第8話 「ぎくしゃく」
初めて彼女(嘘)が出来てから思ったことがある。
なんか、『違う』なって。
俺は果たして何を求めているのだろうか。
自分でもわからない。
元々、琴音が俺ではなく、海を好いていることを知っていた。
行動を見れば大体わかる。
夏休み直前、みんな思っていることは同じで琴音から相談された。
「海は私に対してなんとも思ってないのかな?」
あいつを振り向かせようとしている大事な幼馴染みの姿を見て、俺も協力することにした。
偽の告白を海に見せつけ、偽の恋人同士を演じることで、海に琴音を女として意識させることが目的だった。
果たして海がそれを見てどう思ったかはわからないが、俺は海にも琴音にも嘘をつくのが嫌だった。
作戦は失敗に終わったものと結論づけ、偽カップルは解消した。
途端に俺は何かから解放された気がした。
心の内に潜めていたものがもう潜めなくても良いのかもしれない。
おそらく、自分では気づいていなかったが、俺は海のことが好きなのかもしれない、と。
男が男を好きになるなんて。
……いや、今時なくもないか。
所詮はその事実を認めたくなかったのだ。
夏休みが明け、もとの(?)幼馴染み3人組に戻った俺たちはもとの様子をなくしていた。
いつもなら誰からともなく玄関を開ければ顔を合わせるが、今日は2人とも出てこないため少し待ってみて学校へ行くとすでに登校していたりとか。
海の家にゴロゴロ入り浸っていた琴音も最近はあまり遊びに行っていないようだし。
学校でも3人でワイワイ話すことも少なくなったし。
――これがそのいわゆる『すれ違い』ってやつ⁉
ここからだんだん疎遠になっていくことも無くも無いと言われるアレ。
3人の関係がさらに悪化することだけは避けたかった。
と、言っても、俺にどうしろと言うのだ?
どうしようも出来ないぞ。
話をしようとしても、いつもタイミングが合わずにすれ違ってしまうし、話をしようとする雰囲気でもない。
3人が3人ともギクシャクしている。
介入できる者は他には誰もいない。
ならば、自分たちでどうにかするしかない。
海の家へ行って、チャイムを鳴らした。
ドアからひょいと顔を出した海は少し怪訝そうな顔をするが、すぐさま「どした?」と訊いた。
「いや、特に何もないけど……ゲームしたいなっと思って」
「あっ、そ」と言いつつ、海はドアを開ける。
俺が引き継いでゆっくりと閉めた。
部屋へ上がって2人でゲームをするも特に交わす会話もなく、ただ淡々とバトルゲームに打ち込んだ。
ふと顔を上げると日はすっかり落ちていて、夜空には星もちらほら見えていた。
俺がガラスのドアを開けてベランダへと出る。
そのあとを海が追って外へ出てくる。
「お前ら似てるな」
海がそう呟いたが俺には意味がわからず、首をかしげた。
「こないだ琴音が来たとき、あいつもこうやって勝手に外にでて星を眺めてた」
海はそう言って低い壁に上半身を預ける。
下には庭が見える。何もない庭。
「あのさ、この前のことなんだけど」
海が先に切り出す。
『この前のこと』と言えば思い当たる節はただ1つ。
バレーの大会に行ったときの電車内での話だ。
「ああ、急で悪かったな」
俺はそう言い、さらに続ける。
「よく考え直してみたけど、やっぱりお前といるときが1番自由だわ」
「っw、自由ってなんだよ」
「楽しい、的な?」
「意味全然ちげーよ、それ」
海も俺も笑ってごまかす。
2人とも動揺していたのだろう。
自分の本当の気持ちとは何なのか。
冷たい風が窓をヒューと震わせて、俺たちは部屋の中に戻った。