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カワウソさんの異世界ワンダリング!  作者: カワウソおじさん
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第三十三話 だいさんしゅ せっきんそうぐう

 第三種接近遭遇。

 天文学者のJ・アレン・ハイネック博士が提唱した、未確認飛行物体との接近遭遇分類法における段階の1つである。

 博士はアメリカ空軍が設立したUFOの調査研究機関、プロジェクト・ブルーブックの顧問と言った方が分かりやすいだろうか?

 人呼んでUFO学界のガリレオ。


 氏の分類によれば、第三種は『空飛ぶ円盤の搭乗員との接触』。


 異なる世界の知的生命体が接触する。

 そういう意味では、これからカワウソさんがやろうとしていることは、第三種接近遭遇と表現して差し支えない筈である!

 嗚呼、素晴らしきかな、未知との遭遇!




 湖の近くに住むという、お年を召された親子。

 ご近所さんのカワウソさんとしては、是非とも友好的な関係を築きたいものである。

 適度なご近所付き合いに重要なポイントはコレだ!


 1.笑顔

 2.あいさつ

 3.プライバシーへの配慮


 あ、手土産は魚でいいかな?

 レッサーさんの骨は……やめとこう。価値はあるけど、海賊のジョリーロジャー的な意味で取られたらご近所トラブルに発展しかねない。


 さて、問題の親子が暮らす場所。そこを探すところから始まるわけだけれども。

 人が生活する以上、水場は必須である。

 ご高齢であれば、より水汲みの労力がかからない水辺に暮らしている可能性が高い。


 湖の近傍には猛獣のレッサーさんが闊歩していたため、暮らすには不適切。

 というわけで、湖に流れ込む北、もしくは北西の小川のそばに当たりを付けている。更に言えば北は流れが急なため、最有力は北西から流れ込む小川であろう。




 さてと。

 今日は長い距離を移動するので、身体を解す。

 気が付いたら、お馴染みラジオ体操になっていた。

 長年のブランクがあるのに体が勝手に動くから不思議だ。恐るべし、日本人の遺伝子レベルにまで深く刻み込まれた、国民的体操!


 うん、遺伝子には逆らえないんだ

 だからリスさんもキツネさんも、そんな胡乱な目でカワウソさんを見ないで!


 深呼吸を終えると、地面の輪っかからマナが立ち昇っていた。

 うわー、これも妖精の踊り認定されるんだ……。


「じゃ、ちょっとご近所さんにご挨拶してくるね」

 中折れ帽を目深に被って前足をヒラヒラ振る。

 リスさんとキツネさんが前足を上げて、チョコチョコと振り返してくれた。可愛い。




 崖の縁に立つ。

 いや、別にカワウソの身を悲観してというわけではない。ほら、割と便利だし。


 目を閉じて集中する。

 マナを前足から後足、尻尾へと薄く広げるイメージで。

 参考にした形状は、ムササビさんの被膜。


 そう!カワウソさんは滑空で湖を渡ろうとしているのだ!

 鳥人間……いや、鳥獺コンテスト?


 この日のために、ムササビさん協力監修のもとで木からの滑空を繰り返し、ついに最適な皮膜の形成に成功したのだ!


 ……だって、カワウソさんって妖精じゃん?

 ……妖精って飛べるのが普通らしいじゃん?

 だからカワウソさん頑張った!

 

 未だに浮遊する方法はてんで思いつかないが、滑空で何かしら空を飛ぶヒントが掴めればいいかなって考えている。

 そう、これは未来への布石なのだ!




 四本足で後ろにタカタカ走って、助走距離を確保する。

 そこから一気に加速して、崖の端で踏み切った。


 瞬時に足を大の字に広げると、皮膜が空気を掴んでブワッと大きく膨らんだ。

 尻尾をピンと伸ばして、ヒレを垂直尾翼代わりに進行方向を微調整する。


「いよっしゃぁぁぁぁあああ!」


 落下とは違う、紙飛行機のように緩く空中を滑る感覚に、思わず叫び声が洩れる。

 成功だ!


 スイーっと空中遊泳を楽しんでいると、目の前を横切る黒い鳥さんを発見。

 あ、あれカラスさんだ!


「カラスさーん、この間はゴメンねー!」


 無論、先日の竹槍直撃未遂事件についての謝罪である。

 カラスさんはチラリとこちらを一瞥すると、『気にするな』とばかりに翼を2、3振って通り過ぎていく。おお、渋い大人な感じでカッコイイ!


 と思ったら、カラスさんはクルリと首を回して、ギョッとした顔でカワウソさんを二度見、三度見するとそのまま固まった。

 え、空中で動き止めたら危なくない?


 そのままカラスさんの前を滑空して通り過ぎる。


「ガアアアアア⁉」


 下の方からいつもの潰れた鳴き声と同時に、水面に何かが叩き付けられる音が響いた気がした。

 ……うん、きっと気のせいだ。

 カワウソさん、何も悪くない。


 何も見なかったことにして、湖の上空を滑空する。

 前足を少し折り畳みながら高度を落としつつ、北西に舵を切った。

 両の眼が北西の小川を捉える。


 姿勢を崩さないよう注意しながら、少しずつ水面に近付く。

 水面を水掻きで大きく叩いて一度跳ねると、皮膜を消してそのまま水に潜った。

 水が全身を包み、速度を一気に殺す感覚の後で、サッと水を掻いて浮上する。


「ぷはーッ!」


 森の香りが鼻を駆け抜ける。

 

 やばい、超楽しかった……

 今なら、死と隣り合わせのウイングスーツフライングにどハマりする人たちの気持ちが、少し分かるかもしれない。


 ただ、残念ながら飛ぶというよりは、空中を腹這いで流されて行く、といった感覚だった。

 カワウソさんの理想とする飛行は、空中を自在に泳ぐような飛び方である。

 そのためには重力をどうにかしないといけない。今後の課題だね。




 小川の河口の岩場。

 そこにフロートが係留してある。

 昨日のうちに準備しておいたんだよね。


 フロートに少し水を入れて、潜る。

 肉付きの良さそうな魚を見つけると、捕まえて次々にフロート内に放り込む。

 今回は贈答用なので、大ぶりで形の良い物を厳選した。

 これで引っ越しのご挨拶の準備は完璧だ!


 フロートに結わえた蔦を口に咥えて、いざ小川へ!


 意気揚々と進んだ矢先、壁にぶち当たった。

 大小様々な大きさの木材が斜めに積み上げられた、文字通り壁である。

 これは……ビーバーのダム?


 水中に潜って、入り口を探す。

 ……あった!

 スイーっと入り口を通り抜けると、丸太や枝に囲まれた空間に出た。


「ぷはー、お邪魔しま~……あれ?」


 中に、誰もいませんよ?

 水に近い部分から木材が劣化している様子から、ずいぶん長いことお留守みたいだ。

 屋根の部分を見上げると所々、木材を突き破って先端の尖った笹が飛び出ていた。


 ……んんん?笹?


「………………。」


 あ、これ、すんごい見覚えあるわ。

 パンダさん、ここで笹槍を投げる練習してたんだ……。


 気を取り直してダムの外へ出ると、フロートを牽引しながらダムを迂回する。

 この森にビーバーさんが生息しているのを確認できただけでも収穫だ。




 しばらく遡上すると、森の少し開けた部分が見えてきた。

 川の中心部に大きな岩場があり、流れを2つに分断している。

 それに伴って、川幅が少し広がっているようだ。

 流れは緩やかな感じだね。


 あの辺りの岸で少し休憩するか……

 周囲を警戒しながらソロリと川岸に上がる。

 ヒゲは……反応しない。よし、危険な生き物はいないっぽい。


 改めて岸を見渡すと、幅20メートル、奥行き10メートルほどの、木が生えていない結構いい感じの空間ができている。

 水を汲んだりするのに丁度いい場所だ。

 この辺りを起点に人の気配を探ってみるか。


 ともあれ、まずは腹ごしらえだ。

 フロートから魚を1匹取り出して、ガジガジする。

 おみやげ?まだ大量にあるから大丈夫!

 できる男のカワウソさんは、おやつの準備も抜かりないのだ。



―――バシャッ!



 突如、川の方から水音が響いた。

 魚かな?それにしては音が大きかったような……

 ガジガジガジガジ。


「誰……?」


 音ではなく、明確な言葉。

 今のって子供……人の声、だよな?

 ガジガジガジガジ。


「ま、魔獣⁉」


 え、魔獣だって?

 慌ててキョロキョロ辺りを見回すが、何もいない。

 ガジガジガジガジ。


 改めて声のした方を見る。

 そこには、岩陰から上半身を出して、弓を構える子供の姿。


 その弓を構えた鋭い眼光が、カワウソさんを見据えているのであった。

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