第三十一話 かわうそさんはみた
「できた……」
カワウソさんの前に、試行錯誤しながら手ずから作った道具が並ぶ。
これならすくえるハズだ!
あの後結局、パンダさんはお裾分けとばかりに笹を置いていった。
カワウソさんがお返しにお魚さんをあげると、パンダさんはハッとした顔でコクリと頷くと、魚をブンブン振り回していた。
食べ物のお裾分けのつもりだったんだけどな……。
そのままパンダさんはバイバイと手を振って森へと帰って行った。
さて、問題は目の前の笹。
当然カワウソさんはこれを食せない。
一瞬だけ竹槍に加工しようかとも思ったけど、リスさんのジト目が『それはダメ』と言っている気がしたので諦めた。
そこで、ナイフでシャリシャリと笹を縦に割いて、たくさんの竹ひごを作った。
それを理想の形にするべく、試行錯誤しながら必死に編み編みした。
そうして出来上がったのが、コレ。
『魚篭』と『箕』である。
魚篭は魚を入れる竹籠。箕はチリトリの形をしたザルと言えば通じるだろうか。
早速、魚篭を腰に、箕を頭に装備する。
そして腰を大きく落としてガニ股になる。
カワウソさんはそのまま腰を前後にヘコヘコ動かしながら、湖の岸辺を歩き始めた。
……いや、断じて発情期が来てサカっているわけではない。
脳内で三味線と鼓の囃子が流れ始める。
「おっさ~ん~どこへゆ~く~、腰に籠~下ァげて~」
じょんがらツッポンツッポン♪
「前の湖へ~どじょう取~りにぃ~」
ツッポンポンポンじょんがらじょんがら♪
そう、正解は日本が誇るお座敷芸、どじょうすくいである!
さっき潜った時に見かけたんだよね、ドジョウ。ならばやるしかないじゃない!
だからリスさん、そんな唖然とした表情で固まるのやめてね?
なぜカワウソさんが踊れるのか。
会社の忘年会前に、みっちり練習したからである!
我々研究部門のボスはドジョウ顔である。だからやった。
日頃から飲み屋を連れ回されて何度も二日酔いに苦しめられた。だからやった。
やられたらやり返す。意趣返しだ!
ちなみに忘年会は大いに盛り上がった。
同僚は爆笑。ボスもニッコリ。
笑顔は世界を平和へと導くのだ!
……そしてその日、オジサンは笑顔のボスから過去最長時間の飲み屋引き廻しの刑に処された。極めて不当な判決である。
腰をヘコヘコしながら箕や足で底をさらったり、魚篭にドジョウを入れたり。
コミカルな動きを織り交ぜながらカワウソさんは踊り切ったぜ。
充実の汗が額を流れる。
「どうだった、リス……さん?」
リスさんがカワウソさんを見たまま固まっていた。
正確には、カワウソさんの後方を指さして。
頭に疑問符を浮かべたまま振り返る。
そこには……地面に無数の、金環日食のように輝く円が描かれていた。
そこから少しずつキラキラしたマナが立ち昇り始めている。
頭に浮かんだ疑問符が、仲間を増やしてカワウソさんに襲いかかってきた。
これは……まさか、ミステリーサークル⁉
タララランタランタラン、ピューイー……
脳内に某ⅩなファイルのBGMが流れる。
光の中にカワウソさんが吸い込まれて行くイメージが脳内に浮かぶ。
ヒューマンミューティレーション……いやカワウソだからオッターミューティレーション?面倒だからアブダクションでいいや。
慌てて上空を見るが、空飛ぶ円盤は見えない。
ちなみに最近ではUFO(未確認飛行物体)ではなく、UAP(未確認空中現象)と表現するらしい。ニュースで某超大国のお偉いさんが言ってた。
焼きそばの方は改名するのかな?
ともかく、ここは空想の生物が実在する世界なのだ。
UFOや宇宙人がいたとしても不思議ではないのがちょっと怖い。
この先、出会わないことを祈ろう。フラグではない、断じて。
冗談はさておき。
傍らでおずおずと、小さな手足を動かして踊っていたリスさんの後ろには、何もない。
カワウソさんが辿ったルートに沿って輪ができている以上、原因はカワウソさんである。
カワウソさんは妖精であり、妖精はマナの担い手だと赤毛の妖精さんは言っていた。
妖精の輪。フェアリーリング。
確か、キノコなどの真菌類が環状に生えている現象を、きっと妖精が踊った跡に違いない!と解釈したのが語源である。
つまり、カワウソさんが踊ったから円環ができたという理屈でいいのだろう。
別名、魔女の輪とも言うんだけど、魔女が踊ってもできるのかな?まあいいや。
結論。
どじょうすくいは、この世界で踊りとして認められた!
試しにフラダンスやコサック、カチャーシーでも地面に輪っかができた。
パラパラを踊るとシュイン!と輪っかができたのに、そこからパントマイムに切り替えると悩まし気に明滅を繰り返して消えていった。判定に迷いが生じた⁉
……なぜか、リンボーだけは全くダメだった。
どうやらこの世界的に、踊りとカウントされなかったらしい。




