プロローグ
連載中の作品が終わる前に新しいものができました。どうぞ、御ゆるりと・・・・。
―初夏。
地面に無駄なく敷き詰められたアスファルトを容赦のない太陽光線が一直線に走っている。水気を失ったアスファルトはもうこれ以上乾かせるものもないのか、ガス漏れのサインの様に、鼻や喉もとにツンとくるあの特有の臭いを縦横無尽に発している。古くなって割れだしたその隙間にも、からからに乾いたアスファルトの欠片や砂が無造作に入り混じっているだけだ。人工の造物がずらりと敷き詰められた先に何かが少しだけ浮き出ているのが観てとれた。
ちりちりと乾いた音と出して、焼いた鉄板の様なマンホールに視線がはしる。
「オスイ」と書かれていた。おそらく、下水道のパイプに直接繋がってるものだろう。それ自体の大きさも中ほどである。だが、汚水の異臭は漂ってこないことなら、このマンホールはしっかりと管理されているのだろう。まさにその通りだった。私がよく目を凝らせば、そこには「Tケン」細かく刻印が打ってあったからだ。健が管轄としているのは当たり前だと、私はその時になってそう思った。
視線は再び下から上に変わりを見せる。
白くて丸くぼやけた眩しい太陽が、私に大きく顔を見せているように見えた。
太陽の周りに、遮る者などいない。私と太陽と通る一本線にさえ、何の障害物も見当たらないからだ。雲も屋根も、日傘さえも。もっとも、私は日傘をさすような上品な感情など持ってはいないのは確かなのだが・・・。
近くに公園でもあるのだろうか。蝉の声がひときわ大きく泣きわめいていた。夏に蝉。この二つの組み合わせはいつの間にか常識になっている。静かな夏が来たとき、人はどうするのだろうかと、私は無駄な思考を頭の中でひとしきり描き、今の仕事に戻ることにした。尻ポケットに入っているハンカチを取り出し、額の無数に浮き出た汗をさっとふき取る。これで五枚目だ。私は仕方がないような表情で汗でべとべとになったハンカチを無造作に元の場所にしまいながら思った。この夏季に入る2週間前から私は異様な汗をかき始めるといったみょうちくりんな病気を持っていた。いや、病気と断定するのはまだ早すぎるかと思うが、私はそうとらえていた方が楽だった。なぜならば、私は病院と言う者が大っきらいであるからだ。その一つの理由としては簡単に人に話せることじゃない。だが、もう一つは答えることは出来る。それは普段の生活からかけ離れた病気やけがに対し接する機会が病院だけにとどまっているからだ。
これは私の勝手な思い込みかもしれない。だがそれであっても私は病院と言う存在は嫌で仕方がない。その為、今までまともな診断や治療を受けずとも、この齢30になっても私は健康体のままでいられている。それはそれだけで十分良かったとも思っている。そしてそもそも病院の話をしているところから、私は仕事の事をすっかり忘れていたことに気づいた。すぐに我にかえれば、同職種の人間が大掛かりなカメラやレコーダー。さらにその手に持つのは鉛筆にボロボロになったメモ帳。もちろん私もメモ帳はしっかりと持っていた。さっそうと取り出し、その群集の中に割り込むことにする。
私、南咲洋平は近都産業新聞会社の普通の新聞記者である。
決まった文字数でないので1万文字投稿から3000文字付近の投稿に換えようかと思っています。