そうに目を細めた。


「スペードの2、スペードの3、ダイヤの4…」彼は無造作にカードを死体の上に置いていく。その手つきは、慣れ親しんだルーチン作業のように手際よく、感情のかけらも見せなかった。兵士たちは、そんなキルゴアの指示に従い、淡々と死体にカードを配っていく。


 ウィラードはその様子を見つめながら、腹の底からこみ上げる怒りを抑えきれなかった。「こいつは狂っている…」ウィラードは心の中で呟いた。「こんなことをして何の意味がある?」彼の中で、戦争の無意味さがさらに深く胸に突き刺さった。


「ダイヤの4、クラブの6、スペードの8…」キルゴアは次々とカードを置いていく。彼の後ろでは、戦場に立つコントラストの中で、コンバットフォトグラファーがカメラを構え、冷静にシャッターを切っていた。彼らの無表情な顔と、無慈悲にフラッシュを焚く姿は、戦争がもたらす狂気をさらに際立たせていた。


 キルゴアはふと顔を上げ、煙の向こうに見える燃え盛る村を見渡した。「ワビしい獲物だな」と、彼は満足げに呟いた。その目は、まるで自分の手柄を誇示するかのように輝いていた。「こんなもの、何の価値があるんだ?」ウィラードは彼の言葉に苛立ちを覚え、心の中で問いかけた。彼の中で、戦争の狂気が次第に大きな影を落としていた。


 「彼は何をしている?」隣の兵士がウィラードに問いかけた。ウィラードは煙草を吸い込み、灰を落としながら静かに答えた。「敵に誰が殺したかを分からせるためだよ。彼はそれが楽しいらしい」


 キルゴアはカードを最後の死体に置き、満足そうに手をはたいた。彼の手には、「死のカード」がしっかりと握られていた。「これで敵は、自分たちがどんな相手に立ち向かっているのか分かるだろう」と彼は微笑んだ。その笑顔には、狂気と冷酷さが混在していた。


 ウィラードはキルゴアの背中を見つめながら、心の奥底で問い続けた。「この戦争の終わりには、何が待っているんだ?この無意味な狂気の果てに、一体何が残るんだ?」彼の目の前には、焼け焦げた村と、無惨な死体の山だけが広がっていた。その光景は、戦争という名の無慈悲な現実を彼に突きつけていた。


キルゴアは、そんなウィラードの視線にも気付かず、ただ満足そうに村の惨状を見渡していた。「勝利の匂いだ、ウィラード。このナパームの匂いは勝利の匂いだ」彼はニヤリと笑い、深く息を吸い込んだ。その異様なまでの満足感に、ウィラードは背筋に冷たいものを感じた。


 「狂ってる…」ウィラードは心の中で再び呟いた。「こいつは完全に狂ってるんだ」しかし、それが戦場の現実であり、彼はその中で生き抜くしかなかった。戦争の狂気に飲み込まれながらも、彼は自分自身の道を見失わないように、心の奥底で静かに決意を固めていた



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