表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

4月14日

作者: 葵生りん



「ああ、あんたなんか生まなければよかった!」


 うん、生まれなきゃよかった。

 生きていくのってツラいだけだもの。


「なんで4月14日だったのよ! 予定日はもっと先だったのに。4.14――始終死にたい――なんて、見透かしたみたいに!!」


 少女は背中に残る痣を押さえるようにランドセルを背負い、「行ってきます」と小さな声で呟いて家を出る。




「ああ、あなたが生まれてくれて、本当によかった!」


 うん、生まれてよかった。

 生きるってとてもステキなことだもの。


「なぜ4月14日だったかしら? 予定日はもっと先だったのに。4.14――始終幸せ――なんて、神様が見透かしたみたいね」


 少女は背中に残る温もりを逃がさないようにランドセルを背負い、「行ってきます」と元気声で家を出る。






 おかあさん、今日、嫌なことがあったのよ。

 先生がね、「さあ今日は、お誕生日列車を作りましょう」って。

 おかあさんはお誕生日列車、知ってる? 列車の形の紙に自分の名前と誕生日を書いて、誕生日順に壁に貼っていくの。

 そしたらね、私と同じ誕生日の子がいたの。

 それでね、その子が言うの。

 4月14日は『始終幸せなすっごくいい日だ』って。

 だから私、教えてあげたの。

 4月14日は『始終死にたい、すっごく嫌な日だ』って。




 おかあさん、今日、嫌なことがあったのよ。

 先生がね、「さあ今日は、お誕生日列車を作りましょう」って。

 おかあさんはお誕生日列車、知ってる? 列車の形の紙に自分の名前と誕生日を書いて、誕生日順に壁に貼っていくのよ。

 そしたらね、私と同じ誕生日の子がいたの。

 それでね、私は4月14日は『始終幸せなすっごくいい日だ』って言ったの。

 そしたらその子、怒るのよ。

 4月14日は『始終死にたい、すっごく嫌な日だ』って。






 ねぇ、おかあさん。どうしてかしら?

 誕生日はおんなじなのに、あの子はいっつも幸せそうに笑ってるの。

 どうしてかしら。

 4月14日は『始終死にたい、すっごく嫌な日』なのに。

 ……おかあさん、どうしたの?

 どうして泣いているの?




 ねぇ、おかあさん。どうしてかしら?

 誕生日はおんなじなのに、あの子はいっつもうつむいてつまらなさそうなの。

 どうしてかしら。

 4月14日は『始終幸せな、すっごくいい日』なのに。

 ……おかあさん、どうしたの?

 どうして泣いているの?






「誕生日、おめでとう」

「おめでとう!」


 4月14日、先生の掛け声で一斉に教室は祝福の声に包まれた。

 6年前のその日に生まれたふたりの少女へ向けて。


「ほらね、4月14日は『始終幸せな、すっごくいい日』でしょう?」


 俯いていた少女の手を取るのは、幸せそうに笑うもうひとりの少女。


「うん。始終幸せではないけど、始終死にたいわけじゃないかも」


 ぽつりと呟いた少女は、ほんの少しだけ笑っていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] なにもわざわざ、自分の誕生日で嫌な語呂を作ること ないですよね~。そうそう、4は幸せのしですよね! ドレミの歌でも「シはしあわせよ~」って歌っていますもの。 だけど子どもは、素直に親の言…
[良い点] ちょっと悲しくて、ちょっとほっこりしました。 捉え方でこうも違うものでしょうか。 でも、幸せな子から、幸せをもらって、少しずつでも前を歩いていって欲しいと思いました。
[良い点] 拝読しました。 「4」という数字は、私にとっては、「死」というイメージがまとわりついて来て、何かモノを買うときにも、料理を作る時にもわざと一つ減らしたり逆に一つ増やしたりして4にならない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ