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カワウソさんの異世界ワンダリング!  作者: カワウソおじさん
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第七話 はう とぅ さばいぶ

「ん?どしたの?」


 気付くと目の前で妖精が手を振っていた。驚愕で意識が飛んでいたらしい。一瞬目の前の少女の露わな胸元が左右に大きく揺れていた気がしたが、カワウソさんは何も見ていない。


「うん、一先ずその町に行ってみようかなと」


「えー、やめといた方がいいよ?」


 心底嫌そうな顔をする妖精さん。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。


「何故でしょうか?」


「あそこは妖精に優しくないからね~。前も人間に興味持った子達がいたけど、あの街でぱったり消えてそれっきりなんだ」


 捕まったか、害されたか。

 寂しそうに微笑む妖精さんの表情がどういうわけか心に深く突き刺さった。

そう言えば、目の前の少女のこんな表情は初めて見る。ここは忠言を受け入れた方が良さそうだと直感が言っていた。


「他にヒトが住んでいる所は無いんでしょうか?」


「えーっと、この辺だと川の上流に、『ちょっと歳いった親子』が居たかな。他にはヒト種の住処は無かったハズだね~」


 年老いた親子かぁ。森の奥で老々介護状態?いくら人恋しいとは言え、そこで厄介になるのは難しそうだ。ご迷惑になるだろうし。ただ、この先自身の生活基盤に余裕が出てきたら、ちょっと見に行ってみるのはアリかもしれない。ご老人の話し相手くらいはできるかもしれないしね。

 何はともあれ。人を頼れないとなると、今後の指針は一つ。


「仕方ない、自力で生活できる基盤を作ってみますか」


「あれ、ここで遊んで暮らしてもいいんだよ?キミ、一緒に居て飽きないし」


 意外そうな顔をする全裸少女。

 そう、全裸なのだ。

 年頃の素っ裸な少女と一緒に生活するなんて、カワウソさんの鋼のようなハードボイルド精神でも保たない気がする。


「貴女が服を着てくれさえすれば」


「え、キミが服着てくれたら考えてもいいよ」


「持ってねえよ服なんて!こっちが原因で全裸みたいな言い方しないで下さい!」


「むー、服なんてただの飾りなのに。仕方ないな~」


 そう言って指を軽く振る全裸妖精。するとマナが胸元と腰回りを覆って、女の子として最低限を隠す衣類に変わった。


「できるのかよ!ずっと目のやり場に困ってた俺がバカみたいじゃないですか!」


「いいじゃん、減るもんじゃないし~。あー、窮屈ぅ―」


 視界に入る度に、即、視線を逸らすの疲れるんだぞ!何から、とは言わないけれど。

 いずれにせよ、カワウソさんの倫理観の根底は日本社会。

 妖精とは言え、見た目が十代の女の子と2人きりで暮らすのには言い知れぬ恐怖と抵抗がある。見た目カワウソでも、心は社会的抹殺にウサギのように怯える紳士なオジサンなのだ。


「せっかく服まで着てもらったのに、すみません」


「んー?」


 ペコリと頭を下げる俺に、首を傾げる少女。


「やっぱり当面は自力でなんとか生活してみます。このままここに居ても、貴女に依存した生活になっちゃいそうですし」


 なお、これは本心ではあるが、表向きの理由。

 もう一つの理由……動物の姿だと、未経験ではあるがアレが来る可能性がある。


 発情期。


 人間には存在しないため未知であるが、三大欲求に抗えないのが生物である。人間の意識を持つカワウソさんの場合、その制御できない矛先が人の姿をした妖精少女に向かないとは限らないのだ。ここまでの恩を仇で返すような真似はしたくない。


「そっか~、残念。ま、妖精の本質はどこまでも自由。キミがそうしたいなら、そうするべきだね。うん、アタシは生まれたての妖精の、その第一歩を祝福しよう」


 晴れやかな、それでいて慈愛に満ちた笑顔で両手を広げる赤髪の妖精少女。

 一帯で咲き誇る彩とりどりの花と共に在る可憐な笑顔に、茫と見惚れてしまう。

 そして思う。状況に溺れるような絶望の最中で、俺はこの笑顔に救われたのだ——


 思わず涙が出そうになったところで、少女の笑顔がニヤリに変わる。


『そう言えばキミ、わざわざ発情期の心配なんかして出て行くだなんて、可愛いところあるじゃん』


「な、ぶはッ」


 咽喉のマナが口から噴き出す。

 脳内に響く、目の前の少女の『声』。

 そうだった……意識共有したまんまだから、考えてることダダ洩れじゃないか!

 目を見開いて少女を凝視する。こいつ、謀ったな⁉


『ここから居なくなるんなら、これは要らないねぇ……えい♪』


 バシュッ、と、少女の身を申し訳程度に覆っていた衣類が弾け飛ぶ。

 と同時に、ドアップの少女の裸体が目に焼き付く。


「キュピイイイイイイイイッ!」


 俺は脇目も振らず、笑い転げる全裸、もとい痴女妖精から逃げ出した。

 こうして、カワウソさんの新天地生活が幕を開けたのだった。

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