【ウサギとカメ】ウサギ、退廃と堕落の世界へ
「そこのカメ! 俺様と勝負しろ!」
カメに向かって、ウサギがそう叫びました。
「我が血に宿る呪い……。今度こそ打ち破ってみせる!」
「いいでしょうとも」
実は、二匹が戦うのはこれが初めてではなかったのです。カメの自信たっぷりな様子を見て、ウサギは顔を歪めました。
「いけ好かない奴め。常闇の妖術師の称号を有しているからと調子に乗っているのか? その鼻っ柱、へし折ってやるわ!」
ウサギは意気込み、遠くにある丘を指差します。
「かの冥府にて、禁忌の神を讃える祝詞を先に上げた者の勝ちだ! よいな?」
「いつもの通り、かけっこで競争ですね。向こうの丘がゴールですか。分かりました」
「では、行くぞ!」
ウサギのかけ声と共に、カメはえっちらおっちら歩き出します。
一方のウサギは、地面に魔法陣を描いていました。
「奴を血祭りに上げてやるわ! 駆け抜けろ、超流星! 最強転移!」
どうやらウサギは魔法の力で丘まで瞬間移動しようとしているようでした。
けれど、術は不発に終わります。
「くそ! 常闇の妖術師め! 俺様の魔法を弾いてみせるとは、油断ならん奴だ!」
カメは、すでにスタートとゴールの中間地点辺りに差し掛かっています。ウサギは、こうなったら切り札を使うしかないと腹をくくりました。
「三日寝ないで考えた奥義を披露してやろう! 仮初めの死よ! 我が双眸に降誕せよ!」
ウサギは両目を閉じて、その場に横たわります。
「常闇の妖術師よ、辞世の句は考えたか? これは俺様の身を退廃と堕落に浸すことによって、絶大な力を得る魔術なのだ。その魔手からは逃れられん。つまり、貴様の……未来……は……すで……に……」
ウサギは安らかな寝息と共に、退廃と堕落の世界へと旅立っていきました。
どうやら、今日のレースもいつもと同じ結果になりそうです。