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カワウソさんの異世界ワンダリング!  作者: カワウソおじさん
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第五話 まな

 バシャン!


 目の前の水鏡が弾けて落ちる音で我に返る。


『へ~、キミは元々、カワウソって種族の獣だったんだ。いや~、初めて見るけど、長生きはしてみるもんだね』


 いやそんな筈がない。本日がカワウソデビュー初日だ。そもそもデカいコアリクイやらその辺を漂うキラキラやら妖精やら魔法っぽいのやら、なんかこう、色々とツッコミどころが多すぎる。夢か?えらく鮮明だがこれは夢に違いない!


 頭を抱えてブンブン左右に振る。あ、なんか視界の端に尻尾みたいなの見えた。


「とう!」


 妖精少女が手をかざすと、今度は手から広がったキラキラが水の塊になり、


 バシャン!


 俺の頭上から降ってきた。

 ブルブルブルブル!

 思わず全身を震わせると、いい感じで水気が飛んで行った。


『頭冷えた~?』


『……はい。』


『まず、爪のおっきい獣。あれ獣の中じゃ小さい方だかんね?そもそもキミ、大きさはニンゲン?ヒト種の腕くらいの大きさなのを自覚しなきゃ』


 サイズもコツメちゃん並に縮んでるのね。まじか。

 ちなみに目の前の妖精の女の子も、ほぼ同じか俺より少し小さいくらいのサイズである。


『んで、キラキラ……ああ、キミにはこう見えてるんだ。生まれたての妖精にしてはスゴいいじゃん!これがマナだよ』


 マナ?なんかオカルト用語っぽいの出てきたぞ?

 旧約聖書の出エジプト記で神が降らせたという、霜のような形状の完全食。いや、この場合は古代の南の島で信仰されていた神秘の源、超常パワー的なモノだったか。なんか調査旅行で現地のガイドさんが説明していたが、よく分からなかった覚えがある。


『んー、この世界に広がり続けるモノ?地中の深い所から生み出されて、ぶわーって出てきて広がって、世界を正常に保つみたいな。』


『でもさっき、貴女の手から出てたような』


『あるよ、体の中にも。アタシの中にも見えるんじゃない?』


 じっと目を凝らす。見ようとしなければ気付かなかったが、目の前の妖精の体の隅々までキラキラが重なって見える。妖精の体は普通に見えるのに、透明なキラキラがダブって見える不思議な感じ。あ、特に胸とかお腹の辺りのキラキラの濃さが凄いことになってる……ん⁉慌ててすぐ目を逸らす。

 そういやこの妖精、絶賛ヌーディスト中だった。


『そしてキミは絶賛発情中?』


『しません!』


『いや~、生まれたての妖精までイケナイ気持ちにさせちゃうなんて、お姉さんの魅力もまだまだ捨てたもんじゃないね~。うりうり、触っちゃう?』


『ワタシ紳士。ソンナコトシナイ』


 ハニートラップとか痴漢冤罪とか、中年男性の周囲には人生を即終了させる罠がそこら中にに転がっているのだ。オジサンよく知ってる。ちょっとでも触れた時点で恐いお兄さんとか来るやつだ。そうに違いない!


『え、キミ妖精に成る前にどんな酷い目に遭ってきたのさ⁉』


『待って!これ全部聞いた話だから!』


 決してオジサンの実体験では無い。頼むからそんな憐みの目でオジサンを見ないで欲しい。


『と、ところで、なんで世界に拡散しているマナが、体の中にも存在してるんですか?』


『あー、なんか食事とか息とか、あとよく分らんないけど勝手に入ってくるみたいだね~』


『要はマナを吸着している?……生体はマナを吸着ないし保持し易い媒体ってことか。』


 脱臭炭や消臭剤は臭いの原因物質を吸着しやすい媒体である。こういった特定の物質を特異的に吸着する新規素材の研究・開発が、昨日までのオジサンの飯のタネだったわけで。この異常事態にも拘らず知的好奇心が刺激される。


『言葉の意味はよく分かんないけど、イメージはそんな感じだね~。んでんで、体内のマナに意思を介して、チョイチョイっと形を変えるのが魔法ってわけさ』


 言いながら、手のひらの上でキラキラしたマナを水玉や火の玉、小さなつむじ風に変化させていく妖精。

 ドルトンの原子論やら酸化還元反応の概念、エネルギー保存の法則などといった『当たり前』が、この一瞬で瓦解してしまった。マナは任意の分子にも化学反応にも、エネルギーにも変質し得る超便利なモノらしい。うーん、スーパーナチュラル!


『俺にも魔法って使えるんですか?』


 オジサンの奥底で惰眠を貪って久しい少年のハートが飛び起きたようで、思わず身を乗り出していた。


 魔法。


 定義は解釈によってまちまちではあるが、我々日本人に馴染み深いのは西洋の魔術をベースにして魔改造された、ゲームやマンガ、某眼鏡少年が通う魔法学園の絵本なんかでお馴染みのアレである。

 古くは異教徒とされた人たちが使う薬草の知識や、仏法から外れた外法などが魔法と呼ばれたとされる。

 現在でも科学技術で空を飛ぶのは納得できるが、箒を使って謎の力で空を飛ぶのは科学的にあり得ないと感じないだろうか。

 このように、魔法とはその時代や場所における主流かつ一般に納得できる理屈から外れた力で物事を成す技法。オジサンはこのように解釈している。


 目の前のマナを使った技法は、正しく科学の理外で引き起こされたものだった。

 もしもこの魔法を活用できれば、世界のエネルギー事情が石油や原子力依存から遷移する。これを転用すれば巨万の富が……


 そして!オジサンの婚活事情も大きく好転するに違いない!

 強大な経済力は、40手前の年齢というハンデを覆すことができる魔法なのだ!


 無事に帰れた暁には、特許を申請してベンチャー企業を立ち上げるぞ。

 惜しむらくは、オジサンの姿がカワウソだという点。この姿で手続きをしに行っても、残念ながら終着点は保健所か動物園になるような気がしてならない。


『色々妄想がぶっ飛んでるとこ悪いけど、妖精なんだし魔法くらい自然と使えるようになると思うよ~、何十年後かに』


『え、そんなにかかるの?』


『ほら、遊んでるうちに必要だな~って感じたら、自然と使えるようになってるもんだし』


 妖精さん、時間のスパンが長すぎるよ。


『何とかコツだけでもご教授願えませんか⁉』


『あ~、確かにキミ、明日には骨だけになってその辺に転がってそうだもんね~』


 妖精さん、遠い目。既にオジサンが亡くなる予定で考えていらっしゃる。お願い、今生の別れみたいに頭を撫でないで欲しい。シャレになってないから。


『野生怖い野生怖い野生怖い……』


『ああ、もう、しょうがない!ここはお姉さんがひと肌脱いだげよう!』


 そう言ってわしゃわしゃと俺の頭を撫で回す妖精少女。



 いやお嬢さん、あんた、それ以上脱ぐもの何も無えよ。

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