(2)来弥――力の誇示
オークの村に辿り着いた一行は、コーラルを先頭にして、村の様子を窺っていた。
来弥はグレイシーの傍で待機をしており、暗闇の中、昂る気持ちでいっぱいだった。
「よし、こちらに気付いていないな。家屋に火を放て!」
コーラルの合図で、捕獲班の人間が火の矢を降らせた。木造の家屋は矢が刺さると、そこから次第に燃え広がり始める。家屋の外にある藁や薪など燃えやすいものも炎上した。
辺りは一気に明るく燃え盛る。火が回ったせいで、家屋の中にいたオークたちが何事かとぞろぞろ外に出てきた。それを見たコーラルが叫ぶ。
「攻撃班、全員突撃開始!」
おおー! と、声を上げ鼓舞した死神軍たちはオークたちに向かって走り出す。グレイシーが、
「ライヤ、行くわよ!」
「ああ!」
言って、グレイシーのあとに続き、村の中へと駆け出した。オークの若い男が、
「人間ガキタ! 返リ討チニシロ!」
オーク兵と思われる男たちは斧を携え、死神軍と応戦する。コーラルは、真っ先に若いオークに向かい、剣を振るう。そのオーク兵は大きな斧を自分の背丈よりも随分小さいコーラルに向け振り下ろす。が、コーラルは身体を羽のように軽く浮かせ、ひらりと攻撃を躱した。回転するように身体を捻ると、その勢いで剣をオークの身体の上からズシャリと振り下ろした。
「グアアアアア!」
オーク兵の断末魔が炎の舞う中、響く。コーラルは更に足早に地を駆けると、次々にオーク兵を薙ぎ払っていく。
グレイシーも、オーク兵と対峙し、自身の剣を扇子でも扇ぐかのように素早く、そして踊るように身体を裂いていく。
来弥はそれを見て、剣を握ると、ひとりのオーク兵に目を付けた。
「死ねえ!」
叫び、オーク兵に剣を翳した。が、そのオーク兵は、来弥よりも早く斧を振り下ろした。
「なっ!」
ドスンと、目の前で斧が地に刺さった。はらりと前髪が切れる。それから頬に痛みが走った。来弥の頬が切れるほど近くで斧が振り下ろされたのだ。危うくあと一歩踏み込んでいたら、命は無かっただろう。
来弥はどさり、と尻もちを着いた。
「な、な、な……」
来弥は身体が硬直し、動けない。恐怖で身体が縛られ、目の前に立ち塞がるオーク兵は斧を地面から抜くと、めり込んだ地面は抉れていて、来弥は声にならない声を上げるしかなかった。オーク兵は再度斧を振り上げる。
「い、嫌だああああっ!」
来弥はなんとか身体を動かし、オーク兵に背を向けた。とにかく走れ、そう言い聞かすと、炎の燃え上がっている家屋の方へと逃げた。オーク兵は図体が大きい分、来弥よりも足が遅いようで、来弥はなんとか隠れる場所を探すため、何度も後ろを振り返りながら逃げ続けた。
「はあっ、はあっ、はあっ。き、聞いてねえ、こんなの聞いてねえよ! 無理だ、死ぬ。死んでしまう!」
燃え盛る家屋の隅に来弥は身を隠すと、コーラルやグレイシーがあんなにも簡単にオーク兵を倒していたのは嘘のような感覚に陥った。震える足を懸命に堪えようとするも、出来ない。
「くそ! 死にたくないぞ……」
遠くからオーク兵と思しき絶叫が響く。来弥は辺りを見渡しながら、逃げ切れることばかり考えていた。
その時だった。来弥の方へと同じく逃げて来たと思われるオークの女と子どもが来た。オークの女は男よりも小さく、筋肉質ではあるが、人間の男くらいの風体だった。来弥ははっとして剣を構えた。
「コドモニハ手ヲ出セナイデ」
オークの女は子どもを後ろに隠すと、張り詰めた顔をして来弥に言う。オークの女は武器を所持していなかった。来弥はそれを見て、
「……助けて欲しいっていうのか?」
静かに言うと、オークの女は何度も頷いた。来弥はそれを見て、ごくりと唾を飲み込み、乾いた唇を舐めた。
「ふ、ふ……。は、あははははは! 誰が助けるかよ!」
言うと、来弥は立ち上がり、剣を構えたままオークの女に突進した。至近距離まで詰めると、来弥は剣を薙ぎ払う。筋肉質な身体の中心が裂ける。まるで硬いステーキにナイフを入れるように。
「ギャアアアアア!」
オークの女が血飛沫を上げて、その場に倒れ込む。後ろにいた子どもは怯え、その場で動けずに泣いている。来弥は倒れた女を一瞥すると、にやりと口角を上げ、
「お前もあの世に行け」
言って、容赦なく、その剣は振り下ろされた。母親の身体と重なるようにして子どもが落ちた。
「ふは。ふはは! 俺はやれる。やれるぞっ!」
高笑いを空に向けてすると、来弥はさっきオーク兵がいた方へと駆け出した。笑いが収まらない来弥は、戦線へと戻る。すると、さっきとは違うオーク兵を見つけた。辺りは血の海と化し、残ったオーク兵は逃げ惑うように混乱に陥っている。
「木偶の坊、殺す!」
叫ぶと、オーク兵は来弥が向かってくるのに気づき、咄嗟に斧を構える。が、来弥はさっきの殺しのお陰か、身体に血が早く巡る気がして身体が軽い。足を一歩ずらしてステップを踏むようにして間合いを変えると、オーク兵の身体の横から剣を突き立てた。
「グハッ!」
オーク兵は、横腹に剣を突き立てたられ、その場で蹲った。斧を落とし、喀血しながらもがく。来弥は剣を引き抜くと、
「俺は勝つ!」
言って、思い切りオーク兵の身体を裂いた。来弥は雄叫びを上げ、次の獲物を探しに走った。
村は焼け、捕虜になったオーク兵を捕獲班が縄に付かせたときには、来弥は三人のオークを殺していた。
コーラルが、
「よし。これでこちらの兵になりそうなオークは捕まえられたな。城へ帰るぞ」
コーラルの声で、オーク兵を引き連れ、城へと戻って行く。コーラルは傷ひとつない。戦闘で死んでしまった死神軍の仲間も幾人かいたが、来弥は未だ高揚感に満ちていた。
そんな来弥を見て、グレイシーが、
「流石ね。オーク兵にも貴方は臆さず戦って笑ってられるなんてね。私の目に狂いはなかったわ」
「ああ、最高の気分だぜ」
言って、来弥は剣を鞘にしまうと、軽い足取りでコーラルたちに続いた。グレイシーは嬉しそうにそれを見ていた。




