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51、プロポーズ

「おかしいな? パーティーは今日のはずなのに、誰も来ていないじゃない」


 あおいはアレックスの手紙に書いてあった日時の通り、王宮を訪ねた。

 アレックスから貰った、桜色のドレスを身にまとった姿で王宮の門に立っていた兵に尋ねた。

「あの、今日アレックス様からパーティーの招待状をいただいたのですが」

「あおい様、お久しぶりですね。お話はアレックス様から伺っております」

 丁度、兵に声をかけたタイミングで城からメイド長が現れた。

「こちらへどうぞ」

「はい」


 あおいは緊張しながらメイド長の後に付いていった。

「アレックス様、パーティーと言っていたけれど、一体どういうことかしら?」

「こちらです」

 あおいは応接室に通された。


「こんにちは、あおい」

「クレイグ様? それにメアリー様も!?」

 あおいは、部屋の一番奥の椅子に腰掛けているアレックスに声をかけた。

「アレックス様、今日は一体どうしたのですか?」


「あおい、今日はよくきてくださいました。何も言わず、これを受け取って下さいませんか?」

 アレックスはそう言って立ち上がると、あおいのそばに歩み寄り、その手を取った。

「アレックス様?」

 アレックスは優しく微笑むと、あおいの左手の薬指にピンクダイヤの輝く指輪をはめた。「え!? これって……」


 あおいがとまどっていると、アレックスは言った。

「あおい、いつも一緒にいて下さってありがとうございます。私と婚約してください」

「え! 婚約!?」

 あおいはアレックスからの突然の申し出に、息が止まりそうになった。


「あおい、断って良いのよ。本当の婚約者は私なんですから」

 メアリーが赤い目をして、あおいを睨んでいる。

「あおい、そろそろ立場をはっきりさせても良いのではないですか? 断るのも自由ですが」

 クレイグが言う。


「あおいと出会ってから、楽しいことが沢山増えました。一緒にいると元気が出るのです」

 アレックスは真面目な顔で言っている。

「今日のパーティーというのは……」

 あおいはアレックスを見つめて問いかけた。

「あおいと私の婚約パーティーです。ごく身内の」


「アレックス様、急すぎます!!」

 あおいはクラクラしながら、指にはめられて輝く指輪を見つめた。

「あおいは私のことが嫌いですか?」

「そういうことじゃなくて、急に言われても……困ります」

 あおいは答えながら、涙をこぼした。


「急に異世界に呼ばれて、追い出されて、何とか生活できるようになったところで、こんなことって」

「あおいの錬金術のことは、もう城でも認められています。これからは私にあおいを守らせて下さい」

 アレックスは優しく笑いながら、あおいの涙を拭って頬にキスをした。


「でも私、これからもクレープ屋さん続けたいし、錬金術も学びたいです」

「そうですね。あおいの仕事は続けられるように手配します」

「アレックス様! いくら王子でも、その妻が町に自由に出入りするというのは難しいかと思います」

 クレイグがたしなめると、アレックスは首を振った。


「あおいが、自分らしく生活できるように私は最善を尽くすつもりです」

「アレックス様……」

「あおい、貴方のことが好きなんです。これからもずっと一緒にいて下さい」

 あおいはちょっとためらった後、覚悟を決めるように頷いた。

「……はい、アレックス様」


「まだ婚約だからね! 結婚したわけじゃないですからね!」

 メアリーは泣きながら、クレイグの背後に隠れた。

「あおい、それでは王宮に来てくれますか?」

「……分かりました。でも、私のことを良く思っていない人も多いのでは無いですか?」


 あおいは王宮を追い出された日のことを思い出していた。

「私が、あおいに嫌な思いをさせないと誓います」

「アレックス様……。それでは婚約の件、承ります。これからもよろしくお願いします」


 あおいはアレックスを信じて王宮に入ることにした。


最後までお付き合いありがとうございました。




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