エアライン
機長は、機外を一周しながら、重厚な金属の翼の下に目を落とした。目の前にあるのは、灰色の金属の塊、正確にはチタン合金で作られたターボファンエンジンだ。無機質な塊に見えるが、このエンジンが毎分数万回転という凄まじい速度で動き、時には1,500度以上の高温に耐えることで、この航空機に飛行のための揚力を生み出している。地上の人々をこの空港から別の空港へと安全に運ぶための、航空機の命とも言える部分だった。
機長である彼にとって、このエンジンの機能や構造については熟知しているが、いつ見ても驚かされる。この複雑なターボファンエンジンが、過酷な環境下で耐え続け、動き続けていること。そしてそれが、信じられないほど低い確率であっても、事故の可能性を含んでいることを意識せずにはいられない。
彼は左翼の下に接続された蛇腹パイプを見つめた。燃料を補給するために接続されたそのパイプを通じて、ジェット燃料がドクドクと流れ込んでいく。この航空機の心臓部にあるロールスロイス製の「JP1000」エンジンが、その燃料をがぶ飲みし、規定された推力を生み出すことで、空に浮かぶ巨体を支えているのだ。
ちょうどエンジンを真後ろから見ると、焼けたような銀色を帯びたジェットノズルが目に入った。ノズルの内部は三重構造となっており、その中心には整流用の円錐形のノーズコーンが取り付けられている。このノーズコーンとノズルの隙間からは、音速を超える勢いで加速された排気が勢いよく吹き出されている。だが、実際の推力の大半はこのジェット排気が生むものではない。このエンジンの最外部、エンジンカバーと本体の隙間から流れ出るターボファンの空気の流れこそが、この機体を空に持ち上げる力の源泉なのだ。
不意に、彼はこのエンジンが昆虫の一部、特にバッタの尾部のように見えることに気がついた。とくにエンジンナセルに取り付けられた後部の3分の1の部分が、独特な形状をしているためだ。この部分は、機体の他の部分とは違い、チタン合金がむき出しのまま剥き出しになっている。金属そのものが生み出す鈍い光沢、そして緻密に設計された形状は、デザイナーの意図ではなく、音速の流体力学が生んだ造形そのものだった。機械の精緻さと生物的な曲線の融合に、彼は不思議な納得と共にある種の驚きを感じていた。
「空を飛ぶものの形状は、空を飛ぶ生物に似る」——どこかで読んだSF小説の一節が、彼の脳裏で響く。自然が生んだ飛翔の形と、人の手で作り出された飛翔の形が、時を超えてどこかで交わるその必然。機長は深く一息つき、エンジンから目を離した。空の上で彼を支えるこの機械の頼もしさと同時に、その背後に潜むわずかなリスクへの責任を、改めて心に刻むのだった。




