第八話 きゃん あい さばいぶ?
「で、アタシとしては笑顔で送り出したつもりだったわけだよ、うん」
岩の上で足を組んだ赤髪の妖精さんから、呆れの籠った冷ややかな声が降ってくる。
相対するカワウソさんはジャパニーズ土下座……は骨格的に不可能なので、五体投地、平身低頭で伏せのポーズ。
「それなのに、なーんで戻ってきちゃうかな、この子は」
組んでスラリと伸びた脚の、そのつま先が、カワウソさんの鼻先をゲシゲシと踏みつける。
ここで怒ってはいけない。全裸の少女に踏みつけられようが動じずクールに土下座を決めるのが、ハードボイルドな男の嗜みである。
そしてすかさずサッと緑色の物体を差し出す。
大人の常識、心付けである。
「どうぞ、お納めください」
「お、キミからの贈り物か~。何だろう?ワクワクするね~」
大きめの草の葉の包みを嬉々として開く妖精さん。笑顔のまますぐにそっと閉じる。
そしてそのままスローモーション。
『遅回し』ではない。無駄の無い『投擲動作』である。
「そりゃないでしょ⁉」
「アタシのセリフだよ!女の子へのプレゼントに生の魚ってどうなのさ!」
「え?私の主食ですが」
「む~、火起こすのめんどいじゃん」
「オススメはこう、頭から生で」
「え、嘘でしょ?」
妖精さん、ドン引きである。
御馳走をを全否定されて、カワウソさん、ちょっぴりブルー。ウルウルした目で妖精さんを見つめてみる。
「あ~、もう、分かったからその目やめて」
顎の辺りをワシャワシャされた。こういう時はカワウソで良かったと思う。
「ポイしない?」
「はいはい、いただきます」
そう言って魚を掴むと、川魚からキラキラしたマナだけ吸い込む。
「はいごちそうさまー」
そのまま妖精の掌で炎が上がり、憐れ、魚はジュボっと音を立てて消え去った。
無駄の無い一連の動作。はらはらと魚だったものの成れの果てが舞っていた。
アディオス魚さん!
ていうか、妖精ってマナだけ摂取できたんだ……『ここ数日』のカワウソさんのサバイバル生活、主に飢えとの戦いは何だったんだろう?
「勿体ない……」
「ゴメン、生臭いのムリだから」
手の匂いを嗅いで、うへー、と顔をしかめる妖精少女。
そのまま俺の顎を再びワシャワシャする。
……いや、違う!この全裸妖精、俺で魚の臭いを拭き取りやがったな。
「で、ここ数日間、何があったのさ?お土産のお礼分くらいは、このお姉さんが話を聞いてあげようじゃないか」
そう言って話を促す妖精さん。
脚を組んでクイッっと顎を上げる素振が、そこはかとなく頼れる感を醸し出していた。
やだ、このお姐さん素敵!全裸だけど!