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カワウソさんの異世界ワンダリング!  作者: カワウソおじさん
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第二十五話 おともだち

 翌朝。


 瞼越しの朝日の眩しさで目が覚めた。リスさんは……木の上で何故か神妙な顔をして俺を観察している。そう言えば昨日は帽子を顔に載せて寝た筈だけど、あれ、どこ行った⁉

 周囲を見回すが見当たらない。慌てて小島を駆け回ると、なぜか湖面に浮いている帽子を見つけた。風にでも飛ばされたのだろうか?サクッと回収して、ついでに朝ごはんの魚を調達した。


 魚をガジガジしながら木の根元に戻ると、リスさんは昨日と同様に尻尾をフリフリしてモビングしていた。そんなに魚が怖いのだろうか?近寄ろうとしたら、更に高い枝へと逃げられた。仕方が無いので昨日と同じように種団子作って、器に入れて木の根元に置いておいた。


 改めて小島の岩場に立ち、全周囲を見回す。感覚的に、湖の岸までは200メートル以上はありそう。便宜上、太陽が通らない方角を北と仮定して、北側には巨大な山脈状の山が見える。ちなみにカワウソさんが登ってきた川は南方。湖岸には草地が広がっており、その奥はどっちを見ても森しか見えない。今のところ湖岸に動物の気配は一切感じられないな。

 何度か湖に潜って泳いでみるが、水中にカワウソさんの生命を脅かしそうな生き物の気配は感じられない。これなら当面は安全にお魚さんを確保できそうだ。


 ブルブルブルブル!


 水気を飛ばして木の根元に戻る。

 リスさんは、今度は木の根元でジッとこちらを観察していた。少しずつ近付いていると考えれば、進歩と言えなくもない。


 不意にガサッと木の枝が揺れる音。上を見ると赤い実が落ちてくるところだったので、スパコン!と尻尾で打ち返した。いけない、パンダさんとのアレで条件反射になってしまったのかもしれない。


「ングガァァァ!」


 またカラスさんの潰れたような鳴き声が聞こえてきた。木の上で休んでいたのだろうか?ゴメンよ、カラスさん。

 傍らのリスさんは愕然と上を見上げたまま、プルプルと震えていた。うん、リスさんを怖がらせないためにも、しばらく木の実を打ち返すのは止めておこう……。


「あれ……?」


 リスさんの『前歯』が真っ黒になっているのに気付いてギョッとした。昨日はあんな色してたっけか?一目で驚くような特徴だし、昨日見て気付かない筈は無いだろうに。リスさんをガバッと捕まえて、指先で前歯を擦って臭いを嗅ぐが、虫歯のような硫黄臭は無い。となると……


「赤い実の種の成分で変色した……?」


 キイキイ鳴くリスさんを放して慌てて水辺に駆け寄る。

 イー、と口を広げて水面を覗くが、特に変色も見られない。良かった。カワウソさんの白い歯は守られた!これで木の実の種の成分説は否定された。


 ん、待てよ?

 ウサギさんの前歯を加工して作ったノミ兼スコップを見てみる。綺麗な黒色をしていた。それはもう、ついさっき見たような見事な黒色っぷりである。

 そうなると……リスさんってもしかしてコアリクイさんや巨大ウサギみたいな、骨が黒色クラスのツワモノだったりするのではなかろうか?タラーリ、と冷や汗が落ちる。


 その後、木に登っていそいそと赤い実を集めて果肉を落とし、大量の種をリスさんに献上した。お腹がいっぱいであれば、寝ている間にリスさんからガブリとされる心配も無いだろう。絶対、いやたぶん、恐らくは……




 数日後、やはり湖の岸には動物の気配は無い。

 普通、これだけの水場であれば動物が水飲み場にしていてもおかしくはないのだけれど。


 ちなみにリスさんは今日も大量の赤い実の種をお召し上がりになりご満悦。餌付け作戦が功を奏したのか、もう近くに寄っても警戒されることは無くなった。

 それにしてもリスさん、前歯と背中の黒い縞模様が薄くなっていません?こう、黒みを帯びた銀色というか……そうそう、丁度この巨大トカゲの骨の塊みたいな!


「……あ、あれ?」


 確か、動物はマナを含む物を摂食するほど、骨の色が白、黒、銀、金へと変色してゆくと妖精さんは言っていた。そして、赤い実の種はシャレにならない量のマナを含んでいる。リスだからクルミやドングリに近いものをと思って食べさせていたが、カワウソさんってば、とんでもない事をやらかしていたのでは無いだろうか?


「リスさんや、君の縞模様と前歯の色を見るに、ひょっとして巨大トカゲさん並のバケモノになっちゃった?」


 リスさんは小首を傾げながらクルリと背中を見て、ポトリ、と前足に持った種を落とした。


「クルル、ピュイ!ピュイ!」


 愕然とした表情のまま、ブンブンと首を振るリスさん。

 あれ、この子もしかして、俺の言ってることを理解している?


 小石を指さす。


「これは食べ物ですか?」


 ブンブンと首を振るリスさん。

 次に赤い実の種を指さす。


「これは食べ物ですか?」


 今度は首を縦に振って噛り付いた。両前足で持ってカリカリと齧っている。超可愛い。ちなみにこの種、カワウソさんはガジガジしているが硬くて噛み砕くことはできない。巨大トカゲのヒレや鱗でやっと割れるクラスのシロモノなのである。リスさん、見た目に反して噛む力は可愛さの欠片も無かったりする。

 更に魚を指さして問う。


「これは食べ物ですか?」


 するとリスさんは一生懸命、魚を俺の方に押してきた。俺の食べ物だということを理解しているようだ。次はアプローチを変えてみよう。


「君は泳げるかい?」


 リスさんはプルプルと首を振る。犬などの飼育動物は『ごはん』や『エサ』という声を食事をもらえる合図だと学習することがある。が、リスさんの場合は泳ぐという言葉の意味を理解して否定した。これはこちらの言うことをある程度理解していると見て間違いないだろう。


 そっかー、泳げないかー……あ。


 カワウソさんは泳いでこの島から出ることができる。

 リスさんは泳げないのでこの島から出ることができない。


 つまり……


 脳内で『誘拐』の2文字に『拉致監禁』の4文字が罪状として加わった。前の世界では年単位で塀の中へのご宿泊待った無しである。


 慌てて問いかける。


「君はこの島から出て森に帰りたい?」


 リスさんはうーん、と首を傾げた後、首を横に振った。

 良かった。ここでの生活を無理強いしている訳では無かったようだ。それなら最後にこの質問を投げかけてみよう。


「君とカワウソさんは友達……でいいかな?」


 リスさんはハッとした貌でコクコクと頷く。そのままそのフワフワな頭をカワウソさんのお腹にスリスリして、小さな前足でピトッと俺の前足を握った。え、何なの、この可愛さが止め処なく溢れる生き物は⁉


 この日、カワウソさんにとってこの世界で2人目の友達ができた。出会いはアレだったけど、素直で可愛らしい、とてもとても小さな友達だ。

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