第一話
「ねえ、武志と松志は?・・・え?お父さん?お母さん?どういうこと?頑張ってねってどういうことなの!?!?ねえ!!!」
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朝の日差しが窓越しに俺の顔に柔らかく当たる。
「ん・・・。」
俺は眠くて起きる気にならなかった
「カメの兄貴~、もう朝ですよ。仕事行かなくていいんですか・・・?」
「あぁ、もう朝か・・・仕事・・・行かないとな・・・ありがとね・・・カズ。」
「うぃーっす。」
なんか嫌な夢を見た気がしたが、いつも通りの朝を迎える。普通のマンションの一室で転がり込んできた16歳の少年「和希」と二人暮らしだ。まあわけあってうちで面倒を見てる。
「ほら、朝ご飯用意してますよ、急いで食べて仕事頑張ってください。」
カズの用意してくれたトーストとコーヒーを口に入れる。
「ありがとねカズ、今日の夕飯は俺が腕を振るってやるからな。」
「・・・ありがと、カメの兄貴。でも、いいの?」
カズは申し訳なさそうな顔をしていた。
「・・・ん?なにが?」
「いや、僕のせいでカメの兄貴は本来の音楽活動の時間がほぼなくなって仕事詰めの日ばっかりで・・・。」
「なに言ってるんだよ、子供なんだから気にするな!元気出せよカズ!」
「・・・うん、じゃあこうしよう?今日は僕が簡単な夕飯作っとくから駅前に路上ライブしに行こう?」
「でもカズは楽器できるのか?」
「・・・できないけど、兄貴の活動してるSNSのIDとか書いて宣伝するよ!!俺も兄貴の歌が聞きたいんだよ!!・・・ダメ・・・かな・・・?」
・・・まさかカズが俺の音楽活動を心配してくれてるとは思わなかった。
「・・・今日の夕飯、楽しみにしとくね。カズ。」
カズの表情がパァっと明るくなった。
「仕事頑張ってね!!俺も料理頑張るから!!行ってらっしゃい!!」
「おう!行ってきます!!」
俺は仕事に向かう。
俺の仕事は雑誌の編集者だ。・・・と、言っても漫画の編集者とかゴシップとかではなく今、旬の芸能人を特集するような時事モノの雑誌である。
今日は人気芸人「ナスのMATSUSHI」の独占インタビューである。気を引き締めていかないと。
ナスのMATSUSHIとは今をときめく旬の芸人で、だっぴょーんが語尾でいつもナスの被り物をしている。しかしその素顔を見た者は誰もいない。
質問のネタは考えてある。ただ一つ個人的に気になるのは、生き別れた弟と同じ名前、ということだが芸名かもしれない。
・・・まあそんな可能性あるわけないか、と自分に言い聞かせながら質問内容の最終確認をしていた・・・。
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「おはようございます。」
「お!亀崎!今日は頼むぞ!!」
「亀崎さん頑張ってください!!」
さすが今をときめくお笑いピン芸人、会社の人たちの熱の入りようが違う。それだけ俺にプレッシャーがかかる。
「亀崎さん・・・ちょっと。」
後輩の愛川さんに呼ばれた、確か今日チームでMATSUSHIを特集する人だ。
オフィスの廊下に出た。
「ん?それで、どうしたの?」
愛川さんはもじもじしながらこう言った。
「あの・・・今日仕事終わった後、お時間ありますか?」
「ごめん、今日は予定が入ってて時間ないかも、別日に時間合わせようか?」
「・・・っ!いえっ!!だっ!大丈夫ですっ!!!すみませんお手数をおかけして!!!」
「あ、そう?またなんかあったら言ってね?」
「はい!今日の昼からのインタビュー頑張りましょうね!!!」
「うん、頑張ろうねー。」
そう言うと愛川さんは職場に戻った。
「さて、俺も職場に戻るか・・・。」
そう言いながら、俺も職場に戻った。