第二十三話 いくすてんど てりとりぃ よん
一息ついて、早速巨大トカゲにコアリクイさんの爪を突き立ててみる。
カッツーン!
コアリクイさんの爪が弾かれる。
見ると先端が僅かに欠けていた。
おお、初めてコアリクイさんの爪が敗北した!
仕方が無い。今度は巨大ウサギさんの前歯で作ったノミを押し当てて、尻尾ハンマーで叩く。
お、今度は大きめの鱗が剥がれた!
鱗の向きと逆方向に押し当ててハンマーで叩いていくと、面白いように鱗が落ちていく。ここで本能さんが楽しみに覚醒、気付けば鱗の山ができていた。
ここまで来れば、あとはコアリクイさんナイフの出番だ。
例のごとく骨を摘出する。今回は、金属みたいな光沢のある黒色。これもしかして、黒の上位である銀色が混ざっているんじゃないだろうか。陸上で出会っていたらと思うとゾッとする。
骨を薄い板状にしてみると軽く、何より『しなり』が凄かった。この軽さと、柔軟性が上手く骨を撓らせて、巨体に難しい水上走行を可能にしていたのかもしれない。
あと、背ビレがヤバかった。薄くしなやかに曲がる剃刀のような刃物状になっていて、カワウソさんの歯が立たなかった赤い実の種を一撫ででスパッといったのだ。
さて、今回の残務処理。
今回は尻尾ハンマーの作り直しである。
泳ぐ際に邪魔なので、今はわざわざ着脱している。あれって結構面倒なのよね。
まずは軟化させたトカゲの骨を伸ばし、尻尾の全体を覆う。ハンマーとして叩き付ける下側は厚めに塗り塗りしておく。更にトカゲの尻尾を参考に、尻尾の背に沿って背ビレを移植し根元を硬化させる。あとは硬そうな鱗を選別して、尻尾を覆う骨に埋め込んでいく。
その後は泳いではマナの出し入れをして、ギリギリ泳ぎを阻害しない硬さに骨を調整した。
中州から岸へ移動し、細い木の前に立つ。
まずは宙返りの要領で斬り付けると、背ビレで木の皮が縦にサックリ。更に尻尾の腹側、ハンマーを叩き付けると木の幹がゴッソリ凹んだ。反対側から叩き付けると、メキメキと音を立てて倒れた。
「うん、いい感じ!」
再び泳いで中州に戻る。背ビレのお陰か方向転換がスムーズで、小回りが前よりも利くようになっている。
中州で手頃な石を探すとマナで疑似筋繊維を作り、何回か尻尾ハンマーで弾いて微調整。試しに上空に打ち上げてみる。
カキーン!
「ンカァァア⁉」
上空から潰れたカラスっぽい鳴き声が聞こえた。
鳥さん達を驚かせてはいけないので、次は森に打ち込む。
カキーン!
「ブモオオオオオン⁉」
おや、今度は牛さんかなぁ。
牛さん達を驚かせてはいけないので、中州の端に鎮座している大岩を狙って打ち込む。
カキーン!
ズズズズズ……ドボン‼
大岩は絶妙なバランスの上に立っていたようで、当たり所が悪かったのか水飛沫を上げて川に沈んでいった。うん、的も無くなったし、尻尾の性能確認はこんなもんでいいや。
そして制作した物がもう一つ。ウサギの真っ黒な骨を見てたらイメージが膨らんだ。
ハードボイルドな男の必須アイテム、『中折れ帽』である。
理想はフェルト製だが、そんな物は無いので軟化させた骨で代用する。丹念に伸ばして整形した完璧な形状である。リボンの代わりにトカゲのトサカを切り取って巻いた本格仕様。マナを注いで硬質化してあるので頭を守る防具としても優秀である。
前足でスッと押さえて目深にかぶり、水面にその渋さを醸し出した姿を映す。
……夏休みの虫取りの少年がいた。
ダメだ、黒目がちな無邪気でキュートな顔が強すぎて、なんかイメージと違う!必死に目を細めたり角度を変えたりしてみたが、垂れ目で純朴な田舎の少年が出来上がっただけだったよ、ちくしょう!
あとは、いつものように拠点となる中州中央の岩場に、巨大トカゲの頭骨を乗せた棒を立てて目印とした。
いやー、縄張り拡張計画も順調である。
振り返ると難敵たちとの壮絶な縄張り争いが脳裏を過ぎる。
毒持ちのコアリクイ、止まれない自滅ウサギ、体の小さい投球パンダ、水の上を走れるのに溺れたトカゲ……難敵……なんてき?
ちょっとこの森、コアリクイさんを除いて残念な生き物率高くない⁉
……まあ一番残念だったのは全裸の妖精さんだったけどさ。
後年、赤髪の妖精が振り返り語った言葉がある。
「ミュルキの森で一番残念な生き物?アレしかいないっしょ。頭に帽子被ってポーズなんか決めちゃってさ~、1人でニヤニヤしてるんだよ?あれ見てアタシは思ったね~。あ、この子頭が残念なんだ、てさ」




