職員室
「おはようございます。お嬢様、今日から登校されるんですね」
「これがいらなくなるまで、かなりかかるけどそれまでお願いね」
わたしに声をかけてきたのは執事長である花岡清一さんの娘、奈々だ。
彼女には先月くらいから私の付き人として動いてもらっている。今日から通う学院へは、花岡さんは入れないために無理を言って奈々と一緒に通えるようにしたのだ。
「さてお嬢様」
「もう、前から言ってるけど、お嬢様じゃなくて、あかねって呼んでほしい」
「はいはい、とりあえず車きましたし、行きましょうか」
奈々はもう何回も一緒に遊びに行ったりしていて、その時にずっとついていてもらったから、車いすの扱いにはこなれている。
車の後部座席まで私は一人で行き、そこから乗り込むのは奈々が手伝ってくれる。これが私と奈々の間で決まった暗黙のルールだ。
「それでは動かしますよ」
今日の運転手は花岡さんだったようで、渋い感じの声が聞こえてくる。
「お願いします」
今日から通う学院は、共学だが、女性の比率が多いということで有名な所だ。
私の自宅からだと車で小一時間もあるようで、手続きのために一度足を運んだ時はものすごい疲れた記憶がある。
ふと、視線を感じる。横を見てみると奈々がこちらを見ていた。
「……何?」
「いえ、なんでもありません」
「お嬢様、そろそろ到着します。終業時間の前には待機しておりますので、帰るときはお声がけください」
「ありがとう花岡さん」
車は学院の昇降口近くにあるスペースに止まり、花岡さんが丁寧に降ろしてくれた。
奈々は私の荷物と自分の荷物を一緒に持ちその後すぐに私のそばまで来た。
「それではお嬢様、私めは一度戻ります。奈々失礼のないようにな」
「お父さん。いつも言ってるけど、それはないから」
「ふふ、花岡さん。奈々はいつも頑張ってくれてますよ。また帰りにお願いしますね」
「はい。一度失礼いたします」
「それじゃあ、一度職員室に向かわないとね。奈々お願いするわ」
「ええ、行きましょうか」
私と奈々は職員室へ向かい始める。その道中では様々な視線が私たちに突き刺さる。興味関心、驚愕など本当に様々だ。
っと、職員室についたようだ。
「失礼します。今日からこの学園に通わせていただく白藤あかねです」
「同じく花岡奈々です」
奈々がドアを開け、二人で名乗り出ると四十手前ほどの女性の先生がやってきた。
「あなたたちが今日から通う子ね。クラスのこととかを説明するからこっちへいらっしゃい」
そう言って女性の先生は奥の会議室らしきところへ入っていく。
私たちもそれについていき、中へと入る。
職員室の中は清廉な雰囲気が漂っており、いわゆるお嬢様学校のようなものをどことなく感じる。
しばらくここで待っていてと言われなぜか先生は離れていった。
「ねぇ、奈々。あの人が担任じゃないのかな?どうだと思う?」
「副担任を連れてくるとかですかね?」
という感じに、二人で呻きながら考えているとドアをノックする音が聞こえる。
「はい、どうぞ」
ドアが開き先ほどの女性の先生が入ってきた、その後ろに二十代ほどの若い女性の先生と、がっちりとした体形の男性の先生が入ってきた。
「ご紹介しますね。まず私がこの学院の理事長をやっております。西園寺夕夏と申します。こちらが東雲恵那、そして斎藤健吾です」
「はじめまして、あなたの担任となります東雲恵那です。これからよろしくね?」
「僕は斎藤健吾だ。君たちの副担任で、見た目通り保健体育を担当しているよ」
「よろしくお願いいたします」
「それではこの学院の説明に移るわね。まずこの学院の成り立ちは……」
あれこの話は事前に来た時に校長に聞かされたような……
まぁ、あんまり授業に出たいとは思ってないから、ありがたい気はする。
「でね、斎藤先生ったら、校長の前で酔いつぶれちゃって、ものすごく介抱するのが大変だったのに、翌日になるとけろっと出てきたかと思ったら生徒の授業中に吐いてさらに大変だったのよ」
あれなんか愚痴聞かされてない?私たち。さっきはありがたいと思ったのに、なんかものすごく面倒くさいことになってるんですけど……
「あかねさん。面倒くさいとか思わなかった?」
この理事長やけに勘が鋭い。
「いえいえ、そろそろ教室に向かわないと、授業が受けれない気がして……」
と室内にあった時計を見ると、午後四時を表示している。
「……ごめんなさい」と、西園寺先生が謝る。そりゃそうだ、本来なら一通り終わった段階で教室に案内すべきなのに、それを放置って。
あれ、そういや東雲先生や、斉藤先生がいない。まさか見捨てて逃げたんじゃなかろうか?
「西園寺先生、終わりましたか?」
ちょうど、東雲先生がやってきた。
「ごめんね、この人家でも話長くてさあ、まぁ明日からそのクラスに直接来てくれればいいわ。本当にごめんなさいね」
……もう、早く帰りたい。
そこからはしっかりと開放してもらい、帰宅のために、花岡さんに連絡を取るのだった。
「お嬢様。帰宅するまで寝てて大丈夫ですよ。奈々もいいぞ」
その言葉を聞いた瞬間私たちは操り人形の意図が切られたかのように車内に、まあ私は車いすの背中にだが、倒れこみそのまま深い眠りへと落ちていくのだった。




