第7話 ドレス
「こちらへどうぞ。聖女様」
サマンサが豪華な部屋に花音を案内する。
想像通りのお城の一室だ。ネットの画像かなんかでみたヴェルサイユ宮殿の一室を思い出す。
花音は嘆息しながら煌びやかな高い天井を見上げる。
「さ、どうぞ。お入りください、聖女様」
サマンサに再度呼ばれて、花音はハッとして部屋の中へ進み、恐る恐るサマンサに話し掛ける。
「あ、あの……。自己紹介が遅れてしまいましたけど、私の名前は花音と……言います」
さすがにこのまま【聖女様】なんて呼ばれ続けていたら、さすがに恥ずかしい……と花音は考え、とりあえずサマンサに名前を伝えることにしたのだ。
「まあ! ご丁寧にありがとうございます。ではカノン様、とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「はい……。それでお願いします……」
花音が小さくそう答えると、サマンサはニッコリ笑って
「わかりましたわ。カノン様」
と答えた。そしてすぐに部屋の中のもう一つの扉を開く。
カノンは開けられた扉の中を見て、また息を飲んだ。
……そこは夥しいほどの煌びやかなドレスがズラッと並べられた衣裳部屋だった。
バイオリン発表会用のドレスを探しに行った時もこんなに色々な種類のドレスを置いているお店は無かった。
「すご……」
呆気に取られて見ている花音にサマンサが尋ねる。
「カノン様はドレスの形ですとか、色には何かご希望がありまして?」
「え? えーと……特にはないので……お任せします……」
謁見用のドレスなんて何を選んだらいいのかさっぱりわからない。
「まあ! お任せくださいますの? では僭越ながらわたくしが選ばせていただきますね!」
サマンサは心なしかウキウキした様子で、衣裳部屋に入っていった。
――数分後、サマンサは一着のドレスを抱えて、花音のいる場所に戻ってきた。
「カノン様に一番お似合いになるのはやっぱりこれですわ!」
「こ……これは!?」
花音は絶句した。
銀糸で細かく芸術的な刺繍を施された、レースたっぷりの純白のドレス。タイトな上半身部分から大げさなほどに大きく広がるスカート……。
それは、花音の感覚ではウェディングドレスにしか見えなかった。
「白は無垢の色。銀は魔法の色。聖女様にピッタリのドレスですわ!」
サマンサは恍惚の表情でほぅ…とため息をつきながら、ドレスを広げる。
「あのぅ……。謁見に白いドレスって問題ないですか? なんか白いドレスは用途が違うとか、そういうコトあったりしませんか?」
念のため、花音がサマンサにおずおずと尋ねるとサマンサは「いいえ!」と力強く答える。
「そんなことありませんわ! ただし、白いドレスは着こなしが難しいですからね。そんじゃそこらの娘が着たところでドレスを着こなせないで笑い者になるのが関の山ですわ」
……へぇ。じゃあ私、笑い者になるんじゃないかなぁ……。
花音はサマンサの勢いに押されて、半笑いで遠い目をする。
「純白のドレスはカノン様の綺麗な黒髪が映えますし、とーってもお似合いになりますから、ご心配なさらずに! さ、急いで着替えないと時間になってしまいますわ!」
そう言って、サマンサは有無を言わせず花音にドレスを着せ始めた。