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12、バタークリームクレープ

「さてと、今日は市場に出かけようかな」

 あおいは新商品のバタークリームクレープと、いつもの生クリーム、チョコレートそれぞれのクレープを大きなかごに入れた。


 市場に着くと、店を開いた。といっても、値札をかごに貼り付けて、立ちながら大きな声でお客さんを呼んだだけだったが。

「こんにちは、クレープいかがですか?」

 あおいのクレープは市場の人気商品になっていた。あっというまに長蛇の列ができてしまう。あおいはクレープ一つと50シルバーを交換する作業に追われた。

 

「新商品を一つ下さい」

「ありがとうございます。って、アレックス様!? わざわざこの行列に並んだんですか?」

「ええ。今日はあおいの新作クレープが食べられると聞いてやって来ました」

 アレックスは嬉しそうに笑みを浮かべている。

「お忙しいんじゃないですか? 家に来ればいつでも作りますよ」

 あおいはアレックスから50シルバーを受け取り、バタークリームのクレープを渡した。


「ありがとう、あおい。一刻も早く食べてみたくてね。いただきます」

「はい、どうぞ」

 アレックスは列の脇に外れたところで、買ったばかりのクレープを頬張った。

「これは濃厚ですね。口の中でクリームがとろけます」

「お口に合いましたか?」

「はい」


「良かった!!」

 あおいはアレックスの顔を見て笑った。

「バタークリームがついてますよ」

「どこですか?」


「ここです」

 あおいが人差し指でアレックスの頬を撫でクリームを拭うと、その指をアレックスが舐めてしまった。

「わあっ」

 あおいは真っ赤になり、座り込みそうになった。

「ふふっ。驚きましたか?」

 アレックスはいたずらっぽく微笑んでいる。

「アレックス様、セクハラですよ!?」


 あおいは腰が砕けてしまいそうになりながらも必死になって立っていた。

「それは失礼しました。美味しかったですよ、あおい」

 アレックスは笑いをこらえながら、立ち去っていった。

「まったく。アレックス様はいつも私をからかうんだから」

 あおいがアレックスの小さくなっていく背中を見つめていると、お客さんから声がかかった。


「いちゃついてないで、クレープ売ってくれよ!」

「いちゃついてなんていません!!」


 あおいは焦りながら、またクレープを売り始めた。


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