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真田零斗と忍法裁判  作者: 本田ジョウ
3/5

「訴訟弁護士と忍法」第三話

▼ 医師の証人尋問


原告山本美咲は、被告医療法人秋吉会に対して、医療過誤を不法行為とする損害賠償請求を求めている。過誤を犯したとされているのは被告法人の医師山田健太郎である。美咲の訴訟代理人弁護士は、もちろん、真田零斗と伊賀慶之介だ。


大石主税(もんぜい)裁判長は、山田医師の宣誓の手続をする。

裁判長:これから宣誓をしていただきます。これからの尋問で嘘をつかないという宣誓です。法廷にいる方はご起立ください。それではどうぞ。

山田医師:宣誓 良心に従い真実を述べ 何事も偽り隠さないことを誓います

裁判長:今宣誓していただいたので、記憶に従い正直にお答えください。宣誓した上で、記憶に反する虚偽の証言をされますと、偽証罪で処罰される可能性がありますので、念のため申し添えます。

山田医師:分かりました


山田医師の証人尋問が始まった。


真田弁護士:あなたは、患者さんの肺がんを見落としたということで、被告医療法人が訴えられています。その件について、当時の診療記録を見直しましたか?

山田医師:はい、見直しました。

真田:結果として見落としていたわけですが、それで、どのような理由で肺がんを見落としたのか、分かりましたか?

医師:当時は、レントゲン写真やCT検査の結果には異常が見られませんでした。そのため、肺がんの疑いはありませんでした。

真田:しかし、後になって別病院の医師による検査で肺がんが発見されたということですよね。なぜ、あなたがそれを見つけられなかったのですか?

医師:その患者さんは、喫煙者であったことや、年齢的にもリスクが高いグループに属していたため、定期的な健康診断を勧め、その結果異常が見られた場合にはさらなる検査を受けるよう指示していました。しかし、その後の健康診断の結果は正常であり、肺がんの疑いはなかったのです。

真田:しかし、健康診断だけでなく、診察や問診でも肺がんの可能性を疑わなかったのですか?

医師:当時は、患者さんには特に異常がないと思われたため、診察や問診については記憶に残っていません。

真田:では、当時の診療に関して、どのような反省点があるのか、お聞かせください。

医師:当時は、肺がんが発見される可能性がある患者さんについて、より綿密な検査を実施するように指示することが必要だったと反省しています。


肺がんを見落としたことは争いがないが、山田医師は、当時見落としたのはやむを得なかったと説明しているのだ。

医療過誤を理由として不法行為に基づく損害賠償をするには、医師の診断が医療水準に反していたことを立証する必要がある。山田医師は、自分の診断が医療水準に照らして、相当だったと述べているのだ。


ここまでの尋問を見る限り、山田医師に分があるように見えた。


美咲: (果たして勝てるのだろうか…)


▼ 逆転


真田:あなたが担当した原告の夫の大樹さんのカルテについても証拠として取り調べています。乙A1号証です。そのカルテには、肺がんの疑いがある旨の記述が一切見られませんでしたし、器質化肺炎と記載があります。しかし、別の医師による検査で肺がんが発見されたということは、あなたも肺がんの可能性を疑っていたのではないですか。

医師:そんなことはありません。肺がんにかかってる可能性は全く認識していませんでした。

真田:もう一度聞きますが、カルテには、肺がんの疑いがある旨の記述が一切見られないですが、あなたは肺がんや肺腫瘍は疑っていなかったということですか?

医師:はい。いずれも疑ってませんでした。

真田:だから、あなたは、肺がんの確定診断を行うための気管支鏡検査を含む精密検査を受けるよう勧めるべき義務を負っていなかったと言いたいのですか。

医師:はい。

真田:後に提出する甲A4号証を示します。

裁判長:どうぞ

真田:乙A1号証にはありませんが、ここには、肺腫瘍疑いと記載されていますよね。

医師:なぜ…。はい。

真田:肺腫瘍(はいしゅよう)疑いと,傷病名を変更して記載しており、夫の大樹さんが肺がんに罹患している可能性を認識していたといえます。医師のあなたは、遅くとも同日以降の各診療日においては、夫に対し、肺がんに罹患している可能性が高いことを説明した上、肺がんの確定診断を行うための気管支鏡検査を含む精密検査を受けるよう勧めるべき義務を負っていたのではないですか。

医師:はい。どうやって、このカルテを…。

真田:被告が提出した乙A1号証のカルテに肺腫瘍疑いの記載がないのは、あなたがカルテを改竄して、これを隠した可能性があるということです。どうコメントしますか?

医師: なぜ……。


カルテは改ざんされていたのだ。山田医師は、夫の肺腫瘍、すなわち肺がんを疑っていたことが明らかになった。医療訴訟では、カルテは病院にある以上、このようなことが明らかになることは珍しい。


凄腕の真田零斗弁護士による尋問で、一発逆転した瞬間であった。



▼ 尋問後


真田と伊賀も、美咲も、証人尋問の手応えを感じていた。


美咲: ありがとうございました。真田先生の尋問お見事でした。しかし、どうやって改ざん前のカルテを入手したのですか?

真田:カルテは通常病院にあります。一般論としては、相手が任意開示したり、民事訴訟法に従った手続で証拠保全したりすることができます。

美咲: 一般論としては…?

真田: そのようなやり方で上手くいくこともありますが、私たちは、そういうやり方はしません。原告である患者側が確実に勝てるようにします。

美咲: それはどういうことでしょうか。

真田: 伊賀が上手くやってくれました。詳細はまあいいじゃないですか。

美咲: 気になりますが、、分かりました。いずれにせよ、ありがとうございます。


原告である患者側がカルテなどの証拠を入手できる手段は限られている。

そして、それこそが、真田と伊賀の忍術を活かせる場面だった。そんなことは、もちろんクライアントに言えるわけはないのだが。



(第四話に続く)

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