【アリとキリギリス】冬来たりなば、終末遠からじ
「魂の奥底に澱む闇の力よ! 我が叫びに応えよ! ハアッ! ヤアッ! トウッ!」
「おや、キリギリスさんじゃありませんか。何をしていらっしゃるのですか?」
食料を巣に運んでいたアリたちは、切り株の上でキリギリスが奇怪な動きをしているのに目を留めました。
「内なる黒き力を解放しているのだ。全てを破壊し尽くすためにな……」
「でも、もうすぐ冬が来ますよ。食べ物を集めなくてもよいのですか?」
「冬? そんなものは来ない。もうすぐ世界は終わるのだから。この私の手によって。フハハハハ……!」
高笑いするキリギリスを見て、アリたちはヒソヒソと言葉を交わします。
「冬が来なくなるんだって!」
「すごいじゃないか!」
「何だかよく分からないけど、応援しておこうぜ!」
アリたちは「頑張ってください!」と言って巣に戻って行きました。
けれど季節は巡り、今年も寒さの厳しい時期が到来します。
「ああ、冷徹なる厳冬の腕が我が魂を抱き寄せようとしている……」
夏の間中暗黒の力を解き放つのに夢中になっていたキリギリスは、食べ物も住む家もなくすっかり凍えていました。
そんな折、アリの巣を見つけます。キリギリスは最後の力を振り絞って、彼らに助けを求めました。
「小さき命よ……。どうか哀れみでもって我の上に慈悲を垂れよ……」
「キリギリスさん、冬を阻止するのに失敗してしまったんですね」
アリたちの顔には失望が見えます。これは追い出されても仕方がない、とキリギリスは覚悟しました。
しかし、彼らの反応は思っていたものとは違いました。
「僕たちが悪かったんです!」
「冬を止めるのをキリギリスさんに任せっきりにしていたから!」
「次からは我々も協力します!」
巣の至る所から、「私も!」「俺も!」と声が上がります。
キリギリスは目を丸くしながら呟きました。
「破壊者とは孤独のみを友とする存在……。だが……たまには群れるのも悪くはないか」
どうやら、仲間ができたことが嬉しいようです。
こうして彼らはアリの巣の中で、冬を止めるための活動を始めることになりました。
その効果が出たのでしょうか。翌年は、記録にないほどの暖冬になったそうです。