【笠地蔵】悪魔像に伝説の武器を
「それじゃあ行ってくるよ、おばあさん」
「気を付けるんだよ、おじいさん」
大きな包みを背負ったおじいさんが、おばあさんに出発の挨拶をします。おじいさんは新年を迎える準備をするため、これから町まで降りて、丹精込めて作った伝説の武器を売ろうとしていたのでした。
「魔法剣ギャラクシーショットはいらんかね~。神秘の魔導書エンゼルクラッシュもあるよ~」
町に着いたおじいさんは、市場で売り込みを開始します。けれど、誰も見向きもしません。
その内に日も暮れてきて、おじいさんは仕方なく店じまいをします。
「困ったのう……。これでは年が越せんわい」
ため息を吐いていたおじいさんは、道端に気になるものを見つけました。
「これはこれは……。こんなところに悪魔像を祀る神殿があったとは……。ありがたいことじゃ。少し拝んでいこうかの」
おじいさんは悪魔像の前で手を合わせます。そして、寒い冬の日だというのに、その像たちが野ざらしになっているのに胸を痛めました。
「可愛そうな悪魔様たちじゃ。……おお、そうじゃ! これをお供えしておこう」
おじいさんは売れ残ってしまった伝説の武器を包みから取り出して、悪魔像の前に置きました。風や雪を避けるのにはちっとも役に立っていないのですが、おじいさんは気付いていません。
夜になって家に帰ったおじいさんは、そのことをおばあさんに話します。おばあさんは「それはよいことをしましたね」とおじいさんを褒めました。
一方その頃、神殿では歓声が響き渡っていました。
「おい、見ろよ! 俺のお供え物、すごい格好いいぞ! 嵐の槍グレートストリームだって!」
「俺のなんて呪われし斧インフェルノスパイラルだぜ!」
それは、夜になって石化の魔法が解けた悪魔たちでした。
「こんなもんをくれるなんて、気前のいいじいさんだな! 礼をしに行こうぜ!」
「賛成!」
悪魔たちは意気揚々とおじいさんの家に向かいます。
「よう、じいさん! 武器のお代を払いに来たぜ! 神殿の地下に埋まってた金銀財宝だ。好きに使いな!」
悪魔たちはおじいさんの家に入りきらないくらいの財宝を贈りました。
こうしておじいさんとおばあさんは、悪魔たちと共に素晴らしい年明けを迎えることができたそうです。