「訴訟弁護士と忍法」第五話(終)
▼ 医療訴訟の顛末
本来、裁判が長引くことが予想される事件だった。
患者である夫のレントゲン写真やCTスキャンの結果も含まれているし、これはの見方については、医療に関する専門家たちからも意見が分かれただろう。それは肺がんとして認識されるには十分な大きさではなかったからだ。山本美咲は、その間、どれだけ苦しんでいたか分からないくらい辛い時間を送ることになっていただろう。
最終的に、裁判は美咲の主張を認め、医師たちは患者の死亡に責任を持つことになる。これをきっかけに、微小ながんの早期発見に向けた医療の改善が進むことになる。
しかし、弁護士真田零斗の証人尋問、そして弁護士伊賀慶之介が見つけた証拠により、原告側の勝利は決定的になった。
裁判所は、判決において、担当の山田医師が、原告の夫である大樹に対し、気管支鏡検査を含む精密検査を勧め、それにより確定診断が行われ、その後まもなく外科手術が行われていれば、夫は、少なくとも死亡した時点において、なお生存していたであろうと認められると判断した。そして、間もなく外科手術を受けていれば、平均余命まで延命できた高度の蓋然性があった。
主文「被告は、原告に対し、4200万円及びこれに対する令和3年2月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」裁判長の大石主税 (もんぜい)は、判決を言い渡した。
山本美咲:本当にありがとうございました、真田先生。あなたがいなかったら、こんなにすぐに解決できたかわかりません。
真田零斗:いいえ、こちらこそおめでとうございます。事実が明らかになって、真実が勝利したという感じがしますね。
美咲:はい、本当にそうです。でも、私はまだショックが収まらなくて、これからどうすればいいのかわかりません。
真田:そうですね。今後のことについては、私たちがお手伝いします。必要であれば、いつでも相談に乗りますので、遠慮なくご連絡ください。
美咲:本当にありがとうございます。信頼できる弁護士に出会えて、本当にラッキーでした。
真田:私たちの方こそ、山本さんと出会えて幸せです。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
▼ 訴訟弁護士と忍法
訴訟後、真田と伊賀は、真田零斗法律事務所のオフィスに戻った。本件は勝訴で終わったが、他にもたくさんの事件があり、やることもある。しかし、損害額は一部認められなかったが、ほぼ完全勝利である。病院側が、東京高裁に控訴することもないだろう。
真田:伊賀さん、これもあなたのおかげだり
伊賀:いやいや、私たちの力を合わせてこそ勝てたんだ。でも、勝ったことが嬉しい。
真田:そうだね。でも、これからも気を抜かずに頑張らなきゃいけないな。ところで、今晩、1階のThe Library Barに行くか。
2人は流石に本件での完全勝利を祝いたかった。例によって、1階のバーに行く。時間は、いつもより早く20時からスタートだ。酒も入り、会話も弾む。
伊賀慶之介:忍法というと、倫理的に曖昧な行為が含まれているように思えますが、それでも正義を実現するためには必要なのでしょうか?
真田零斗:確かに、忍法には独自の倫理観が存在しますが、私たちはそれを悪用するわけではない。忍法とは、正義のために戦うための手段であり、その手段を用いて正義を実現することが大切だと考えられる。
伊賀:たしかに、忍法とは、正義を守るための行為であり、その行為が正当なものであれば、倫理的に問題があるとは言えません。しかし、忍法を用いて権利を侵害したり、正義の名の下に悪事を行うことは許されません。
真田:なるほど、忍法も正義のための手段であるという考え方だな。ただし、正義とはどのように定義されるのでしょうか?
伊賀:正義とは、法律や倫理観に照らして、社会的に認められた価値観に基づいて行動することだと考えています。私たちは、法律や倫理観を守りつつ、社会的な正義を実現するために戦っています。
真田:正義とは、弱者や被害者のために立ち上がることであり、不当な支配や強制に立ち向かうことでもある。私たちは、そのような正義を実現するために忍法を用いるのだ。
話は尽きない。倫理についても話が及ぶ。
真田:訴訟弁護士と忍法といえば、倫理についても考慮する必要がありますね。
伊賀:確かに、訴訟弁護士はクライアントの利益を代表するため、どこまで行動できるかについての倫理的な考慮が必要ですね。
真田:忍法においても同様だ。私たちは正義を守るために活動していますが、手段を選ばずに行動してしまうと、かえって損害を与えることになってしまいこねない。
伊賀:そうですね。忍法においても、正しい手段であることが重要です。倫理に反する行為を行ってしまうと、忍法の信頼性が失われてしまいます。
真田:その通りだ。訴訟弁護士もら忍法の使い手も、常に倫理に基づいた行動を心がけることが大切だと思います。
真田零斗法律事務所の強みは、忍法も使いこなせることだろう。それは倫理的な葛藤を生むこともあるが、訴訟弁護士としては活かせる武器にもなりうる。もう時間は深夜2時を過ぎており、2人は酔っ払いながら、忍法と訴訟について楽しげに語っていた。
真田:訴訟って、忍法と似てると思わないか?
伊賀:どういう意味ですか?
真田:訴訟も、戦いだろう。勝つために、相手の弱みを突いたり、情報を探ったりする。
伊賀:確かに、似ているかもしれませんね。
真田:そして、忍者が使う武器は、剣や短刀だけじゃない。あの手この手で、相手を出し抜く。
伊賀:それに比べたら、訴訟はやや地味な戦いだが、確かに共通点がありますね。
真田:弁護士は、法律を武器にする。だから、法律事務所は、忍者屋敷みたいなものだ。
伊賀:うん、それはわかります。でも、やっぱり忍者も、弁護士も、カッコいいよな。
真田:そうだな。でも、忍者も法律事務所も、目的は同じ。勝利するために、最大限の力を発揮する。
伊賀:まったくその通りです。
こうして、勝利の美酒とともに、真田と伊賀の長い1日は終わった。
(「訴訟弁護士と忍法」 終)