1 わたし(庶民育ち)とわたし(貴族の血縁)
オグウェルト様は、ある意味、わたしの保護者のような存在だった。とは言っても彼に育てられた訳ではない。幼少期に両親を亡くしたわたしは、16まで孤児院で育った。後ろ盾のない、一般庶民として。
しかし、16歳の誕生日を過ぎてすぐに、国の役人がわたしを保護しに来て、わたしはオグウェルト様の屋敷で生活をすることになった。
何がなにやら最初は分からなかったが、要点をまとめるとどうやらこういうことだ。
わたしの母親はかなり力のある貴族の家の娘だった。オグウェルト様の家よりはやや劣るが、それに次ぐくらいの。
ただ、母は許されぬ恋の末に芸術家崩れの男と駆け落ちし、若いうちに行方不明になった。そのために一人っ子であった母の生家であるボワソンには跡取りが不在となった。
跡取りを定められないままボワソン家の主は歳をとり、密かに生まれたわたしが16歳の時に亡くなった。
ボワソン家当主は居なくなった。跡取りもいない。そうなれば、ボワソン家の財産は国が回収することとなる。周辺貴族たちは、ボワソン領土やボワソン家の富が分配されることをかなり期待していたという。
しかし実はボワソン当主は死の間際、その権力は孫娘に残すと告げたのだそうだ。
つまり、わたしの祖父は、わたしにボワソン家の全てを遺すと遺言を残したと言うのだ。
それまでわたしは自分の血縁者がいるなんて思ったこともなかった。孤児院へわたしを求めて来る人はいなかったし、幼い頃に家族を探そうとしてみた時も全く何も手がかりはなかった。
しかし、どうやら祖父は死の間際にしてわたしの存在を見つけたらしかった。突然国の役人が孤児院へ来てそう説明した時に、「権力に物を言わせると言うのはすごいことだな」と現実味なく感心したのを覚えている。
一目見たことすらない孫娘によくそんな権力を残そうとしたものだと呆れるが、どうやら私の知らない貴族社会のしがらみは大きいようだった。
国や他の貴族に回収されるよりは、血縁者に遺した方が良いと思ったのかもしれない。わたしがどんな人間かも分からないのに無謀なことこの上ないが。それほどまでに血を大切にするのかと。貴族様の考えることはわからず、ため息が出た。
そして役人がわたしを連れてきたのが、このオグウェルト・ウームウェルの屋敷だった。気がついた時には一般庶民あがりの貴族の跡取りであるわたしを、オグウェルト様が後見人となって保護しているということになっていた。
どうしてオグウェルト様が?というのは、未だにわたしは知らずにいる。
庶民的な感覚しかないわたしには理解できない事が多すぎて考えることすら放棄している部分もあるが、ざっくり言えばこういう流れで、今わたしはオグウェルト様の屋敷で暮らしている。
もうそんな生活も、3年になっていた。
わたしは19歳になり、貴族社会で言えばやや結婚適齢期を過ぎそうになっているところだった。
一般庶民は恋愛結婚が普通だし、10代での結婚もないことはなかったが、多くの人達は20代で考えること。
しかし、貴族社会では政略結婚は未だ当たり前のようだし、その為には幼い頃から婚約者がいる場合も多いのだそうだ。
生きる世界が変わって3年、色々なカルチャーショックを受けてきたわたしだけれど、今回の「わたしの結婚」が今までで1番の衝撃であることに間違いはなかった。




