【小人の靴屋】小人の魔導書屋
夜遅くまで仕事をしていた働き者の靴屋さんは、まだ作業が完了していないのにうっかり眠ってしまいます。
そんな彼を小人たちが見つけました。
「ややっ! このままでは朝までに仕事が終わらないぞ!」
「我々で助けてやろう!」
心優しい小人たちは、靴屋さんのお手伝いをすることに決めました。
「どうやらこの男は靴を作っていたらしいな。……ふん、つまらん!」
「どうせならもっと良いものをこしらえてやることにしよう」
「魔導書はどうだ?」
「よし、決まりだ!」
小人たちは邪悪な雰囲気の漂う紙を持ってきて、そこにおぞましい色のインクで文字を書き始めました。
「やはり天地創造の術は欠かせないな」
「魔竜召喚の秘技も記しておこう」
「時間遡行の詠唱を知る者はおらぬか? 永劫の輪廻よ……の次が思い出せぬのだ」
ワイワイと作業をしている内に朝になります。小人は自分たちの仕事に満足しながら帰っていきました。
一番鶏が鳴き、靴屋さんが目を覚まします。
「こりゃいかん! 寝過ごしてしまったわい!」
慌てた靴屋さんは、驚くべきものを発見します。作業台の上から作りかけの靴がなくなり、代わりに不気味な本が置いてあったのです。
「何じゃ、これは。……さてはイタズラだな? この忙しい時に……」
腹が立った靴屋さんは魔導書を燃やしてしまい、急いで新しい靴の作製に取りかかりました。
そしてその日の夜、あまりに根を詰めすぎた彼は、またしても作業の途中で眠ってしまいました。
そこに小人たちがやって来ます。
「また眠りこけてしまったのか。仕方がない奴だ」
「我々の出番のようだな」
「今度は聖杯を作ってやろう! 不老不死の力が得られる禁忌の魔法具だ!」
小人たちは楽しく作業をし、夜を明かします。
翌朝、作業台の上に置かれていたものを見て、靴屋さんが「何だ、この汚らしいコップは!」とキレたのは言うまでもありません。
それからというもの、靴屋さんは仕事の最中に居眠りをしなくなりました。それだけではなく、周りの人たちにこう忠告するようになります。
「不届き者たちに悪さをされたくなかったら、物事をやりかけのまま放置してはならない」
この教訓を元に皆は今までよりもいっそう仕事に励み、町は勤勉な者で溢れかえってとても発展したそうです。