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お手合わせ

話変わって……


コン、コン、カーン! と小気味よく木剣が打ち鳴らす音が響く。

だが今は俺じゃない。エッザールとフィンだ。あいつ直々にフィンに指導してやるだなんて言い出したもんだから、もう陽が昇る前からずっと家の裏庭で戦っている。


「もう少し踏み込んだ方がいいですよ。フィン君は未だに近づきすぎることを怖がっているようですね」

しかも結構教え方もうまい。いつも酒飲んで寝てる誰かさんとは大違いだ。


でもって俺は……といえば、ひざの上にチビを乗せて二人を観戦中。まだこの時間にチビを起こすのは無理だったみたいだ。ずっと寝息を立てている。

「ラッシュさん、一度手合わせしたいのですが、よろしいでしょうか」

って、今度は俺の番かよ! よく見たらフィンは疲れて伸びちまってるし。仕方ないか……

「いいのかよ? 俺は手加減あんまりできない方だぞ」

「それでも構いません。私もその気で」

木剣じゃ脆すぎるから、俺は側にあった船のオールを手に。ならばやってみるか!


とは言ったものの、エッザールにはかすりもしない。当たらなければ斧なんて怖くはないですって生意気なこと言いやがるし。俺も妙に腹が立ったし。


「そういえばラッシュさん、なぜお誘いを断ったのですか?」

合間合間にやつは言葉をはさんでくる。そうだ、昨日来たリオネング城の使いだ。

この前の人獣掃討の褒章として、やっぱり金は無理だけれども、俺たちに名前を授けてくれるという王からの提案。


俺もエッザールも丁寧に断った。まあ確かにこいつはめちゃくちゃ長い名前を持っているしな、これ以上増えたところでそれほど意味はないだろう。


で、俺はというと。

「俺はこの先もずっとラッシュだけでいい。苗字が増えたところで強くなりもしないし、メシが美味くなるわけでもないしな」


実はそれ以外にも理由は二つほどある。一つは俺が城に行くとロクなことがないということ。

そう、また城の中で気持ち悪い怪物が出てきて暴れたりとかしたらたまったもんじゃねえ。だからどうも気が引けちまう。


そして……彼女、ネネルの存在だ。

あいつはリオネングの姫でありながら、実はマシャンヴァルから逃げ出してきて、あまつさえ病気で余命いくばくもないエセリア姫の身体を『食った』って話だし。


おまけにあいつは俺のことを好いているようだし。余計困った。

困ったというか……俺は一体どうしたらいいのか。彼女のことを思うたびに頭が痛くなってしまう。


ちなみにイーグは行くという話だ。あいつパン屋だしな。その屋号に苗字が付いたら集客力アップすること間違いなしだし、それに王室御用達への足掛かりになるかもしれないしな。って喜んでいたそうだ。


「実にあなたらしい答え方です、豪傑に余分なものは必要ない」俺の一撃をはじき返しつつ、エッザールが答えた。

「だけど私にはもう一つ……その、あまりこういうところじゃ言いづらいのですがね、理由が」

剣を下げ、あいつはささやくように俺に話してくれた。


「あの騎士団の……マティエですか。彼女の存在が非常に不愉快だったのです。だからあまりお城には行きたくなかったのです」

エッザールは続けた。彼女は女性でありながら、さらには我々と同胞の獣人。そして騎士という高貴な身分でありながら……

「礼節というものを全く欠いています。同胞にしてあれほど腹立たしい人は生まれて初めて見ました」


俺もついつい「わかる」と答えてしまった。そもそも出会いからして殺されかけたんだし。それに加えてひどい酒乱だし。とどめに……あの、人を寄せ付けない傲慢不遜な態度といい……やっぱり同意しかない。


「ところで……ラッシュさん。なんか太刀筋に迷いがあるんですが、やはり先日の一件で悩んでおられるのですか?」

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