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おかわり⑥オウルベアの肉巻き



 その日の夜、夕食をまた共に食べる事に決めたチリとししょー、そしてジャード婦人改めてミレアの三人は、いつにも況して上機嫌である。


 それはきっと、各々の中に埋もれていたり気付きながら背を向けていた本心を、キチンと吐露した結果、より良い状況への変化を得たのだから、当然と言えるだろう。



 「……ねえ、ししょー、何かあったの?」


 いつもと変わらぬ服装に着替え、化粧も落としたチリはししょーに向かって訊ねる。上手く言えないが、身に纏う雰囲気がいつもと違うように感じたのだ。


 ししょーはミレアの顔を窺い、彼女が小さく頷く。その仕草を確認した後、呼吸を整えてからゆっくりと口を開いた。


 「……チリ、落ち着いて聞いて欲しい。まあ、気付いていただろうが……俺は、この世界の住人じゃない」

 「……うん、【星降る野から来たヒト】なんでしょ?」



 「……えっ?」


 

 彼なりに衝撃的な事実を打ち明けたつもりだったが、チリは耳の先をぴくぴくと揺らしながら平然と構えつつ、


 「だって、ししょーの顔見れば判るもん! あんまり顔色変わらないのに、全然悪い事しないんだよ? 普通のヒトなら、そーゆーヒトはみんな悪いヒトなのに、ししょーは全然悪くないし、そーゆーヒトは、砂漠の辺りの【星降る荒野】から来たヒトだって言うもん!」


 一息に捲し立てたチリは、どうだと言わんばかりに胸を反らした。その動きで耳の先の耳飾りが揺れてキラリと輝く。


 「何だ、そんな話があるのか。てっきり驚くかと思ってたのに……いや、ちょっと待て」


 チリの返答にししょーは落胆するが、ふと思い付いて質問する。


 「……それじゃ、その……星降るどうのって奴は俺以外にも居るのか?」

 「うん、私は会った事無いけど……()()()()()()も、噂じゃそうらしいよ」


 チリの返答を聞いたししょーは、意外な人物まで同郷なのかもしれないと知って、複雑な顔になる。


 「……シシオ、今度詳しく話しますよ?」


 と、それまで黙って二人の会話に口を挟まなかったミレアが、肩に触れてししょーを気遣うと、


 「そうだな……じゃあ、風呂に……あ、ミレア、先に行っていいよ」

 「えっ? あ、そうですね……それでは、お先に失礼します」


 二人は譲り合うとミレアが先に二階へと向かって行った。



 ミレアの姿が二階に消えて二人で夕食の準備をしながら漸く経った後、再び階下に降りてきた彼女が顔を見せると、ふと思い出したようにチリがししょーに声を掛けた。


 「ねぇねぇ!! ししょー!!」

 「……なんだ?」

 「ジャードさんの事、ミレアさんって呼ぶようになったんだね!!」

 「……悪いか?」

 「全然悪くないよっ!! ……わ、私もいいかな?」

 「ええ、御遠慮無く!」


 二人の掛け合いにミレアの声が重なると、チリは少しはにかみながら、


 「……ミ、ミレアさん! 今までと同じで宜しくです!!」

 「まあ! 困ったわね……どうしようかしら……?」

 「えぇ!?」

 「ふふっ、冗談です!!」


 そんな二人の会話を聞きながら、ししょーは残ったオウルベアの肉料理を、テーブルの上へと並べていく。


 クマの身体にフクロウの頭、と聞けばさぞや変わった味かと思っていたが、何の事も無いクマ肉である。多少繊維質に寄った赤身肉は、煮込めばホロホロと崩れていくし、脂身の少なさは案外胃もたれしにくいかもしれない。


 今夜はそれを薄く切り、三種類の野菜に巻き付けて粉を振って焼いた。味付けに幾つかの香辛料と甘辛いソースを使っている。


 「うー、この細長いキノコ、ズルッて中身が出て来ちゃうんだけど~」


 切らずにそのままかぶり付いたチリは、文句を言いながらキノコを飲み込んだ。シャキシャキとした歯応えと肉の旨味は良く合うのだが、結局また同じように肉とキノコを別々に食べている。


 「あら、この野菜……いつもは苦味が強いのに、これは気になりませんね」

 「ああ、それはキチンと加熱すれば少しだけ甘味が出るからね。なかなかでしょう」


 ミレアはフォークとナイフで丁寧に切り分けてから、小さく口を開けて噛み締める。サクッとした野菜と肉のほぐれ具合が結構気に入ったようで、再び一口食べた後、嬉しそうに微笑んだ。



 今夜も泊まらずに自宅へ戻るミレアだったが、見送るししょーとチリに、いずれここで暮らすつもりだと打ち明ける。


 「近い内に、お屋敷から荷物を運びます。お住まいが手狭になってしまうかもしれませんが……」

 「いえ、空き部屋は有りますし、元々ミレアさんが所有していたお店なんですから、俺とチリの方が間借り人ですよ?」


 ミレアはししょーの言葉にそれはそうなんですが、と前置きした後、


 「……でも、本当に今までありがとう御座いました。チリさんも、ありがとう……」


 そう丁寧に礼を述べる。そんな彼女にチリがお先にと言わん勢いで抱き付き、


 「ううん! 気にしないで! だって家族みたいなもんでしょ? 私達!!」


 そう言うチリの言葉に、ミレアは少しだけ涙を見せたが、直ぐに手で拭うとししょーに顔を向け、


 「……そうです、シシオさん。あの【魔王の舌】とは一体どんなものなんですか?」


 「……大したもんじゃないさ。ただ、何でも()()()()()ってだけなんだよ」


 その答えを聞いたチリは店の看板を見上げてから、


 「……ししょー? まさか、お店の名前って……」


 もしかしたら、と言いそうになるチリの前で、ししょーはいつもの癖で、頬を指先で掻きながら呟いた。


 「……いや、ただ何となく決めたんだが、頭の何処かでその事を、覚えていたのかも知れないな」





 

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